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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第三章 二人の王子と極悪令嬢

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お父様

「なっ……このまま俺がここにいたら目障りだろう」


「ええ、目障りですよ。ですが、ここまでひどいことをしておいて、なんの償いもせず逃げるなんて、そんな卑怯なことはさせません。もし償う気持ちがあるのなら、あなた様はここへ残り、ヴィンセント家とカルツィオーネのために生涯その身を捧げ、今まで通り馬車馬のように働くべきです。というか、ヴィンセント家の者として私はそれ以外認めない」


「お前……」


「このタイミングで真実をお話しになるということは、元より婚約が上手くいけばすべてを打ち明けて立ち去る予定だったのでしょう? でも、残念でした。私は性格が悪いので、そんな楽は許しません。ニール様はクレマン様のおそばにいるべきです。もっと言えば、あなた様もヴィンセント家の養子になるべきです」


「はあ?」


「私は女性ですから、この国の制度では辺境伯を受け継ぐことはできません。かといって、婿を取るにしても、私は傷物であり、みなが引くほどの悪評も付いている。こんな令嬢を嫁に欲しいと手を挙げる勇敢な殿方は現れないでしょう。結局、私がヴィンセント家の養子になったところで、この家の危機は変わらないのです。であるならば、あなた様が養子になり、クレマン様の後を引き継ぐべきです」


 一気に喋ったので、一旦口の中を潤そうと紅茶を口に運ぶ。しかし、そのタイミングで、ニール様がとんでもないことを口走った。


「……それはつまり、お前と結婚しろ、ということか?」


「ぶっ」


 ありえない疑問に、思わず紅茶を吹き出してしまった。ロゼッタが「はしたない」と冷静にたしなめる。


「バカじゃないですか!? 今の話のどこをどうしたらニール様と私が結婚する流れになるんですか!」


「はあ!? 養子になれとか、婿はこないとか、それを総合的に判断したら、責任取って俺とお前が結婚して俺が後を継ぐべきだと、そう言ってるようなもんだろうが!」


「ありえないです! 私とニール様が結婚? 気持ち悪いこと言わないでくださいよ。誰がこんな陰険腹黒堅物なんかと結婚するかっての。ニール様と結婚なんて、たとえ天地がひっくり返ってもありえませんから!」


「ああ、そうか。奇遇だな、俺もそう思ってたところだ。こんな自由奔放でアホみたいに後先考えず暴れ回る、迷惑しか振りまかないじゃじゃ馬令嬢と結婚など、金輪際ありえない!」


「はあ!?」


「なんだよ!?」


「お二人とも、兄妹ゲンカはやめてください」


『兄妹じゃない!』


 ロゼッタの言葉に同時にツッコミを入れて睨み合う。すると、横から豪快な笑い声があがった。もちろん、笑っているのはクレマン様だった。


「ははっ! まったく、君達は……っ。一旦紅茶でも飲んで落ち着きなさい」


 クレマン様にそう促され、私とニール様は渋々紅茶を飲む。冷めた紅茶は、それでも甘い良い香りがして、頭に上った血を下ろすにはちょうど良かった。


「私もアンジェリークの意見に賛成だ。ニール、君にもヴィンセント家の養子になってほしい。後継ぎ云々は抜きにして、これは妻と私の総意だよ。本当は、もうずいぶん前から私達は君を本当の子どものように思っていた。だから、同情とか抜きにして本気で考えてほしい」


「クレマン様……」


「そうですよ。ニール様はもう奥様とクレマン様二人の愛情をたっぷり受けたのですから、今度は政略的に養子になってください。そのかわり、今度は私が純粋な娘としてクレマン様から愛情をいただきますから」


「ずいぶんと偉そうな物言いだな、おい」


「だって、今は私の方が立場的に優位ですから」


「ニール様、アンジェリーク様に対して罪の意識を持つだけ無駄です。アンジェリーク様はこういう方ですから」


「そうだな。こいつに謝罪したのがバカバカしく思えてきた」


 ふん、とニール様がいつもの調子を取り戻す。そして、視線をティーカップの中に落とした。


「……養子の件、少し考える時間をください。クレマン様が同情で言っていないことはわかっています。ただ、自分の中のけじめの問題です。なるか、ならないか。じっくり考えさせてください」


 そう言って、ニール様は真っ直ぐにクレマン様の目を射抜く。その真剣さは伝わったようで、クレマン様がゆっくり頷いた。


「これで一件落着ですね」


「ほんとよ。これで本当に心置きなくここで暮らせるわ」


 んーっ、と伸びをしてみる。すると、そんな油断しきった私に、クレマン様から鋭い指摘が入った。


「ところでアンジェリーク。君はいったいいつになったら私への呼び方を改めるのかね?」


「え?」


 一瞬、何を言われているのかわからなかった。呼び方と指摘されたので、その箇所を思い出してみる。すると、クレマン様が言いたいことがわかってしまった。


「あの、えっと、それは……っ」


 クレマン様はニコニコと私の回答を待っている。ダメだ、今ここで改めないと、ずっとこのまま粘られる気がする。


 クレマン様の様子からそう感じとり、私は観念して口を開いた。


「以後気を付けます……お父様」


「結構」


 嬉しそうにクレマン様が微笑む。私は顔の火照りを隠すように、慌てて紅茶を一口すすった。


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