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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第三章 二人の王子と極悪令嬢

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コチョコチョと恥じらいと私のワガママ

「あー! 何しに来たんですかっ」


「お、その声は極悪令嬢。なんだいたのか」


「お黙りなさい、ラインハルト殿下。今日は領民だけのパーティーですよ。殿下達はお呼びじゃないんですけど」


「クレマンに聞いたら参加しても良いと言われたんだ。俺らは立派な招待客だよ」


「クレマン様を使うとは卑怯ですよ、レインハルト殿下。そんなお祝いに来たとか言って、ほんとはまた私を断罪しに来たんじゃないんですか?」


『はあ?』


「そうはさせませんよ! 孤児院の子ども達、あの殿下達から私を守ってちょうだい」


 言われた子ども達はキョトンとしている。


「……どうやって守るの?」


「殿下達にしがみついて、コチョコチョを食らわせてやりなさい。一番殿下達を笑わせた子には、ココットさん特製のスペシャルケーキをあげる」


『ほんとっ!?』


「ほんと、ほんと。極悪令嬢ウソつかない」


「アンジェリーク様、一体何を……っ」


「しっ、エミリア。黙ってないと面倒に巻き込まれますよ」


 ロゼッタにそう言われ、エミリアが慌てて口を塞ぐ。


「でも、大丈夫? 僕達牢屋に入れられたりしない?」


「しない、しない。そうですよね、レインハルト殿下、ラインハルト殿下」


「ああ、そんなことはしないよ。そんなことをしたら、逆に俺達が国王陛下に怒られてしまう」


「さっきも言ったろ? 今日は無礼講だって。笑わせられるもんなら笑わせてみろ」


「だって。大丈夫、万が一牢屋に入れられても、私が必ず助けに行くから」


「ほんと?」


「本当よ。全責任は私が取るわ。さあ行け、勇敢なる子ども達よ。殿下達を腹がよじれるくらい笑わせてやりなさい!」


『はーい!』


 私の号令の元、孤児院の子ども達が殿下達へと一斉に向かう。そして身体にしがみつくと、言いつけ通りコチョコチョをし始めた。


「ははははははっ! こそぐった……っ」


「そこ、やめ……はははっ」


 ラインハルト殿下もレインハルト殿下も、子ども達のくすぐり攻撃に手も足も出ないらしい。そのうちに、楽しそうにみえたのか、孤児ではない子ども達も一緒になって殿下達をくすぐり始めた。もうもみくちゃだ。


 そんな子ども達の攻撃にただ笑い転げるだけの殿下達を見て、次第に領民達からも笑いが起こる。そして、大きな笑いの波が起こった後で、やっとその攻撃は終わった。


「し、死ぬかと思った……っ」


「極悪令嬢、恐るべし……っ」


 殿下達は、もうヘトヘトになっている。威厳なんてあったもんじゃない。


 それは領民達にも伝わったのだろう。いつの間にか彼らの肩の力も抜けて、みんなと同じように殿下達に接するようになっていた。


「よし、みんなありがとう。どうやら今回は全員勝者らしいから、参加してくれたみんなにスペシャルケーキをあげるね」


 そう言ってココットさんに目配せをする。すると、彼女は親指を立てて応えてくれた。そのまま、彼女は子ども達を呼ぶ。すると、みんな目を輝かせながら、一目散にココットさんの所へと走っていった。


 やれやれ、とロゼッタの手を借りて椅子に座る。すると、もみくちゃにされた殿下達二人が、疲れた顔でこちらへ歩いてきていた。


「子どもを使うとは、卑怯なやり方だな」


「でも、おかげで少しだけみんなに馴染めたよ。ありがとう」


「いーえ。べつに殿下達のためにやったことではありませんから」


 ぷいっとそっぽを向く。エミリアがクスクス笑っていた。


「お腹の傷はもう大丈夫なのか?」


「痛み止めの薬を飲みましたからそこまでは。ただ、一人では歩くのもままならないので、今はこうして座っています」


「せめて、もう少し傷が癒えてからにすればいいのに」


「みんなにご心配をおかけしましたから。早く元気な姿を見せて安心させたかったんです。文句があるなら帰ってくださいよ」


「やなこった。せっかく来たんだ、たっぷり堪能させてもらうぞ」


 ラインハルト殿下の目の前で、堂々と舌打ちしてみせる。すると、そんな私の態度にイライラを募らせたのは、後ろにいるギャレット様だった。


「貴様、殿下の前でその態度はなんだ。切り捨てられたいのか」


「だって、殿下達がおっしゃったのですよ? 今日は無礼講だから気にするなと。ここで私が過度に殿下達に気を使えば、領民達はまた萎縮してしまいます。ですから、ここはわざと自然体で接しているんですよ」


「ものは言いようですね。さっきまで殿下達を"あいつら"呼ばわりされてたくせに」


「ロゼッタうるさい」


「相変わらず失礼な奴だな。元気そうで安心したよ」


「それはどうも」


 ラインハルト殿下がフッと笑う。すると、レインハルト殿下が私の頭に載っている花冠に気付いた。


「それはどうしたんだ?」


「ああ、これはついさっき孤児院の子ども達がくれたんです。そうよね、エミリア」


「はい。たぶん、あの子達なりにお祝いしてるんだと思います。昨日みんな張り切ってましたから」


「そうか、良い子達なんだな」


「はい! ちょっとやんちゃだったり騒がしかったりするんですけど、根は優しい良い子達ばかりなんですよ。これは、ジゼルさんが変わらずみんなに愛情を注いでくれているからだと思います」


「ジゼルさんだけじゃなくて、エミリアのおかげでもあると思うよ。みんながエミリアを慕ってるってことは、それだけあなたが子ども達に愛情を注いで接していたからだと思うし」


「俺もそう思う。山火事で助けに行った時、俺の言葉より、エミリアが屋敷で待ってるからってアンジェリークが言った途端、子ども達が安堵した表情を見せていた。それだけ信頼されてるってことは、それ相応のことをしないとできるもんじゃない」


「私なんてそんな……っ」


「謙遜は、時として嫌味にも聞こえます。ここは素直に受け取る方が賢明ですよ」


「ロゼッタさんまで……。あ、ありがとう、ございます」


 エミリアが頬を赤くしながら頭を下げる。それだけで彼女の純粋さが伝わってくる気がした。


「あーあ、珍しくラインハルト殿下と意見が合っちゃった。不吉な予感」


「また騒ぎ起こして、クレマンから婚約破棄されたりしてな」


「冗談よしてくださいよ。婚約破棄なんて一回で十分です」


『え?』


 驚くみんなの先、クレマン様がこちらを見ていた。たぶん殿下達のことが気になったのだろう。その後で私と目が合うと、フッと笑みをこぼした。


 あまりの不意打ちに、思わず頬が熱くなる。なんだか恥ずかしくなって、私は机の下に顔を隠した。そんな私を、ロゼッタがめざとく見つける。


「初めて見る反応です。もっとよく見せてください」


「んげっ」


 ロゼッタによって、元の位置に強制的に戻される。頬の熱は未だそのままだ。


「アンジェリーク様でも恥じらうことはあるんですね」


「……なに、この羞恥プレイ。断罪よりも辛いんだけどっ」


「クレマン様と目が合っただけで恥じらうなんて。アンジェリーク様は本当にクレマン様のことがお好きなのですね」


「好きは好きだけど……恋愛感情の好きとはちょっと違うというか」


「先ほど目が合っただけで頬を赤く染めたのに?」


「それは、婚約したことで妙に意識しちゃってるだけ。それに、クレマン様は奥様のことを深く愛していらっしゃるから。私が入り込む余地はないし、割って入りたくもないのよね」


「だったら、どうして婚約の話が出た時断らなかった?」


 ラインハルト殿下にそう質問され、私は一瞬言葉に詰まった。


「……クレマン様と家族になりたかったから、ですかね。でも、それは妻としてではなく、どちらかというと……」


 ふと、ダークウルフを初めて一人で倒した時のことを思い出す。ボロ雑巾のような私を抱きしめてくれたクレマン様の温もりが蘇ってきた。


 私は両手をギュッと握りしめる。


「……やめましょう、この話は。きっとこれ以上を望むのは贅沢なんです。だから私は、クレマン様の妻として生きる覚悟を決めます」


 ふうっと息を吐く。すると、ロゼッタがポンと肩に手を置いてくれた。


「なんとなくですが、アンジェリーク様が何を望んでいらっしゃるのか、わかる気がします。だからこそ、うやむやな気持ちのままご結婚されるより、一度クレマン様ときちんとお話されてみてはいかがですか? あなた様のお気持ちを、きちんとクレマン様にお伝えするのです。覚悟を決めるのはその後でもよろしいかと」


「私の気持ちを……」


 この芽生えた気持ちを、クレマン様に伝えてもいいのだろうか。


 だってこれは私のワガママで、極悪令嬢なんて言われる女、奥様だって許してくれるかわからない。


「殿下、ご挨拶が遅れました」


 領民達の輪から抜け出したクレマン様が、殿下達にご挨拶に来る。すると、ラインハルト殿下がクレマン様へと立ちはだかった。


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