2:コリン(ゲスト出演)
※独自設定一部入ります。ご了承ください。
それは、みんなのお待ちかね、かの元βテスター、猫耳和服のあの娘である。
「こんにちわー!
はい、なんと!元βテスターの私、コリンが!
なんとなんと、ブレスキ実況配信界にいっよいっよ降臨だにゃー!!
みーんなっ、待っててくれたかなー?」
するとチャット民は、わかりやすく態度を軟化させるのだ。
コリンも猫属性のあざとさを最大限に活かして、魅せている。
『コリンちゃんキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!』
『猫耳ロリっ子 ktkr!!?』
チャット民のリアクションについては、予定調和だ。シルは怪訝に眉を寄せたなら、冷ややかな瞳でコリンの方へ向く。
「むむっ、なんとあざといかなッ……」
「しるこさん、私ゲストなんですけど。
そんなこと言っちゃっていいんですか???」
「ごめんなさいコリン様。
足の裏舐めますから許して」
「そういうこと言ってるから変な客層を招くんですよ」
「じゃあ耳を舐めます」
「理屈が飛躍してませんっ、いま話聞いてましたか!?
――それと耳はらめぇ!!!!!」
開幕しょっぱから道化を演じ出すシルとコリン。
「おい、お前ら!
『キマシタワー』とか、書いてるの!
もろに見えてるからな!!?」
自身の猫耳と脚を引っ込めて、コリンはツンとした怒号をあげる。
シルもそろそろ冷静になったようだ。
「ねぇその耳、モフりたいんですけど」
……否、彼女はまだ興奮していた。
「ナチュラルにハラスメントしようとしないでください、しるこさん!
それより今日の司会はどうしたんですか!?」
「あぁ……とそうでしたそうでした」
遠く虚無を見つめていたシルの目に、ようやく正気が戻ってくる。
「しょっぱから盛り上がってまいりましたー、え?
『しるこが盛ってたのがわるい』って?
『イチャイチャしやがって』
『しるっころ』
『しるっころワロタ』
なんかまた変なあだ名増えたァ!?犬っころとシルが掛け合わされちゃったのかなこれは。
で、あとは?
『しるこそこ代われ』っ……」
「おっとぉ?」
シルが急に苦い顔で固まり、肩をふるわせる。
コリンは彼女のリアクション待ちだ。
「コリンさん、くれぐれもうちのチャンネル乗っ取らないでくださいね?」
涙目で怯えている。
(回線乗っ取りをした伝説の誰かさんの影がチラついているなぁー、これは)
コリンは彼女に手加減はする用意はあった。
「そういえばしるこちゃんさんが、昔に上げた動画、またあらためて見てきたんです。
武装結界にやられた回の!」
「我がチャンネル始まって以来、一番観られたアレっすか――まぁ、あれしかないとも言う。
コリンさん、隠れサディストですねぇ。人の古傷どんどん抉ってくやーつ」
シルはどうやらコリンという人物を素直に好きになれそうもなくなっていた。
「そうですか?
でも今日一番お話したかったのも、そこなんですよ。
あの魔王――いやもはやラスボス――私のこともプレイヤーバトルでワンキルでしたからね。
因みにしるこちゃんさんて」
「あっその呼び方でもう固定なんですね」
「掲示板は、ご覧になってますか」
「ゼーハーゼーハー……!」
が、シルの様子がおかしい。肩で息をつかせ、胸を押さえている。
「まってしるこちゃんさん大丈夫ですか、意識ありますか!?」
なんとか、時間をおかずにシルは復活することができた。
「えぇ、大丈夫。
このネタで弄られるのもう慣れてますから大丈夫です。
問題はそれだけのお家芸とか思われてる節が――」
「そうですか?
そんなことないと思いますけど、よしよし」
過呼吸を起こしたシルの背中を、コリンは優しくさすってあげる。
「ほら、みんなもしるこちゃんさんのこと、応援してくれてますよ」
「どーせチャット民なんぞ碌でもな――あっ?」
シルは憔悴しながら受動的な朗読を行う。
「『シル公はコリンちゃんにコラボで弄られるという名誉の戦死遂げたのでゆるせる』……それコリンさんへの反応じゃないですか。
『はよコリンちゃんの乳〇をこりんこりんせーや』
おい待てそれは性的な意味で垢BAN喰らうから自重しろよ。
『おまえの自重の基準が行方不明』?
知るかボケ……」
憔悴しながらも、配信を続行する胆力を見せるシル。
「なるべくその話になりたくなかったというか、ぶっちゃけ避けたかったんだけど、やっぱりみんなが読みたいのかの魔王サマのお話よねぇ?」
シルはここでカメラに向かって、人の悪い笑いを見せる。
「掲示板はアンチがキッついので読まないようにしてたけど、どうせあのひとのことで話題が尽きないものね?」
「間違いない……」
コリンは腕を自分の和装の胸の前に組んで、うんうんと頷いている。
「それにしても」
ふっとコリンは微笑むと、続ける。
「しるこちゃんさんがこうして会うと思ったより良識人でほっとしましたー」
「と、言うと?」
「私、今まで言ってなかったけど、プレイヤーキラーって、大嫌いなんですー」
「お、おう……なんか。
えーと。
ほんとに、すいませんでした!」
シルは謝罪を迫られたことを本能的に察するとカメラの下に消えた。Webカメラはそのまま、自動で平伏する彼女の背中を追っている。
「いえいえー、別にしるこちゃんさんに怒ってるわけじゃ、まったくないんですよ。
でもねー、私ー。
β時代にパーティ組んでたひとに一度背中刺されたことがありまして」
「おぅ……」
「本格稼働の初日もせーーーーーっかく、引き継いでた、アカウントの獲得経験値の20%、開幕それで見事に吹っ飛んで……」
今度はコリンが肩口を震わせだしている。
「わたしβテスターなはずなのにっ!
かんっぜんに不憫系アイドル扱いですよわれ!!?
ほんと、背中刺すやつ、いやァ!!?
とかいいつつ、この前は魔王の背中とることしか考えてなかったけど、いやァ!!
プレイヤーキラーは須らく焼く!
焼いたるぞぉらぁあああああ!!!!!」
「ひぃ……!?」
シルはコリンの迫真にやや引く。
コリンはやがて冷徹に言葉を紡ぎ出す。
「ぐらいにィ思っててー、ぶっちゃけ、しるこちゃんさんのチャンネル、お呼ばれしてお邪魔するってなったときも、最初は断ろうと思ってたんですよー」
「お、お心変わりのわけは?」
「これまで雑魚呼ばわりされてましたけど、もう逃げないって決めたので。
今度は仕留める側に回ろうって、絶対、プレイヤーキラーなんて序の口ですよ……!」
「――っ」
やばい、この人眼がガチだ。シルはコリンの顔色を伺いつつ、そろそろ逃げ出したくなってきた。
(これだから他人を自分のチャンネルに呼ぶとろくなことがない!)
絶望しそうになるが、なんとか気力を振り絞って、シルは立ち上がる。
「宣戦布告、ですか?」
コリンの意志を、慎重に確かめに行く。
返事は、彼女の予想していたより、穏当なものだった。
「VRMMOで女の子同士出会うこともなかなか少ないので、しるこちゃんさんとは仲良くさせていただきたいなぁって――お汁粉みたいで美味しそうな名前ですよね、いやそのまんま、か」
「もしかして、『しるこ』がユーザーネームだとか本気で思ってませんよね? ……ねぇ?」
そんな女子トークは、司会者が制御し切れぬままに混沌へと突き進んでいくのであった――。
――お読みいただきありがとうございます!