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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第三章 二人の王子と極悪令嬢

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諦めたい人は諦めればいい

 手にしたバケツを持ち上げる。そして、私は中の水を被った。冷たい水が火照った身体に染み渡る。


「ロゼッタ、行くわよ」


 濡れたまま、城門目指して歩き出す。ロゼッタはというと、すぐには答えなかったけれど、私が本気だと悟ると「はい」と短く答えてついてきてくれた。


 そんな私達をニール様が食い止める。


「おい、どこへ行く。まさか、ジルとルイーズを探しに行く気じゃないだろうな?」


「そのまさかです。今からロゼッタと一緒に二人を助けに行きます」


「お前はバカか! 今の話を聞いていなかったのか? 今ここを出て探しに行くのは自殺行為だ。せめて、もう少し場が落ち着いてからにしろ」


「それはいつの話ですか? 一時間後? 半日後? それとも一日経ってから?」


「それは……っ」


「そんな悠長なことを言っていては、二人を助けることはできません。生存率の高い今のうちに探しに行くべきです」


「冷静になれ! これ以上犠牲者を増やすのは得策じゃない。お前が死んだらクレマン様が悲しむ」


「だから、二人を見殺しにしろっていうんですか?」


 冷めた声でニール様だけでなく、ここにいる全員に問いかける。当然、誰も何も答えられなかった。


「ジルとルイーズがこうなったのは、私のせいなんです。私が殿下達に対して感情的にならず、もっと上手く立ち振る舞えていれば、彼らは国王陛下に直訴しようなんて考えなかった。だから、これはすべて私の責任なんです。その責任はきちんと果たします」


 浅はかだった。感情だけで動いて、そのせいで周りがどう動くかなんて考えもしないで。


 もっと注意深く二人を見ておけばよかった。今回みたいな無茶をする片鱗は見えていたはずなのに。それを私が見落とした。この罪は重い。


「諦めたい人は諦めればいい。それを責めるつもりはありません。ですが、それを私に押し付けるのだけはやめていただきたい。私はもう嫌なんです、自分なんかにできっこないって言い訳して諦めるの。その結果がどれだけ悲惨だったか知ってしまったから」


 だからこそ、今までずっと自分の好きなように生きてきた。無茶だとロゼッタに怒られても、周りからどう思われようとも、自分のしたいように自由に動いてきた。


 だから、今回もそうさせてもらう。誰も私を止めさせたりはしない。


「おい」


 ラインハルト殿下が呼びかける。そしてそのままこう続けた。


「死ぬぞ」


 低く重い声と険しい目つき。彼の真剣さが伝わってくる。だからこそ、私は不敵に笑ってやった。


「私は死にませんよ。だって、私には人類最強の護衛がついてますから。そうよね、ロゼッタ」


「アンジェリーク様……」


「何があっても、私を守ってくれるんでしょう?」


 優しく微笑みかける。すると、ロゼッタの顔が一段と引き締まった。


「もちろんです。あなた様はこの命に代えても必ずやお守りいたします」


「ありがとう」


 そう微笑んだ直後、大地が大きく揺れた。


「これは地震かっ」


「結構大きいぞ!」


 立っているのがやっとというくらいの大きな地震。アンジェリークの記憶では、地震大国の日本とは違い、この世界で地震が起きるのは珍しい。ということは。


「ロゼッタ、これってまさか……っ」


「ええ、たぶんルイーズの魔法でしょう。しかも、ここまで大きいとなると暴走している可能性が高い」


「何にしても、生きてるってことよね。急ぎましょう!」


 地震が収まったのを見計らって、私とロゼッタは走り出す。もう背後から呼び止める声は聞こえてこなかった。


「ロゼッタごめんね、また無茶に巻き込んじゃった」


「今さらですね。あなた様が無茶をなさるのは承知の上です。それに、前にも申し上げましたが、ここまできたらとことん頼ってください。遠慮されたら逆に腹が立ちます」


「どうしよう、ロゼッタが優しい」


「いつも通りです。それに、二人を助けたいという気持ちはあなた様と一緒ですから」


「そっか」


 なんというか、同じ気持ちだったのが嬉しい。二人を助けに行きたいって。ロゼッタも諦めていなかったんだ。


「あのね、私がいつも無茶できるのは、ロゼッタのおかげなんだよ」


「私の?」


「うん。たとえ何があってもロゼッタは私を守ってくれるって、そう信じてるから私は自分のしたいように動けるの。今回みたいにね。だから、いつもそばにいてくれてありがとう。そして、これからもよろしくね」


「……いきなりやめてください。まるでお別れの言葉みたいじゃないですか」


「今言いたくなったから言っただけよ。照れるな、照れるな」


「照れてなどおりません」


 ロゼッタがふいと視線を逸らす。今回は走っているからか照れ隠しはしてこなかった。


 二人で門の前まで走る。そして、門番に事情を説明すると「無茶だ!」と声を揃えて止められてしまった。


「無茶は承知です。別に門を全開にしろなんて言いません。人一人通れるくらいでいいんです。私達が出た後はすぐに閉めてもらって構いませんから」


「しかし……っ」


「なんなら、このロゼッタが門周辺の魔物を一掃しますから。それに、クレマン様には止められませんでしたよ?」


 切り札のクレマン様を発動させる。すると、門番二人は困惑しながらも頷いてくれた。


 門がゆっくり開き、ロゼッタと私が順番に外に出る。確かに、数えるのが億劫になるくらいのダークウルフが私達を待ち構えていた。


「さて、行きますか」


「ええ」


 いざまさに走ろうとした、その時。


「お、おい! ちょっと待て!」


 背後で門番の慌てた声が聞こえた。その後で門の閉まる音が続く。


 何かあったんだろうか。そう思い振り返る。


 すると、その視線の先には、門の外に出ているエミリアの姿があった。


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