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魔法競技場でお話しです

「守りに入ったら負けるわ」


 魔法石を使って発現させた障壁魔法の中で、簡単な挨拶の後にシルファさんはそう切り出しました。

 土曜日の午後は魔法競技場を利用する人が多いみたいで、この日も沢山の障壁魔法がグラウンドに並んでいました。それでもまだお昼ご飯を食べている人もいるようで、私たちは練習する場所を探すのに困ることはありませんでした。


「チーム・ライトとの試合のことか?」

「チーム・ライトに対してもそうだけど、ほとんどの相手に言えることよ」

「……それは、どうしてですか?」

「単純に力量差があり過ぎるからだよ」


 私の質問に答えてくれたのは、シイキさんでした。


「本戦に出場する程の実力を持つ相手だと、生半可な防御魔法じゃ時間稼ぎにすらならないからね。予選でやったような、大規模魔法の準備ができるまで凌ぐって戦術はまず取れないんだ」


 そう言われて、私は午前中に観た試合を思い出しました。確かにどちらのチームも、すごい早さですごい魔法を発現させていました。あんな魔法を受けたら、私の防御魔法なんかすぐに破られてしまいます。


「そ、そうですよね。私程度の防御魔法じゃ……」

「あ、ごめん! そういうつもりで言ったわけじゃないんだ。それに防御魔法は僕もそんなに得意じゃないし……」

「二人ともそんなに落ち込むなよ。できないことは仕方ないだろ。俺が言うと開き直りみたいに聞こえるかもしれないけど……」

「いえ、ユートの言う通りよ。自虐しても現状は変わらないわ。私たちは私たちにできることをするだけよ」


 シルファさんの言葉に、私は口を閉じます。


「そしてその私たちにできること、というよりも私たちに取れる有効な戦術というのが、防御を捨てて攻撃することよ」

「それって俺が個人戦でするような戦い方か?」

「まあそんな感じだね。勿論接近戦に持ち込むわけじゃないけど。要するに相手に魔法を使われる前に押し切っちゃうって戦法だよ」

「で、でも、防御をしなかったら、私たちも攻撃されちゃうんじゃ……?」


 予選ではすぐに攻撃してくるチームとも戦いました。その時は防御魔法で攻撃を防ぎましたが、それが無くなるとすると……。


「そうね。仮に相手が同じような速攻を仕掛けてきたら、恐らく相手チームの攻撃はこちらよりも強いでしょうから、光弾同士がぶつかったら相殺さえできずに、一方的に攻撃を受けることになるはずよ」

「それじゃあ……」

「けれど飛んでくる攻撃を全て撃ち落とすなんて芸当、上級生でもまずできることじゃない。運さえよければ、撃ち落とされなかった光弾が相手に当たって倒せる可能性もあるんだ。そうなれば相手の攻撃も少なくなる。まさに攻撃は最大の防御ってやつだね」

「うーん、ただそれ、逆もあり得るわけだろ? 相手の攻撃の方が強いっていうなら、相手を倒すより先にこっちがやられることの方が多くなりそうなんだが」


 ユートさんの言葉に、真っ先に倒される自分の姿がすぐに想像できました。


「だけど相手チームは私たちと違って、完全に防御を捨てきることはできないわ。速攻をするにしても、多くて二人くらいしか攻撃には参加しないはずよ。四対二と考えれば、勝機はあるように思えない?」

「防御を捨てきることはできないって、どうしてそう思うんだ? セシル先輩のチームは全員で攻撃してたぞ」

「リスクが高すぎるのさ。四人での一斉攻撃は序盤の火力こそすごいけれど、相手に凌がれたらまず挽回できない戦法だからね。さっきも言った通り、撃ち落とせなかった相手の魔法でやられちゃうかもしれないし、地力で勝るチームは確実に勝つためにもそんな一か八かの方法なんてとれないってこと」


 言われて思い返してみると、予選で見たセシル先輩たちのチームは、最初のうちに倒せなかったら負けてしまうという印象がありました。


「でも、相手は防御もしているんですよね? だったら、その、私たちが一方的にやられることになりませんか?」

「いいえ、実はそうでもないのよ」

「え?」

「……成程、穴を狙うのか」

「ユート君、正解」


 ユートさんは小さく頷きました。私は話についていけず、シルファさんの顔を窺います。


「確かに相手は、こちらからの攻撃を受けないように、自分たちの周りを防御魔法で囲うわ。けれど攻撃する以上、その攻撃を通すための穴がどうしても必要になるの」

「あ! それが、穴……。でもそこからは、相手の攻撃が出てくるんですよね? 私たちの攻撃も撃ち落とされちゃうんじゃ……」

「一対一じゃ敵わないだろうね。けれどもし、四人の攻撃をそこに集中させることができたら――」

「十分押し返せるってことか」


 確かに、それなら何とかなりそうです。皆さんのお話を聞いているうちに、段々と勝てそうな気持ちが湧いてきます。


「けれど四人の攻撃を一ヶ所に集中させるって、かなり難しいぞ。お互いの魔法がぶつかり合うこともあるだろうし」

「そうだね。そのために攻撃する角度を変えるんだ」

「角度、ですか?」

「一人ひとりを離れた場所に配置するのよ。そうすれば狙いが多少ずれても、相手チームの近くまでは味方の魔法にはぶつからずに攻撃を飛ばせるでしょ? そこまで飛ばせたなら、味方の攻撃よりも相手の攻撃に当たる機会の方がずっと多くなるから、相手の攻撃を押し返すという目的は達せられるわ」


 シルファさんの言葉に、私はゆっくりと頷きます。それはつまり、シルファさんやシイキさんと離れるということです。近くに守ってくれる人がいないということです。それを想像して、私は小さく身震いしました。


「防御魔法を使わないからこその配置だね。そうやって相手の標的を分散させることで、相手が攻撃するための穴を大きくすることも期待できるし、一人当たりの攻撃の密度も減らせる」

「……もし、一人を集中して狙われたら、どうするんですか?」

「その一人は即座に回避行動を。そしてその隙に残った三人、というよりユートが相手の防御を崩すわ」

「俺か?」

「ええ。あなたが近くに居るのなら、相手の攻撃の合間に穴から光弾を放ったり、残った二人の攻撃が集中した箇所にダメ押しの一撃を入れることができるもの。攻撃対象が移動すればそれに応じて穴の位置も変える必要があるでしょうし、そういった防御魔法の動きで生じた歪みを狙ってもいいわね」

「ん、分かった」

「逆にユートが狙われるようなら、その間に私やシイキは大規模魔法の準備ができる。いつ相手の狙いが変わるか分からないから、そこまで大きな魔術式は用意できないけどね」

「けど他の皆と離れてるから多少粗い魔術式でも問題ないだろうし、いつもよりかは早く形成できる自信があるよ」

「またあなたはそんなことを言って。また失敗して逃げ出すんじゃないわよ?」

「はは、分かってるって。……そこまでひどい魔術式は、もう絶対に作らないさ」

「そう。それならいいわ」

「………………」


 やっぱり本戦でも、鍵はユートさんのようです。そのユートさんが狙われても、シルファさんとシイキさんは大規模魔法で援護ができます。

 でも、私は、何もできません。精々相手チームまで届くかどうかの光弾で攻撃することくらいです。

 ……私も、翼が使えたら……。


「フルル、大丈夫か?」

「あ、はい!」


 下げた視線の先に、ユートさんの顔が現れました。私は慌てて顔を上げます。


「……長くなったけど、私たちに合わせて相手も攻撃してきたときは、今言ったような戦い方をするわ。逆に相手が一切攻撃してこなかった場合も、四人全員の攻撃で相手の防御魔法を崩す。相手チームの特徴によっては多少変える部分も出てくるでしょうけれど、基本はこんな感じよ。分かった?」

「はい!」

「うん」

「ああ」


 シルファさん以外の三人で頷きます。それを見たシルファさんも頷きました。


「それじゃあ、今日も張り切って、練習するわよ」

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