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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第三章 二人の王子と極悪令嬢

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ジルとルイーズ発見

「ロゼッタ、どうしたの?」


「これは……」


 彼女からの返答がなかなか返ってこない。背中をひょいと避けて前を見る。そこには、土の氷柱達でできた小さな要塞がポツンと存在していた。その隆起した地面の先には、串刺しにされ絶命したダークウルフの亡骸がある。視認できただけで五匹。


「うっ……、ひっく……っ」


 要塞の中から声がする。これはルイーズの声だ。


「ルイーズ! 無事? 助けに来たよ」


 私の呼びかけに、しかしルイーズは答えない。近付いて隆起している地面の間から中を覗けば、ルイーズは泣いているようだった。どうやらエミリアもそれに気付いたらしい。


「ルイーズ! 助けに来たよ」


「エミリア、お姉、ちゃん……?」


 エミリアの声にルイーズが反応した。


「アンジェリーク様とロゼッタさんの三人で助けに来たの。もう大丈夫よ」


「エミリアお姉ちゃん!」


 ルイーズはそう叫ぶと、エミリアへと駆け寄ってくる。しかし、編み込むように隆起した地面のせいで抱きしめることができない。


 ざっとルイーズの身体を見てみる。腕や脚に所々傷はあるけれど、どれも擦り傷程度で深くなさそうだ。ひとまず、ホッと胸を撫で下ろす。


「ねえ、ジルは? ジルは無事なの?」


「ジ、ル……は……」


 急激にルイーズの声のトーンが下がった。何があったのかと、三人で中の様子を伺う。すると、要塞の真ん中、小さな血溜まりの中で仰向けに倒れているジルを見つけた。


「ジル!」


 エミリアが何度もジルの名前を呼ぶが、彼はピクリとも動かない。まさか、という考えが三人の脳裏をよぎる。


「まさか、死んでるんじゃ……」


 思わず口をついて出た。それがいけなかった。


「死んでない……ジルは死んでなんかない!」


 ルイーズが悲痛な叫び声をあげる。すると、まるで大地がそれに呼応するかのように大きく揺れた。その後で周囲の地面が隆起し、土の氷柱が生えまくる。


「危ない!」


 咄嗟にエミリアを庇う。その時は避けられたけれど、私の横で地面が蠢いているのを確認。これが筍のように伸びてきたら、まず間違いなくここで絶命しているダークウルフと同じ末路。


 ヤバイ、避けられない!


「アンジェリーク様!」


 ロゼッタが反応良く私を庇う。しかし、その時隆起した地面の尖った先が、彼女の左脇腹を掠めていった。


「ロゼッタ! 大丈夫っ?」


「……はい……っ」


 地面の隆起が収まる。落ち着いて見ると、ロゼッタの左脇腹から大量の血が流れていた。彼女は一旦脇腹を押さえて片膝をつく。


 こんなロゼッタ初めて見た。掠めただけだと思っていたけど、これじゃあ抉り取られたと表現した方がピッタリくる。これはかなり重傷かもしれない。


 エミリアもそう思ったらしく、慌ててロゼッタの元へ駆けつける。


「私が治癒します」


「必要、ありません……」


「どうしてですかっ」


「……ジルがまだ、息をしているからです」


 エミリアと二人、「えっ?」と声を上げる。ジルをよく見ると、確かに僅かだが胸が上下に動いていた。


「一晩経ってある程度魔力が回復したとはいえ、昨日の激しい使い込みのせいで、そこまで多くは残っていないのでしょう? でしたら、あなたの今ある魔力すべてを使って、ジルを完治させなさい。私には、必要ありません……」


「ですがっ」


「必要ないと言っているでしょう!」


 珍しくロゼッタが声を荒げた。そのまま剣を杖代わりにして立ち上がる。そして、一度深呼吸をした後でルイーズへと鋭い視線を向けた。


「ルイーズ、この魔法を解きなさい。でないと、エミリアがジルの所へ行けません」


「わからない……解き方がわからないんです。どうやったらいいか、私……っ」


「落ち着きなさい。まずは深呼吸して魔力を……」


「私が全部悪いんです。国王陛下に会いに行こうなんてジルに言っちゃったから。ジルは優しいから一緒についてきてくれて。そしたらこんなことに……っ」


「ルイーズ、いいから私の話を聞きなさい」


「もう、いいんです。ジルが死んじゃうのは私のせいなんです。ジルがいなくなったら、私独りぼっちになっちゃう。そんなの耐えられない。だからもう、放っておいてください」


「何言ってるの、ルイーズ! そんなことできるわけないでしょう」


「いいから放っておいて!」


 エミリアの言葉を弾き飛ばすかのように、ルイーズは悲痛な叫び声をあげる。すると、再び大きな地震が起きた。この流れだとまた地面が隆起する。


「いい加減にしなさい!」


 ロゼッタの怒号が飛んだ。直後、身体全体から炎の鞭みたいなものが複数本出現する。それはヘビのように伸びては隆起する地面をことごとく壊していく。そしてそのまま、二人のいる小さな要塞をも壊した。


「エミリアはジルの治療を」


「は、はい!」


 ロゼッタの指示に、エミリアは弾かれたようにジルの元へと走っていく。そして魔法を紡ぎ始めた。それを確認して、ロゼッタがルイーズへと歩み寄る。そして、突然彼女の左頬を叩いた。


「あなたは、何をしているのですか?」


「……え?」


「ただ泣き叫んでいても、事態は一向によくなりません。だったら、生きるために今自分にできることは何なのか、冷静になって考えなさい。少なくとも、アンジェリーク様はヤニスや盗賊達に捕まった時、あなたのように泣き叫んではいませんでしたよ。必死になって生きるために何をすればいいのか、考えて実行しておられました」


「アンジェリーク様が……?」


「ええ。あなたにもできるはずです。特にあなたには、魔法という強力な武器がある。あなたは、その力を何に使いたいのですか?」


「この力を……何に……」


 ふと、ルイーズが回復魔法を受けているジルを一瞥する。それを確認すると、彼女は服の袖で涙を拭った。


「私は、ジルを……誰かを守るために力を使いたいです。ジルが私にそうしてくれたように」


 それまでの不安定なルイーズがウソかのような、強い意志の込もった目。ロゼッタもそれを感じとったらしかった。


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