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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第三章 二人の王子と極悪令嬢

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もう、いいんですよ

 どれくらい二人でいたんだろう。一時間? それとも二時間?


 結局、お互いずっと話していて寝ることはなかった。


「え、それ本当?」


「はい。うわ言のように色々話されていらっしゃいましたよ。アニメの録画? とか、漫画の発売日? とか」


「うわぁ……人間、死にそうになったら本能に忠実なのね」


「どういう意味なのですか?」


「どういう、と聞かれてもなあ……。あ、教えたくないとかじゃなくて、どう説明したらいいかわかんないだけだから。こっちの世界で当てはめるには、どんな表現を使えばいいかなぁと……」


 寝ながらアゴに手を当てて考えてみる。すると、その手をロゼッタが掴んだ。


「私の知らない言葉をあなた様の口から聞く度、このまま元いた世界へ戻られるのではないかと不安でした」


「そうなの?」


「ええ。ですが最後に、小説書かなきゃ、というセリフを聞いて少し安心しました。この方は、物語のゴールであるエミリアとレインハルト殿下を婚約させるまでは絶対死なないだろうと」


「まあ、そのために無茶やってきたからね」


「クレマン様ではございませんが、本当に心臓がいくつあっても足りません。まあ、今回はその怪我のせいで、しばらくは大人しくせざるをえないでしょうが」


「せっかく身体鍛え始めたばかりなのに。また一からやり直しか。辛いなぁ」


「自業自得です」


「わかってるわよ。お引っ越しも、せめてこのお腹の傷が癒えるまではできないだろうし。またみんなに迷惑かけちゃう」


「自業自得です」


「……わかってるわよ。そうだ、ベランダまで連れてってよ。気分転換に外の景色みたい」


「大人しくするつもりは無さそうですね」


「暇なのが嫌なだけよ」


 ロゼッタが、ゆっくり私の上半身を起こす。痛みはあったけど、自分で起きようとした時よりかは痛くなかった。


「ねえ、あれ何?」


 寝ている時は見えなかったけれど。部屋のテーブルの上に、お花で作った冠や、木の実で作ったネックレス等が置いてあった。


「ああ、これは孤児院の子達が作った物です。アンジェリーク様が早く良くなりますようにと願掛けしたそうですよ」


「そうなんだ。なんか、ほんとに悪いことしちゃったな」


「そう思うのなら、早く元気になっていつも通りのアンジェリーク様に戻ることです。今無茶をして悪化なんてしたら、それこそ孤児院の子達は悲しみますから」


「わかってるわよ。ある程度傷が治るまでは大人しくしてる……つもりです」


「さっそく意思がブレてますが?」


「いいから、ベーラーンーダーっ」


「はいはい」


 ため息をつきつつ、ロゼッタが私を背負おうとする。


 その時。扉をノックする音が聞こえた。「どうぞ」と答えた後部屋に入ってきたのは、ミネさんとヨネさんだった。


「アンジェリーク様! ああ、良かった。目覚められたのですね」


「本当に心配しましたよ。でも、ご無事でなによりでした」


 そう言って、二人は珍しく私に抱きついてきた。それだけで、どれだけ心配かけたのかがわかる。


「ミネさん、ヨネさん。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」


「そうですねぇ。今回はとびきり心配しました。旦那様も大層心配されて」


「あんなお顔を拝見したのは、奥様が亡くなった時以来でしたわ」


「そう、でしたか。じゃあ、クレマン様にも謝りに行かないと」


「歩けませんよね。お手伝いいたしましょうか?」


「いえ、大丈夫です。ロゼッタがいますし。それに、みなさんを頼りすぎると、みなさんが周りから何を言われるかわかりませんから。なるべくご迷惑はおかけしないようにします」


 すると、二人が私の肩にポンと手を添えた。


『もう、いいんですよ』


「え?」


 どういう意味だろう。そう思いロゼッタへと視線を向ける。彼女もわからないようだった。


「我々についてきていただけませんか?」


「会わせたい方々がいるんです」


「はあ」


 私に会わせたい人? 誰だろう。しかも複数形なんて。


 とりあえず、ついて行ってみなければわからない。そう思い、ロゼッタにお願いしておんぶしてもらった。それを確認して、ミネヨネさんは歩き出す。


「実は、お二人に謝らなければいけないことがあるんです」


「私達に?」


「ええ。本当は私達、殿下達が来る前から、ロゼッタさんが暗殺者だと存じ上げていたんですよ」


『えっ……』


 ミネヨネさんの予想外の告白に、私もロゼッタも驚きに言葉を詰まらせた。


「どうして知っていたんですか?」


「アンジェリーク様がここへ来た翌日の早朝に、旦那様の部屋へ行かれたでしょう? あの時の会話を偶然耳にしてしまいまして」


「えぇっ?」


「悪気は無かったのですが、一度聞き始めたら気になってしまって。悪いとは思いながら、つい」


「ロゼッタ気付かなかったの?」


「正直わかりません。ただ、アンジェリーク様がお部屋にいなかったので、気が急いていたというのはありますが」


「あらあら」


「うふふっ」


 二人はいつもみたいに朗らかに笑う。


 さっき扉の前の人の気配で跳ね起きたロゼッタが、この二人の気配に気付かないなんて。この二人の盗み聞きスキル半端ないんですけど。


「最初聞いた時は驚きました。もしかしたら旦那様を狙っているのか、はたまた別の目的があるのか。そうやって警戒していたのですが」


「お二人と接していくうちに、その誤解は解けていきました。この方達は、ただ純粋に今を生きているだけなのだと。お互いを大切に思いやっているだけなのだと思い知らされたからです」


「お互いを……」


「大切に……」


 廊下を渡りきり、玄関へと続く階段を下りる。そこで異変に気付いた。


 あれ? 今日はなんだか屋敷の中が静かな気がする。というか、エミリアとかルイーズとか、人の気配がしない。


「エミリアから聞きました。山火事で取り残されたジルとルイーズを助けに行かれたのですよね? それでお二人とも生死を彷徨うほどの大怪我を負った」


「そんなお二人が、国王陛下へ謀反を企てるなんて考えられません」


 階段を下りきり、ついに玄関扉の前まで来る。そして、ミネさんとヨネさんはドアノブに手をかけた。


『だから、私達はあなた方お二人を信じることに決めました』


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