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4 魔術の望まぬ魔術師



 美也たちはファイにただついていっただけだったが、ある距離に近付いて自分でも気付いた。魔術師の反応が二人。一人はエレナ、もう一人はルーベニックだ。

 ルーベニックは魔具によって魔術刻印を隠すようなことはしていなかった。二人の周りにはそういった魔術師もいるかもしれないが。


「ずいぶん街から遠ざけられたな」


「街の中心で暴れられるよりは全然ましだよ」


「そうかもな」


 二人は雲の中を魔術で通って向かっていた。雲の中なら一般人に見られることはない。空を人が飛んでいるように見られたら大事になるからだ。

 二人の反応があったのは丘の頂上付近。林の中だ。その近くで二人は降り、そこからは走って向かった。


「開け」


 戦闘準備として、刀を抜いておいた。向こうからアッキヌフォートの矢が飛んできても防ぐためだ。

 走っている間も矢が飛んでくることもなく、罠が仕掛けられている様子もなかった。走って着いた先にいた人間は三人。エレナ、ルーベニック、そして知らない男。銃を両手に持っていることから、傭兵だと推測した。美也たちとファイが着いても、魔具を外す様子がなかったからだ。

 エレナの格好が手足を縛られている状態だったからか、ファイが奥歯を噛み、目が鋭くなっていた。殺気立ったファイを牽制するかのように、ルーベニックが口を開いた。


「ようこそ、エルリア君。夏目君かな?どっちでもいいか。君という人を待っていたんだから」


「ルーベニック。お前の目的は何だ?魔術による抗争でも起こしてぇのか?」


「それは別にどうでもいい。俺の行動の結果そうなったら、それはそれでしょうがないことだと自分の中で割り切ってる」


「ずいぶん自分勝手だなぁ?じゃあ、お前は何でこんなバカなことをしたんだ?」


「答えなくても、その内わかる」


 そう言ってルーベニックは手に持っていた白い弓を構えた。矢を持っていなかったのだが、どこからか矢が現れ、それが放たれた。

 美也はファイの前方に立ち、刀で白い塊となった矢を受け止めた。昨日の時点で受け止められるのは確認済みだ。

 昨日と威力が変わらなかったのか、少し時間がかかったが白い塊を消すことができ、矢だけが美也たちの前に落ちた。


「お、おい!巻き込むとか言っておいて、あっさり受け止められてるじゃないか⁉」


「これ、オレには効かねぇぞ?無駄なことやめろよ。さっさと監獄に戻してやる」


「はっ。ハハハハハハ!」


 味方であるはずの男の言葉にも、敵である美也の言葉にも返さず、ルーベニックはひとりでに笑い始めた。その場にいる他の人間誰もルーベニックの奇行を理解できなかった。


「……おい、ボス。大丈夫か?何か不味いもんでも喰ったのか?」


「いや、大丈夫だ。井実祐太の実例を聞いて、昨日の試し撃ちを感じて、今目の前で見て確信した!俺の願いはやっと叶う!」


「その願いってやつはオレが叶えるのかよ?他力本願だな」


 美也は刀を左手で持ち、左肩で支えるように持ちながら呆れた。願いが何かわからないが、ことによったら頼めば叶えたかもしれない。だが、今となっては遅かった。


「他力本願じゃないと叶わない願いなんだ。俺だと叶えられないのさ」


「何?オレじゃねぇと叶わねぇっていうのか?」


「ああ、そうだ」


「……どいつもこいつもオレに押し付けんじゃねぇよ。どうせオレは、……偽者なんだから」


 偽者、という単語は声に出ていたか分からない程小さなつぶやきだった。その言葉を聞いて、体の内側で宗谷が胸を痛めていた。偽者と美也が言う理由を知っているからだ。


「ファイ。ルーベニックはオレがやる。お前はあの傭兵っぽいのと戦ってくれ。ついでに家族を助ければいいだろ?」


「家族を助ける方が主だけどね」


「ま、そうだな。とにかく頼むぞ」


 美也が刀をルーベニックに向けるのとほぼ同時に、ファイが魔術によって生み出した双銃を男へと向けていた。ナイフを武器として使っていると言っていたが、魔術で作り上げた武器で主にナイフで戦うという意味だったのだ。

 美也は距離を詰めるために一気に突っ込んだ。その前にルーベニックが矢を放ったため、そこまで距離を縮められないまま足止めされてしまった。一本目を消し終わると、二本目が放たれる。その繰り返しで、最初に走った分しか進めていない。

 埒が明かなかったので、目の前の塊を消したのと同時に真上へ魔術で飛び上がった。空を利用して近付こうとしたが、魔術師として動きは感知されてしまう。すぐに空にいる美也たちに向かって矢が放たれた。


「逃げても無駄だ!」


「ッ!これを狙ってたんだよ!」


 美也は受け止めることなく、川を流れる葉のように矢を受け流していた。今までは周りに配慮して打ち消してきたが、空なら避けても被害が出ることはない。周りの空に飛んでいるものがないのは確認済みだ。

 必中の矢と呼ばれるアッキヌフォートでも、受け流してしまえば追跡してくることはなかった。矢が使用者の手に戻ってくるという伝承の方が正しかったようで、上空から近付いたのだが、矢が再び放たれた。

 矢を避けきり、アッキヌフォート目掛けて刀を振ったがすんでのところで避けられてしまった。それで諦めることなく何度か振ったが、林という地形を利用されて避けられてしまった。その頃には次の矢を用意していて、振り出しに戻っていた。




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