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夢に見る光景

 子供の頃、たった一度だけ見た、お父様の戦う姿。

 精霊と力を合わせて、ものすごく大きな魔術式から巨大な白い剣を発現させて、大きな竜を一刀両断にしたお父様の姿は、今でも夢に見る。

 僕もいつか、お父様みたいな魔法使いになるんだ。

 夢を見るたび、幼心に抱いた憧れを思い出す。

 そして目を覚ますたび、現実に引き戻される。

 僕は、何をしているんだろう――?



 ◇ ◇ ◇



「――キ。ちょっとシイキ、聞いてるの?」

「え?」


 顔を上げると、チームメンバーの三人が振り返って僕を見ていた。


「え、じゃないわよ。次は私たちの番なんだから、早く来なさい」

「う、うん! ごめん」


 僕は軽く頬を上げて皆の元に駆けていく。


「大丈夫ですか? 何だか、調子が悪そうに見えましたが……」

「いやいや、そんなことないよ。大丈夫大丈夫」

「そ、そうですか……。ならいいんですけど……」


 笑顔で取り繕うも、フルルに心配させてしまった。参ったな。まさかこんな時に、あの夢のことを思い出すなんて。


「まあ本人が大丈夫だって言ってるんだし大丈夫だろ。な、シイキ」

「うん。ごめんね、気を遣わせちゃって」

「気にすんなよ」

「お喋りはそこまでよ。気を引き締めなさい」


 シルファの言葉に前を向くと、対戦相手の先輩方が並んでいた。三年生のチームだ。それもかなり実力のある。もっと後になってから戦いたかったのに、もうこのチームとだなんて。

 今更ながら緊張を感じるも、逆にここで勝てれば本戦出場がかなり現実的になると自分を奮い立たせる。


「これより、チーム・ゴードンとチーム・シルファの対抗戦を始める。互いに、礼!」

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします!」

「よ、よろしくお願いします」

「あ、お、お願いします」


 シルファに続いて、試合前の挨拶をする。最初にユート君がして以来、僕たちもするようになったのだった。


「はは、よろしくな」

「うーん、可愛い!」

「油断しちゃダメよ」

「できる相手かよ?」


 相手チームの雰囲気は試合前と思えないくらい落ち着いていた。他のチームは少なからず警戒していたのに、ここは自然体というか、変に気負わずいつもどおりって感じで、それが逆に底知れなさを感じさせる。


「皆、相手の戦術は頭に入っているわね?」


 試合開始位置まで移動してから、シルファは確認するように僕たち一人一人と目を合わす。


「ああ」

「はい」

「うん」


 チーム・ゴードンの戦い方はかなり攻撃的だ。女性の先輩二人が先制で攻撃と迎撃をこなし、その間に男の先輩とゴードン先輩が大規模魔法の準備をする。今までの三試合、全てその戦法で戦ってきている。

 問題は大規模魔法の準備の早さだ。大規模魔法と言っても、僕の『ブレイド・ルーツ』やシルファの『アイス・ピラー』に比べれば魔術式は小さめだけど、その分早く発現させられてしまう。それも二人分だ。前の試合での、ゴードン先輩の放った大きな槍のような魔法が上級生の防御魔法を貫いた光景を見るに、僕たちの防御魔法も容易く破られてしまうことは明白だ。

 そこで出た対策が、攻撃を防ぐのではなく、逸らすために防御魔法を使うという発想だった。ちなみに提案者はユート君だ。


「相手の大規模魔法ははっきり言って防ぎきれないわ。だからもし相手の準備が整ったら、私とフルルはシイキの正面に立って、防御魔法を斜めに構える」


 観戦中に立てた作戦をシルファが繰り返しながら、指で防御魔法の形を空中になぞる。僕たちは顔を寄せ合ってシルファの言葉に頷く。


「相手の魔法は貫くことに重きを置いてるためか、魔術式の大きさの割には攻撃範囲が狭いわ。だから半透明でない強度を高めた防御魔法なら、斜めに受けることで逸らすことができるかもしれない。そうよね? ユート」

「ああ。たださっきも言ったけど、何度も逸らし続けるってのは難しいはずだ。相手の魔術式の大きさと、練習中に見せてもらった不透明な防御魔法の強度から考えるに、四、五回が限度だと思う」

「四、五回か……」


 つまり二人の先輩が攻撃を片側だけに集中させたら、二度の攻撃で破られるかもしれないってことだ。攻撃間隔も遅くはなかったし、大した時間は稼げない。その間にどうにか、僕が魔術式を形式できればいいんだけど……。

 いや、弱気になっちゃダメだ。こういう時のために今まで練習してきたんだから、絶対に成功させないと。


「これまでの試合を見るに、相手の大規模魔法は左右から発現されるから、片方だけに攻撃が集中する可能性は低いわ。精度はそこそこみたいだけど、空中衝突する恐れもあるし、斜めに構えている都合上、角度的に当たらないかもしれないしね」

「そ、それなら、すぐには破られないかもしれないですよね」


 あ、そうなんだ。言われてみればそんな話もしていたような……。


「それに、俺も撹乱するからな。シイキは焦らずに魔術式を形成してくれ」

「う、うん。分かった」

「両チーム、準備はできたか?」


 リュード先生の声が聞こえる。いつの間にか障壁魔法は展開されていた。

 あ、もう始まっちゃう。僕は急いで気持ちを切り替えた。


「それでは、試合、開始!」

 パアン!


 合図と同時に、手を打ったユート君が駆け出す。僕たち三人も、同時に魔術式の形成を始めた。シルファは先制攻撃を防ぐための半透明の防御魔法を、フルルは強度に重きを置いた不透明の防御魔法を、僕は『ブレイド・ルーツ』をそれぞれ発現できるよう準備する。


「あ」


 遠くに相手の光弾が見えた。けれどそれはこちらにではなく、全てユート君に向けられているようだった。二人分の弾幕でユート君を先に倒そうとしているのだろうか。素早く動くユート君にすごい数の光弾が放たれる。


「好都合ね」


 心配する僕をよそに、シルファは完成間近の防御魔法をさらに大きくさせる。早目に強固な防御魔法の用意に入ったんだろう。大丈夫だろうか? その間にあの攻撃が僕たちに向けられでもしたら……。

 いや、きっと大丈夫だ。今は魔術式の形成に集中しないと――


「合図です!」


 え?

 見ると、確かに小さな光弾が高く上がっていた。相手の大規模魔法の準備ができたというユート君からの合図だ。こんなに早いなんて……。


「来るわ。フルル!」

「はい!」


 魔術式を構えたまま僕の真正面に移動した二人が、防御魔法を斜めに向けて発現させる。


 ドォッ!

「っ!」

「わっ!」


 暫くもしないうちに、シルファが発現させた防御魔法からすごい音が響き、僕の横を槍みたいな攻撃魔法が通り抜ける。背後の障壁魔法に当たった衝撃が背中に響いた。


「大丈夫ですか!?」

「平気よ。防御に集中して」

「は、はい!」

 ドウッ!

「あっ、くぅ……!」


 フルルの防御魔法にも相手の攻撃魔法が当たる。光の槍がさっきとは反対側を飛んでいった。


「まだいける?」

「は、はい!」

「頼もしいわね」


 その後も、二人の防御魔法に魔法がぶつかる音が続く。それでも二人は必死に防御魔法を保ち続け、時間を稼いでくれていた。ユート君もきっと、あの向こうで相手を崩してくれている。

 それなのに僕の魔術式は一向に大きくならない。おかしい。こんなに形成が遅いはずないのに、どうして……。


 バギ!


 五度目の攻撃を受けたフルルの防御魔法に亀裂が走った。


「す、すみません……もう……!」

「もう少しよ! 耐えて、フルル!」


 震える腕を前に突き出したフルルが、僕を振り向く。

 早く。

 その瞳が、そう訴えかけてきた。


「あああ!」


 迷いを打ち消すように、僕は声を上げる。思いっきり魔力を放出し、作りかけの魔術式を一気に仕上げにかかった。


「できた!」


 あとは魔力を込めるだけ――!


 バガァン!

「きゃあ!」

「フルル!」


 魔力を受けた魔術式が光り輝いたまさにその時、フルルの防御魔法を突き破った光が僕に向かってきた。


「うわあっ!」


 反射的に、魔術式を構えたまま体を逸らした。魔法は間一髪で僕とすれ違う。

 良かった。そう思えたのも束の間。


「シイキ、魔法を!」

「え、ああっ!」


 気づいた時には既に、体と一緒に動いた魔術式から魔法が発現していた。いくつもの黒い刃が、のたうつようにして飛び出していく。

 その魔術式の先にいるのは、防御魔法を捨てて道を空けてくれたシルファだ。


「くうっ!」


 シルファは防御魔法を発現させようとしてか、改めて魔術式の形成を始める。けれどそんなの、間に合うはずがない。


「曲がれぇっ!」


 放出できる限りの魔力を注ぎこみ、強引に黒刃の軌道を変える。その甲斐あってか、シルファへと向かっていた攻撃は全て違う方向へと向かった。


「駄目! そっちは!」

「え……? あ」


 けれどシルファに当たらないよう逸らした先には、目前の事態を飲み込めていないフルルの姿があった。


「フルル!」

「きゃあああああ!」


 フルルの体が、悲鳴が、黒い刃に飲み込まれる。


「うわああああああ!」


 止まれ、止まれ、止まれ、止まれ止まれ止まれ止まれ――!


「リュード先生!」

 パキィン!

「あ……」


 シルファの声が響いた直後、魔術式が、黒い刃が、一瞬で砕け散った。

 そして目の前には、倒れたフルルを抱えたリュード先生の姿がある。向こうから、薄膜が消えたユート君が走ってくるのが見えた。


「え、……と……」


 ユート君がリュード先生の代わりにフルルの体を支えるのを、ただ呆然と眺める。

 立ち上がったリュード先生が、僕を真正面に捉えて口を開いた。


「チーム・シルファ、試合放棄」

「――っ!」


 息が止まった僕に、リュード先生は背を向ける。


「チーム・ゴードンの勝利!」

「………………」


 その場にへたり込んだ僕は、世界から色が消えていく様を見た。

 まただ。また、やってしまったんだ。

 相手チームの先輩方が僕を見ている。試合をしていない他のチームの生徒が僕を見ている。観客席にいる皆が僕を見ている。

 またあいつだ。あれはないわ。やらかしたな。やると思った。ひどすぎ。最低じゃん。味方を攻撃するなんて。他のメンバー可哀そう。折角時間を稼いでたのにな。足引っ張っただけかよ。恩を仇で返したな。

 裏切り者。

 裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者……。

 ああ。

 消えよう。

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