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4 魔術の望まぬ魔術師



「よくやった。だがすぐに追手が来る。戦う支度をしておけ」


「俺、魔術師と戦ったことないんだけど……」


「いつも通りでいい。人間ってことに変わりはない」


 男二人が話しているのは林の少し開けた場所。近くに黒い車が置いてあり、その近くの木にエレナが寄っかかっていた。何かの薬で眠らされているのか、目を開かず小さな寝息を立てていた。手にはしっかり手錠がはめられている。両足は縄で縛られていた。


「魔術師ってある程度離れたら感知できなくなるんじゃなかったっけ?」


「魔具も魔術を帯びている。それを魔術として感知することもできる。あと、創り主なら結構離れていても感知できるんだ」


「その創り主が場所を感知して、魔術師連れてくるってことか?俺ら二人しかいないんだぜ?ボス」


「普通の魔術師なら、これで十分撃退できる」


 そう言って耳に何もつけていない男、ルーベニックが掲げた白い木でできた弓はアッキヌフォート。神器と呼ばれる武器であり、神器一つで魔術師数百人分の戦力になると言われる。それだけ強力であるから、どの組織も管理をしっかりしている。


「あ、本当にトラップ仕掛けなくていいのか?その方が撃退しやすいと思うんだが……。待ちに入ったなら常套手段だぜ?」


「この弓でトラップ破壊したら俺たちにも被害が出る。それほどこの弓は危険なんだ」


「……巻き込むなよ?」


「気を付ける」


 男は金で雇われているとはいえ、巻き込まれるのは勘弁だった。傭兵なのだから、自分のミスや技量不足で死ぬのなら仕方がない。だが周りのミスに巻き込まれたり、仲間の攻撃で死ぬのは嫌なのだ。


「しっかし、あんな子供が魔術師か……」


「魔術師は血統だからな。見た目じゃ判断できない。あの少女はいつ頃目覚める?」


「そろそろじゃないか?あんまり効き目が長くない奴ってオーダーだったからな」


 ルーベニックはエレナの前に立ち、何度か揺さぶってみた。少し揺さぶり続けると、少しずつまぶたが開いていった。


「んっ……?」


「お目覚めですか?お嬢さん」


「……最悪な目覚めよ。ルーベニック」


「それは失礼いたしました。私の名前を知っていただいているとは、光栄です」


 ルーベニックはわざと恭しく話した。その態度に違和感があったのか、エレナはため息をつきながら片目を閉じた。


「捕らえる人間を間違えてない?あたし、お嬢様でも何でもないけど」


「いえいえ、間違っていませんよ。桜ヶ丘亜希を狙ったわけではありませんから。でしょう?エレナ・スウェットさん」


「……じゃあ何?あたしを狙っていたの?」


「はい」


 快くうなずいたルーベニックを見て、余計違和感があった。狙われる理由がまるでわからないのだ。


「あ、今特別な理由があるとか思いました?実はローマ法王の血縁者とか、あなた自身が知らない特別な力があるとか、エデンへ通じる鍵があなた自身とか」


「思ってないけど……。純粋に疑問に思ったこと聞いていい?エデンに行くための鍵が魔術師ってどういうこと?」


「そういうこともあるかもしれないってことです。神器ではないのかもしれない。だって、エデンに続く鍵が見当たらないのだから」


「……そうかもね。エデンなんて必要ないけど」


「おや、私と同じ意見なのですね」


 戦争促進派であるルーベニックから信じられない言葉が発せられた。ローマに言いがかりをつけて戦争をしようとしている魔術師が、エデンなんて必要ないという意見と同じだと。

 戦争をしようなんて考える魔術師が考えることはエデンで埋め尽くされている。それなのにエデンのことを考えずに戦争を起こそうとしている。

 ただ争いが好きな魔術師なのかと思ったが、目の前の魔術師はそうは見えない。ルーベニックの言葉が信じられず、エレナは疑惑の目を向け続けた。


「おかしいことですかね?エデンを信じない魔術師がいることが」


「別に?実際あたしがそうだから。あたしを狙った理由は?一人になったローマの魔術師だったら誰でも良かったの?」


「八割方正解です。が、出来る限りあなたを狙いました。そうする理由がきちんとありましたよ」


「……特別な理由、あるじゃない」


「ない、とは言ってませんよ」


 エレナは少し前の会話を思い出して、確かにルーベニック自身は否定していなかったことを確認した。それでも二割程度の理由である。


「亜希の友だちだから?」


「はずれ。答えから程遠いですね」


「それ以外の理由らしい理由、ないけど?」


「あるじゃないですか。エルリア・ディル・スフレッド君と仲が良いでしょう?」


「……誰?」


 知らない名前が出てきて、エレナは純粋に首を傾げた。記憶の中にそんな人物と出会った覚えはなく、仲が良かったとなれば余計だ。


「いるでしょう?金髪碧眼の、あなたのナイト様が」


「……もしかして、夏目さんのこと?」


 金髪碧眼でナイト、という単語に引っかかる人物は夏目宗谷以外にいなかった。仲良くしていると言われても、護衛ついでに遊びに出かけた程度だ。


「ここは日本だから、そちらの名前で通していましたか。その夏目君ですよ。私の目的と呼べるものは」


「ナイトって、階級の話でしょう?あたしだけのナイトじゃないと思うけど?」


「おや、違いましたか?」


(あたしのナイトは、別にいるから……)


 頭の中でその人物のことを思い浮かべたが、助けに来てくれるとは思わなかった。イギリスと抗争を引き起こさないために、場所だけ伝えてあとは宗谷に任せる、それがローマという組織の考え方だ。


「違っても構いませんよ。彼がここに来てくれるなら」


「あなたたちの組織の中で、夏目さんは嫌われているの?それとも個人的な恨み?」


「組織からはどうかわかりません。知っての通り、私は長い間檻の中にいましたから」


「じゃあ、個人的な恨みってこと?自分より年下がナイトになったことへの嫌がらせ?」


「階級になんて気にしませんよ。それに、彼に対して恨みもない」


 階級も気にせず、恨みもない。だが、宗谷に用事がある。ローマを巻き込んでまで会う用事がある。それが何だか、エレナには想像もつかなかった。


「夏目さんを狙う理由は教えてくれるの?」


「今はお教えできません。後々わかりますよ。彼でないとならなかった理由がね」


「その時まであたし、生きているかしら?」


「どうでしょうねぇ。……まもなく二人が到着しますよ」


 二人、という数にエレナは理解できなかった。一人は間違いなく宗谷。なら、もう一人はいったい誰なのか。イギリスからもう一人魔術師が来ていることは知っているが、その男は信用できない。魔術師同士の争いがあっても見逃してきた男だ。

 自分が思い浮かべた人物にエレナは首を振ってまで否定した。来るはずがないと、自分の希望を捨てて、宗谷に助けてもらおうとこれからを想って少女は願った。




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