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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第三章 二人の王子と極悪令嬢

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ストップ! 山火事

 翌日。私とロゼッタは身体を動かすために外へ出ていた。


「まだ寝ていてもよろしいのではないですか? 今無理をすると傷口に障ります」


「大丈夫よ、散歩くらい。それに、ここ最近ずっと寝てるかお屋敷の中を彷徨くだけだったから、身体が鈍って仕方ないの。今日は天気も良いし、身体の調子も良いんだから。少しくらい大目に見てよ」


「まあ、体力的なことを考えたら、これくらい良いのかもしれませんが」


「そうそう。それに、お屋敷に缶詰め状態だと気分も滅入るし。自由って素晴らしいわ」


「本音はそちらではないですか?」


「あ、バレた?」


 悪びれる様子もなく笑ってみる。すると、ロゼッタはため息をついた。


 今ここに王子達や兵士達はいない。みんな、森に出た魔物を討伐するために、自警団員とお父様と一緒に出かけたからだ。なんでも、お父様に指導を仰いだとか。ちなみに、今回はジルも初めて参加したらしい。


「私も魔物の討伐に参加したかったなぁ。お父様の指揮するお姿をこの目で見たかった」


「ご冗談を。これ以上私の心労を増やさないでください」


「わかってるわよ。だから大人しくここに残ったんじゃない」


「それにしても、また魔物ですか」


「でも、今回山火事は起きてないでしょ? やっぱりあの噂を流したのは効果があったのよ」


「そのようですね」






 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―






 それはまだ婚約パーティーの前。私が目を覚ましてからそんなに日が経っていない頃。


 お見舞いに来ていた王子二人とエミリア、そしてニール様がいる時に山火事の話になった。


「なに? あの山火事は事故ではなく、人為的なものだというのか」


「つまり、放火の疑いがあると?」


「ええ、おそらく」


 ラインハルト殿下とレインハルト殿下に放火の疑いがあるとロゼッタが打ち明けると、二人は一様に驚いていた。ただ一人、ニール様だけが神妙な顔つきで頷く。


「やはりそうか。一回目の山火事で領民達はみな火の扱いには慎重になっていた。それなのにこう立て続けに起こっているからおかしいと思っていたんだ。しかもその山火事は、魔物が街へ移動するよう誘導するように起きていた」


「まさか、俺達を狙っていたのか」


「いえ、その可能性は低いでしょう。その証拠に、一回目の山火事は殿下達が来る前に起きています。向こうにとっても、殿下達がカルツィオーネに来るのは予想外だったはずです」


 ロゼッタの説明にニール様も頷く。


「では、いったい誰を……」


「狙いは街……いや、ヴィンセント家のお屋敷」


「もっと言えば、たぶん私でしょうね」


 自嘲気味に笑ってみる。殿下達とエミリアは驚きに目を見開き、ロゼッタとニール様は同時に頷いて肯定を示した。


「どうしてお前が狙われている?」


「私、こう見えてモテるので」


「はぐらかすな」


「もしかして、ロイヤー子爵家の方達ですか?」


 エミリアが恐る恐る口を開く。しかし、私は肯定も否定もしなかった。その理由をロゼッタが解説する。


「今の段階でそう決めつけるのはよくありません。変な言いがかりだと騒がれたら、それこそアンジェリーク様の悪評が増えるだけです」


「それに、それはクレマン様にもいきかねない。社交界での立場が悪くなれば、クレマン様を快く思っていない一部の人間達の思うツボだ。もしかしたら、それも狙いの一つかもしれん」


「今の段階では愉快犯ということも十分考えられるし、私やクレマン様のことを快く思っていない他の貴族の仕業とも考えられる。もし誰か特定の人物を糾弾するのなら、確固たる証拠を握ってから、ってことね」


「そんな……っ」


 本当に厄介な案件だ。直接私を狙っていない分、ただの山火事だと言い逃れはいくらでもできる。もしかしたら、本当に愉快犯の仕業かもしれないし、他の貴族の誰かかもしれない。


「もし、この問題を解決する方法があるとしたら、放火の犯人を捕まえて口を割らせることだけど……」


「難しいだろうな。愉快犯ならまだしも、どこかの貴族が差し向けた相手なら、主人に疑いの目が行く前に自決するか、主人によって処刑されるだろう」


「口封じってことか」


「その通りです」


「主人のために働いたのに、その主人に殺されるなんて。従者ってのは辛い立場よね」


「仕える主人によるでしょう。クレマン様のように良い主人であれば問題ありませんが、中には従者を人とも思っていない貴族がいるのも事実です。自分で選んだのならまだしも、そうせざるをえなかった者達には確かに同情します」


「珍しい。ロゼッタが他人に同情するなんて」


「べつに。私も、アンジェリーク様という自ら死地に飛び込んでいくような無鉄砲な主人に付き従っていますから。その苦労が身にしみて理解できるというだけです」


「はあ?」


 私が解せないという表情で睨みつけると、殿下達やエミリアがクスクス笑った。どうやら、みんなもそう思っているらしい。


 ニール様はというと、一度咳払いをして話を戻した。


「だが、どうしたものか。こう山火事が続いていては、みなが安心して生活できない。せめて山火事だけでも防げたらいいんだが……」


「その方法ならありますよ」


 さらりと答えると、みんな「え?」と口を揃えた。


「放火犯のことを無視して山火事だけ止めればいいんですよね?」


「あ、ああ、そうだが……」


「ねえ、エミリア。ミネさんとヨネさんを呼んできて」


「お二人をですか?」


「そう。その二人に一肌脱いでもらうの」


 フッと笑う。みんなはわからないと言いたげに小首を傾げていた。そんな様子が面白い。


「お二人に何をさせるつもりですか?」


「あの二人の持つメイドネットワークを利用して、ある噂を流してもらうの」


『噂?』


「カルツィオーネで頻発して起きた山火事が原因で、王子達は瀕死の重傷を負った。周りに火の気が無かったことから、山火事の原因は放火と断定。最初ドラクロワ家の末裔の関与が疑われたが、王子達と国王軍が拘束している最中にも火事が発生したため、彼女は無実と判明。今現在、国王陛下は血眼になって犯人を探している」


「……本気でそんな噂を流すのか」


「はい。殿下達が山火事のせいで魔物に襲われ重傷を負ったのは、もはや周知の事実。これを利用して相手を揺さぶるのです。さすがに国王陛下に睨まれたくはないでしょうから、放火犯、もしくはそれを操っていた黒幕は何かしらのアクションを起こしてくるはずです」


「しかし、本当にそれで放火はなくなるだろうか」


「いえ、レインハルト殿下。なかなか面白い方法だと思います。実際に殿下達はヴィンセント家へ滞在しているのですから、そこのメイドがその話を漏れ聞いたとなれば信憑性も上がる。そうなれば、いつ自分達に陛下の目がいくかわからないという不安が生まれます。それは十分抑止力になる。試してみる価値はあるかと」


「しかし、私が無実というところは必要なのですか?」


「必要よ。火を使ったのは、もしかしたらロゼッタを犯人に仕立て上げようとしたのかもしれないしね。陛下と遺恨のあるドラクロワ家は、隠れ蓑にするにはもってこいの人物だもの。そうすれば私にまた一つ悪い噂が追加される」


「なるほど」


 ロゼッタとエミリアが納得したと頷く。そして、エミリアはミネさんとヨネさんを呼びに行ってくれた。


「よくも私の大好きなカルツィオーネを危険に晒してくれたわね、放火犯。噂の怖さを、その身をもって教えてあげるわ」


 ケケケっと悪どい顔で笑う。すると、ラインハルト殿下が合いの手を入れてくれた。


「いよ、極悪令嬢!」


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