お茶会の誘い
「お前、何してんだ?」
「見てわかりませんか? 庭の手入れをしているんです。私とロゼッタで」
「なんで?」
「うちに庭師がいませんから。せめてお茶を飲む周辺くらいは、綺麗にしておきたいんです。これは私のワガママですから、手入れは自分達でやろうかと」
「それに。これはこれで足腰を鍛えられますから。今のアンジェリーク様にはちょうど良い運動かと」
「ふーん。で、なぜそんなに距離を取る」
ラインハルト殿下が眉間にシワを寄せる。それもそのはずで、彼の姿を見つけた瞬間、私は素早くロゼッタの後ろに隠れていた。
「ご自身の胸に聞いてみてはいかがですか?」
「あー、そうか。俺を意識してるってことか」
「そうですね、敵として非常に意識しています。あんな辱めを受けた相手を警戒するのは、ごく自然なことだと思いますが」
敵を前にした猫のように威嚇してみる。すると、ラインハルト殿下は肩をすくませ、レインハルト殿下は楽しそうにクククッと笑った。
お姫様抱っこされた時のことを思い出すと、顔から火が出るほど恥ずかしくなる……ほど、私は乙女ではない。それよりも、いとも簡単に抱っこされてしまったという屈辱の方が勝っていた。しかも、あんな大勢の前で。あれは絶対恥ずかしがる私を見て楽しんでいたに違いないのだ。こんなに悔しいことはない。
「それで。殿下達どころか、ニール様まで私に何かご用ですか? 確か、今日はお父様と一緒にダルクール男爵家を訪問する予定でしたよね」
ニール様にそう確認してみる。彼は眼鏡を一度クイッと持ち上げつつ頷いた。
「実は、先方がお前とロゼッタにも来て欲しいと言ってきた」
「私とロゼッタも?」
「あと、エミリアもね。自身が雇った傭兵を回復魔法で治してくれたことを、直接感謝したいんだって」
レインハルト殿下がそう付け加える。つまり、女性三人追加ということか。
「どうして私とロゼッタが呼ばれたのでしょう? まさか、今回の一件で私の噂がさらに悪化したことで、ヴィンセント家の養子を取りやめろと直談判されるおつもりなのでしょうか」
真剣に聞いてみる。すると、ニール様はぷっと吹き出した。
「面白い解釈だな。だが、それはお前の誤解だ。ダルクール男爵には、今回の事の次第を殿下やクレマン様が直接お話されている。そのおかげで向こうもお前の養子入りには反対していない」
「では、何故?」
「夫人がお前に会いたがっているそうだ。噂の極悪令嬢に興味津々らしいぞ」
ラインハルト殿下がクククっと可笑しそうに笑う。こいつ、一発ぶん殴りたい。
「ですが、わざわざ"ロゼッタも"と付け加えなくても、彼女は私の護衛として必然的について来ます。それなのにご指名とは」
「実は、今回の訪問は連日続いた放火について話し合うためだ。そこで、放火の可能性にいち早く気付いた彼女の意見が聞きたいらしい」
「なるほど。そういうことでしたか」
「お前の体調次第とは言ってあるから、無理はしなくてもいいが。どうする?」
改めてニール様に言われて、私は一度考え込んだ。
べつに体調的には問題ない。こうして草取りできているくらいだから。
正直ダルクール男爵には苦手意識があるけれど、誘われているのに義娘の私が断るのはお父様にご迷惑がかかりそうだし。それに、放火のことについての話は私も聞いてみたい。
でも、夫人と一緒にお茶するのはなぁ。礼儀作法とか自信ないから、失礼なことしちゃいそう。そしたら、噂の極悪令嬢は礼儀がなってないとかいう噂がたつんだろうな。ヴィンセント家のみんなとお茶するのとは違って、堅苦しそうであんまり行きたくない。けど……。
「なんだ、どうした?」
「たぶん、何か悪巧みを考えていらっしゃるのでしょう」
「悪巧み?」
「彼女の得意技です。殿下達もお気を付けください」
待って。エミリアも行くのよね。これって彼女のパトロンを増やすチャンスなんじゃない?
彼女は、ダルクール男爵の雇った傭兵を癒して感謝されている。つまり、平民とはいえ好感度は高い。エミリアがこの先社交界へ出るかもしれないと考えた時、女の嫉妬ほど怖いものはないから、私だけでは守りきれないかもしれない。そう考えたら、味方は多い方が良い。うん、絶対そうだ。ここで上手く夫人を味方につけよう。
「わかりました。ご一緒させていただきます」
「答えが出るまで長かったな。何を考えてたんだ?」
「べつに。何も企んではいませんよ」
「ほう。聞きもしないのに企んではいないという回答か。それは結構」
「嫌味な言い方、どうもありがとうございます」
ニール様にいーっと白い歯を見せる。そのまま、私は目の前の雑草を引っこ抜いた。




