真相2
「……それはつまり、私の馬車の事故は、ニール様とロゼッタが仕組んだもの、ということですか?」
「そうだ」
ニール様とロゼッタが、神妙な顔つきで頷く。あまりの衝撃的な真実に、私は身体の震えが止まらなかった。
私の受難は、すべてあの馬車の事故から始まっている。それが、ニール様とロゼッタの二人が仕組んだことだったなんて。
「ニール、お前……っ」
クレマン様が唖然とした表情でニール様を睨みつける。その様子を見るに、どうやらクレマン様はこの事実を知らなかったようだ。
「その時の私は、まだ伯爵夫人から暗殺依頼を受ける前でしたから。ニール様へのご恩もありましたし、それ以上にそれがヴィンセント家のためになるのならと、すすんで引き受けました。そして、狙い通りアンジェリーク様は肩に傷を負い、婚約も破棄になった」
「狙い通り、ね……。もしかして、一人暮らしの地としてカルツィオーネを推したのもそのせい?」
「それもありますが、ふと私の頭に浮かんだのがそこだったというのもあります。ただ、クレマン様に手紙を出すことをレンス伯に止められたというのはウソです。あくまでアンジェリーク様はクレマン様の花嫁候補としてヴィンセント家へ行く必要がありましたから」
「つまり、あんたが意図的に止めてたってことね。どうりで偶然にしてはできすぎてるなーと思ったのよ。私がローレンス家を出てカルツィオーネに行きたいと思っていたら、そのタイミングでヴィンセント家から花嫁候補として来て欲しいという手紙が来るだなんて。すべては仕組まれていたことだと考えれば辻褄が合う」
ふーっ、と長いため息をつく。そして、心を落ち着かせるために天井を仰いだ。
場が水を打ったかのように静かになる。クレマン様も、難しい顔をして腕組みをしていた。
頭と心の中が混乱していて、何も考えられない。あまりにも理不尽なこの仕打ちに、心が悲鳴をあげて泣き叫びたくなる。全部お前達のせいだったのかと。実際、気を抜くと泣き崩れてしまいそうだった。
どうすればいい? いったい私はどう受け止めれば、この激情を手なずけることができる?
そう動揺している中、紅茶を一口含む。すると、外から子ども達の声が聞こえてきた。思わず立ち上がって窓の外を覗き込む。山火事と魔物に襲われるという怖い体験をした後でも、子ども達はまるで何事もなかったかのように無邪気にお屋敷の庭で楽しそうに遊んでいた。その姿を見ていると、自然と頬が緩んでくる。
そっか、そうだよね。
「ねえ、ロゼッタ。ニール様の計画にすすんで加担していたのに、どうして継母の暗殺依頼を受けたの?」
「それは……」
ロゼッタが言葉に詰まる。私はゆっくりと席に戻った。そして、ロゼッタに目だけで訴える。もう大丈夫だと。
「あの時の私は、アンジェリーク様のおそばにいたいと思うようになっていました。それと同時に、あなた様に裏切られることを極度に恐れていた。そんな折、一回目の暗殺に失敗して躍起になっていた夫人が、どこからか私の噂を聞きつけ、アンジェリーク様の暗殺を依頼してきたのです。このまま残酷な期待を持ち続けるくらいなら、もういっそ殺して楽になりたい。そう思い、私はその依頼を引き受けました」
「ニール様の計画を破綻させてでも?」
「もちろん、ニール様やヴィンセント家のことも考えました。ヴィンセント家の将来を思うのなら、アンジェリーク様を生かしておくべきだと。それでも、頭ではわかっていても、心が言うことを聞きませんでした。怖い、苦しい、早く楽になりたい、と」
ロゼッタが胸を押さえながら声を絞り出す。その言葉にウソ偽りはない。私にはわかる。
「そっか」
言われていることは理不尽なのに、どうしてか紅茶に映る私の顔は微笑んでいた。そんな私を、クレマン様が訝しむ。
「どうして笑っている?」
「いえ、嬉しいんですよ。早く殺して楽になりたいと思うくらい、ロゼッタは私のこと大好きだったんだなーって。そう思ったらつい。まったく、可愛い奴です」
「……本気で言ってるのか? だとしたらお前の感覚は異常だぞ」
「そうかもしれませんね。でも、ロゼッタも私がこんな風に笑って許してくれるって思ったからこそ、すべて話してくれたんだと思います。そうよね?」
「その通りです。アンジェリーク様なら、この程度の話で取り乱したり、怒ったりはしないだろうと」
「この程度って……」
「結局、暗殺は失敗しました。そのことも含めて随時ニール様に報告し、ヴィンセント家から正式にローレンス家へ手紙が届くのを待った」
「そっか、初めてヴィンセント家へ行った時、初対面なのにニール様が私の事情に詳しかったのは、すべて事前にロゼッタが報告していたからなのね」
「はい。以上が事の次第になります」
ロゼッタが話をしめる。そこで初めて紅茶をすすった。そして、ニール様が私に頭を下げた。
「こんな姑息な真似をして、お前を傷付け、お前の人生をめちゃくちゃにして申し訳なかった。この罪は許されるとは思っていない。だから、俺はここを出て行く」
「ニール! ……本気か?」
「はい。ヴィンセント家に養子も入りましたし、もう私は必要ないでしょう。それに、アンジェリークだって私がいたら落ち着かないでしょうし。そうだろう? さすがのお前だって、こんな仕打ちは許せないだろ」
「ええ、許せませんよ」
「だろうな」
そう苦笑してニール様が席を立とうとする。そんな彼に私は言葉を続けた。
「このままここを離れるなんて許しません」




