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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第一章 暗殺者と伯爵令嬢

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魔物襲撃と作者特権

「アンジェリーク……俺は……」


「うわぁっ!」


 突然、男性の悲鳴がレオ様の言葉を遮った。彼が慌てて御者に声をかける。


「おい、どうした!」


「魔物です! 魔物が……うわぁっ!」


「魔物?」


 そう呟いた瞬間、馬車が大きく揺れ、私とレオ様は外に投げ出された。


「大丈夫か、アンジェリーク」


「……はい、私はなんとか」


 レオ様が私に駆け寄ってきて、肩を貸して立ち上がらせる。その二人の目の前にいたのは、翼の生えた漆黒の魔物だった。


「あ……っ」


 これが魔物。馬車を覆うような大きい体躯に、無数の小刀が並んでいるような鋭い歯、そして獲物を探す獰猛な目。


 あまりの恐怖に、私は金縛りにあったかのように動けなくなってしまった。


「くそっ」


 レオ様はというと、馬車から落ちた剣を拾い、動かない私の腕を掴んで走り出す。


 そこは森だった。いつの間にか街外れまで来ていたらしい。


 明かりのない森は薄暗いが、月明かりがそこかしこの枝の間から差し込んでくれているお陰で、なんとか足元は見えていた。


 魔物は狩りを楽しむかのように、木々の間をすり抜けながら私達の後を追っている。


 素人の私でもわかる。明らかにこちらが不利だ。きっと、レオ様もそう感じたのだろう。


「アンジェリークはそこへ隠れていろ」


 足を止めて、私を背にして魔物に向けて剣を構える。


「安心しろ。君は何があっても俺が守る」


「レオ様……」


 そう言って、レオ様は勇敢にも魔物へと向かっていった。


「はあぁぁ!」


 振り下ろした剣は、しかし魔物の爪に当たり弾かれる。


 何度も剣を振り回すが、空を切るか弾かれるだけ。はたから見たらまるで遊ばれているようにしか見えない。


「うあっ」


 そのうち、魔物の尻尾がレオ様を襲う。なんとか剣で防いだけれど、受け止めてきれず、彼は後方に吹き飛ばされてしまった。


「レオ様!」


 駆け寄って声をかけるが、返事はない。どうやら気を失ってしまったらしい。


 振り返れば、目の前まで魔物が来ていた。


 これはさすがにマズイな……。


 過去のアンジェリークに、剣の心得はない。絶対絶命の大ピンチ。


 こんなことなら、魔物なんか物語に出すんじゃなかった。


 少年漫画みたいな熱いバトルも嫌いじゃないから、という軽いノリで魔物を登場させてしまったけれど。物語の登場人物からしたらいい迷惑なんだということが、今身にしみてわかった。


 私なら絶対文句言う。「おい、作者! ふざけんな!」って。


 魔物が口を開ける。すると、そこにいくつもの火が集結。それは炎となり、わたしに向かって飛び出してきた。


 魔法だ!


 私は咄嗟にレオ様を庇うように覆い被さる。


 せっかく自作小説の中に転生して、小説を完結させようと思っていたのに。こんなところで死んでしまうなんて。そんなの絶対やだ!


 衝撃に備え目をつむる。


 ………………。


「……あれ?」


 衝撃がこない。確かに炎の玉がこっちにきていたのに。


 何が起こったのかわからない。


 それは魔物も思ったようで、もう一度口を開けて魔法を紡ぐ。そして私に向けて炎を放った。


 今度はちゃんと目を開けていたので見えた。


 炎が私に当たる直前、見えない何かに当たったかのように魔法が砕け散ったのだ。


「何、今の」


 魔法が消えた? 私に当たる前に?


「もしかして、魔法が効かない……?」


 魔物が悔しそうに鳴き声を上げる。そして、今度は複数の炎の玉を出して私めがけて放つ。しかし、やはりそれらは私に当たる直前で消えてしまった。


「やっぱり、私には魔法が効かないんだ」


 これはまさか、いわゆるチート能力というやつか。つまり、作者特権!


「神様ありがとう!」


 いや、この小説の中の神は私か。


 さすが、私。ただのモブキャラにもこんな能力を付与させているなんて。もしかしたら、魔法も使えたりして。しかも、とんでもなく強い魔法。


 そう思ったら、目の前の魔物が怖くなくなった。


「よくも追い回してくれたわね。覚悟しなさい」


 私は右手を出し、そして自信満々に言い放つ。


「いでよ、炎!」


 これでものすごい勢いの炎が出てきて、魔物を一瞬でやっつけられるはず。


 そう思っていたんだけれど。


「………………あれ?」


 何も出てこない。すごい炎どころか、マッチレベルの火ですら現れない。魔物の羽ばたく音だけが妙に響いている。


「もしかして、魔法は使えないの?」


 思わず魔物に聞いてみる。すると、一際大きな声で鳴かれた。


「ちょっと、ウソでしょぉぉ!」


 なんで魔法は効かないのに、魔法は使えないのよ!


 チート能力って、もっと無敵なものなんじゃないの? しょせん、モブキャラってこんなもん? 作者特権どこいった!


 心の中で精一杯叫んでみる。その間に、魔物はその鉤爪を私に向けてきた。どうやら、魔法は諦めて物理攻撃にシフトしたらしい。


 これはもうほんとにダメだ。やられる!

 そう覚悟した時だった。


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