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幕間1



 暗い場所に鎮座する男がいた。完全に真っ暗ではないのだが、明かりという明かりはない。その男はすることもないのか、ただじっと座っているだけだった。

 その男がいる場所へ近付いてくる足音が聞こえてきた。男にその心当たりはなく、誰が来るのか予想できなかった。だから音の鳴る方を注視していた。暗くて見づらいが、背格好ぐらいは判別ができる。


「助けに来ましたよ」


 その声に、見えた背格好に驚きを隠せなかった。

 声は幼く、見た目も十代前半にしか見えない少女。そんな知り合い、男にはいなかった。また、助けに来たという言葉の意味がわからなかった。


「お前は……誰だ?」


「あなたの仲間だと私は思っています。あなたの力が必要だと聞いて、私がお迎えに上がったということです」


「仲間?力が必要?……そんなこと言った奴は誰だ?」


「これを見れば、わかります」


 少女は袖から手紙を一通出し、男に手渡した。男は受け取り、暗い中必死に文字を読んでいった。全部読み終わり、手紙を床に置いて少女に呆れながら返答した。


「信じられない」


「手紙の内容が、ですか?」


「信じられると思うか?こんな嘘っぱち、誰だって考える。あんたぐらいの少女は利用されがちなんだよ」


「ふふ。もしその内容が真実だったら、あなたはとんだ無礼者ですよ?」


 少女の笑みは暗闇の静けさの中で不気味に響いた。しばらく笑い続けたので、男はその笑いが終わるまで目を閉じていた。


「無礼者でもいいだろ?こんな所にいるんだから」


「……では、その手紙の内容が真実だという証拠に、ここから出して差し上げましょう」


「何?」


「最初に言ったでしょう?助けに来たと」


 二人の間にある鉄格子。それに少女が手をかけ、ポケットから鍵を出して鍵穴に差し込んだ。扉がいとも容易く開き、鉄と鉄が悲鳴を上げるような音がゆっくり響いてから牢屋が解放された。


「あなたは自由です。あることをすれば、ですが」


「お前、何者だよ……?」


「手紙に書いてあった通りですよ?手紙に書いてあることをすれば、あなたは自由になれる。もう誰にも、何にも束縛されない」


「そのために、また魔術を使えっていうんだな?」


 男は右手の平を見た。そこには何もない。実際にあるのはその裏側。男はそれを見るのが怖い。そこにあるものが、何よりも自分を証明するものになっているからだ。


「そうですよ?だってあなたは魔術師ですから。私とあなたは仲間。同族です」


「……仲間じゃないだろ。俺は……」


「私たちは運命共同体ですよ。あなたを脱獄させるのは、イギリスにとってはスキャンダルです。その危険を冒してまで、私はここにいる」


 そう言われても、男は出るどころか立ち上がろうともしなかった。運命共同体とまで言ってくれた少女と顔を合わせようともしない。


「私、ここのじめじめした感じ、嫌いです」


「それは育ちが良いからだ。俺みたいな奴からすれば、ここは居心地がいい。ロンドンの街中は綺麗すぎるんだ」


「レディがここまで言っているのに、動いてくれないのですか?」


「レディって歳じゃないだろ……」


 動きもしない男に嫌気が差したのか、少女の方が強引に男の手を取って立ち上がらせた。たくさんついている鍵の中から一つ選び、男の手首に着いていた手錠を外した。そのまま牢屋の外まで引っ張り、牢屋の扉を閉めてしまった。


「これであなたは脱獄です。もう引き返せませんよ?」


「……そんなに俺の力は必要なのか?赤線なんて他にもいるだろ……」


「今回はあなたが適任だと上層部が判断したのです。それは名誉ではありませんか?汚名挽回のチャンスですよ?」


「頼まれた依頼が終わったら、もうお前たちとは関わらない。魔術師として生きていくなんて御免だ」


 男はそう言って少女が来た方へ歩き出した。少女は頼まれたことの完遂と、男の承諾を得て笑っていた。


「最期でしょうね、あなたが魔術師として生きていくことは……。お仕事、頑張ってください」




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