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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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山火事と植物博士

 さすがに馬車一つで全員乗るのは無理だったので、二つに分けて行くことになった。


 一つ目の馬車には、殿下二人に、お父様、そしてギャレット様。二つ目の馬車には、私とロゼッタ、そしてエミリアにニール様。


 女性三人に囲まれても、ニール様はいつも通りすましていた。


「せっかく女性三人に囲まれたんですから、もう少し喜んでみてはいかがですか?」


「一人は使用人、一人は暗殺者、そして残りの一人はアホ。これで喜べる奴がいたら見てみたいものだな」


「アっ……。ロゼッタは超絶美人との噂ですから、みなが羨ましがりますよ」


「確かに美人なのは認めるが、そういう対象としてみたことはない」


「あんだけ利用しといてひどい言い方ですね」


「少しは黙ってられないのか。気が散る」


「たぶん、アンジェリーク様は緊張されてるんだと思います。ダルクール男爵様とは少しわだかまりがありますし、夫人にいたっては初対面の相手ですから」


「ロゼッタ、余計なこと言わないで」


「アンジェリーク様でも緊張なさるんですね」


「するわよ。エミリアは私をなんだと思ってんの?」


「迷わずジルとルイーズを助けに行かれたので、てっきり鋼の心臓の持ち主かと」


「それを言うならエミリアだってそうじゃない。私はまだロゼッタがいたから強気でいけたけど、エミリアは戦力が何もない状態でついてきたんだから」


「それこそ、お二人がいたから私も強気でいけたのです。一人だったらどうだったか」


「お互い似たもの同士ね」


「ええ、ほんとに」


 そう言って笑い合う。そうしたら、少しだけ肩の力が抜けた。


「あの、この服貸していただいてありがとうございます。ほんとによろしかったのですか?」


「いいの、いいの。さすがにメイド服で行かせるわけにはいかないし、こっちに来てからドレスとかあまり着てなかったから。その服も着てくれる方が喜ぶと思うわ」


 貴族の夫人からお茶会に誘われたのだ。さすがにメイド服や普段着で行くわけにはいかない。ということで、エミリアに私の服を貸している。


 白地に淡いピンク。レースふりふりのものではく、どちらかといえばメイド服のように落ち着いた形。それでも、エミリアが着ると華やかに見えた。


「私、礼儀作法とか知らないんですけど、大丈夫でしょうか?」


「大丈夫です。アンジェリーク様を手本にすれば問題ないかと」


「プレッシャーかけないでよ。胃が痛くなるじゃない」


「今はヴィンセント家の子だからな。失礼のないように。クレマン様の顔に泥を塗るなよ」


「ニール様まで、やーめーてー」


 わざとらしく耳を塞ぐ。すると、エミリアがクスクス笑った。


「シャルクまではどのくらいかかるのですか?」


「馬車でニ時間といったところか」


「ニ時間……」


 あとニ時間もニール様と顔を突き合わせてないといけないなんて。


 ため息をつきつつ窓の外に目をやる。すると、炭と灰になった森が目に飛び込んできた。


「森、燃えちゃいましたね」


「燃えたのは残念だが、これくらいの被害で済んだのは奇跡だ。あの日雨が降らなかったら、被害はもっと甚大だった」


「そうですか」


 あんなに緑が目に眩しかったのに。今は跡形もなく、燃え尽きた木が黒いオブジェのように立ち並んでいるだけ。その寒々しい景色に、私は思わず目を逸らした。


「元に戻るまては時間がかかりそうですね。子ども達も残念がってました。もう森で遊べないのって」


「元に戻す方法ならあります」


 ロゼッタがさらりと言う。その言葉に全員の視線が集まった。


「こんなのどうやって戻すのよ」


「高位の"木"の魔法使いであれば、この森を元に戻すことは可能でしょう。そういう事例も聞いたことがあります」


「木の魔法使い?」


「それは俺も聞いたことがあるぞ。確か、植物博士、だったか。その方が魔法を使って、山火事で燃えてしまった森林を元に戻したという。実際にこの目で見たことはないが、ジゼルさんや領民達が前に話していたから、まったくのデタラメでもないんだろう」


「あ、その話私も聞いたことがあります。今でも山火事を見ると、そのことを思い出すって」


「へえ、そうなんだ。ねえ、ロゼッタ。実際にそんなことってできるの?」


「植物に対して深い知識と理解があれば可能です。ですが、実際そこまでの魔法師がいるかどうか」


「植物博士は?」


「もうご逝去されている」


「そう、ですか。他に森を復活させたことのある人物は?」


「今のところ聞いたことがありません」


「俺もだ」


「そっか」


 その人が生きていれば、この森も元通り復活できたのに。これじゃあ、元に戻るまで何年かかるかわからない。許すまじ、放火犯。


 燃え尽きた森を抜ける。すると、今度は平原と向こうの方に被害に遭わなかった森なんかがちらほら見えた。


「こっちの方にも集落はあるんですか?」


「もちろんだ。規模はそこまで大きくはないが、何個か点在している」


「その割に、あまり畑とかないんですね」


「まあな。土地はいくらでもあるが、人が集まらなければ維持できない。実際、何個か手放されたものもある」


「耕作放棄地、ですか。田舎あるあるですね」


「もっと育てた野菜や食物が他の領地で売買できれば、彼らのモチベーションになって増やそうという動機になるかもしれないが。そのためには、魔物や盗賊達をどうにかするしかない」


「盗賊……」


 パッと頭に浮かんだのは、黒いドラゴンの刺青をした男達だった。嫌なことを思い出し、思わず手をギュッと握りしめる。


 その時だった。馬車がいきなり急停車したのだ。


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