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チームの初陣

「次、チーム・トマス、チーム・シルファ、前へ」


 ついに俺たちの番になった。前の試合のチームと入れ替わるようにして、俺たちのチームと相手チームのメンバーが障壁魔法の範囲内に入る。


「あはは……。一度も試合せず残ったのはこの二チームだけだったから覚悟はしてたけど、初戦から三年生が相手か……」

「うう……」


 シイキが苦笑いを浮かべ、フルルは視線を落とす。シイキの言った通り、制服の胸にある校章の色から、男女二人ずつの相手チームのメンバーは全員が三年生だと分かった。


「初っ端から例の一年チームか」

「変わった子がいるんだってね? 一度戦い方を見ておきたかったけど」

「まあ大丈夫でしょ。僕の知り合いに聞いた話じゃ、手強いのはあの銀髪の子くらいみたいだし」

「なら普段通りで勝てるかしらね。トマス、作戦(プラン)は?」

「アルファだ。未知の相手と戦うのなら、基本に忠実でいこう」


 トマスと呼ばれた体の大きな男の先輩の言葉に、三人のメンバーが頷く。リーダーらしく冷静そうな先輩だった。他の三人もトマス先輩を信頼しているようで、首肯に躊躇いはない。


「シルファ、俺たちも想定通りの動きでいいよな?」

「ええ、問題ないわ」

「……本当に、勝てるんでしょうか?」

「あら? フルルは私の作戦を疑うのかしら?」

「い、いえ! そういうわけでは……」

「ふふ、ごめんなさい。今のは意地悪だったわね」


 くすっと笑うシルファ。それにつられてか、フルルの表情も少し柔らかくなる。


「実際に勝てるかどうかは私にも分からないわ。けどきっとこの作戦が、今の私たちにとっての最善だと思っている。それを実践して、それでも負けたらもう仕方ないわよ。だから勝てるかどうかを心配する必要はないわ。フルルはこれまで練習してきたものを、練習してきたとおりに発揮すればいいの」

「……はい!」

「いい返事ね」


 シルファがフルルの頭を撫でる。すごいな、フルルの緊張が目に見えてほぐれた。さっきまでの様子じゃ少し不安だったけど、これなら魔法も問題なく使えそうだな。


「これより、チーム・トマスとチーム・シルファの対抗戦を始める。互いに、礼!」

「よろしくおねがいします!」


 挨拶してから頭を下げる。頭を上げると、先輩方は少し驚いたような表情をしていた。


「ああ、よろしく頼む」

「あっはは、よろしくー」

「元気だねぇ。ま、よろしく」

「よろしくね」


 試合前の挨拶が終わり、俺たちは開始位置に移動する。決められた範囲内で、俺たちは各自、初戦の相手用の配置についていった。


「……ユート君、大丈夫かい?」

「ん? ああ。俺は全く問題ないぞ」

「はは、すごいな……。僕はこんなに緊張してるのに」


 シイキがぐっと握った拳は小さく震えていた。シイキも実戦を前にかなり気を張っているみたいだ。本戦に行けないと退学だもんな。


「シイキ、拳を前に出してくれないか?」

「え? こ、こう?」


 シイキはゆっくりと腕を上げる。その拳に、俺の拳を当てた。こつ、と硬い感触が返ってくる。


「大丈夫だ、シイキ。俺が必ず、本戦に連れてってやる」

「ユート君……」

「何を言ってるのよ、ユート」


 シルファが髪を払って続けた。


「私たち全員の力で本戦に行くのよ」

「ごめん、そうだったな」


 そうだ。俺は今一人じゃない。チームの一員としてここにいるんだ。その事実がとても心強かった。俺は強く拳を握ると、開始位置の範囲で相手チームに一番近い場所まで移動する。


「両チーム、準備はいいな?」


 障壁魔法が発現し、リュード先生が問いかける。


「はい」

「はい」

「それでは、試合、開始!」

 パアン!


 手を打った俺は、相手チームに向かって勢いよく駆け出した。



 ◇ ◇ ◇



「あなたの強みは、団体戦でこそ発揮されるわ」


 土曜日の夕方、暫くこの街に留まると言っていたチトセさんたちと別れて学院に戻ってくると、シルファが学生寮の前で俺を迎えてくれた。そして秘密の話の続きをするという理由で外に連れ出され、人気のない場所まで来てからの第一声がその言葉だった。まだ空は明るく、寮の門限までは時間が残っていそうだ。


「そうなのか? 個人戦じゃ全然通用しなかったのに」

「ええ。個人戦なら相手もあなただけに集中すればいいからね。けど団体戦は違う。あなたに構っているうちに私たちが魔法を発現させるかもしれないから、相手は動き回るあなたと私たちに意識を分散させなくちゃならない。だからあなたが動けば動くほど、相手の集中を乱すことに繋がるの」

「それは分かるけどな。ただ結局、一人が大きな防御魔法を発現させれば、それで終わりなんじゃないか?」


 授業の時も、固まった相手チームのメンバーの一人が防御魔法を発現させたら、俺は防御に専念していた。いくら素早く動いたところで、相手に攻撃ができないんじゃ脅威にはならないし、それじゃ攪乱もできない。


「人数的に不利な状況じゃそうでしょうね。授業じゃ大抵二人でチームを組んでたからそれが当たり前だったけど、今日仮とは言えシイキの加入が決まったわけだから、その前提は崩れたわ」

「人数が同じだとどう変わるんだ?」

「単純な話、チーム全体の火力が上がるのよ」

「まあ、そりゃそうだ」


 ただ、俺自身の火力が高まるわけじゃない。そんな俺の気持ちを読んだのかのように、シルファは頷いて続ける。


「つまりね、あなた以外のメンバーも攻撃に参加できるようになるの。するとどうなるか?」

「……そうか! 俺だけの攻撃じゃ無理でも、他のメンバーと協力すれば防御魔法を破れるかもしれないし、そう相手にも思わせられるってことか」

「そういうことよ」


 シルファが微笑む。確かに一人だけじゃ大した攻撃はできないけど、他のメンバーと協力すれば相手に圧力をかけることもできるかもな。


「だからあなたは可能な限り相手の近くに留まって、相手の防御魔法を光弾で削ってほしいの。できるかしら?」

「ああ――」



 ◇ ◇ ◇



 ――勿論だ。

 一歩ごとに楕円形魔術式による強化魔法をかけなおしながら走る。距離が縮み、相手の様子がよく見えるようになった。

 驚いてはいるけど、動揺ってほどじゃないな。魔術式の形成も安定してる。俺の戦い方を聞いていたのかもな。けど背後の障壁魔法まで距離がある。あれなら背後をとれるかもしれない。今は近づくことを優先しつつ、機会があれば回り込むか。

 一人が若干前に出た。多分あの女の先輩が迎撃か防御をするつもりだろう。トマス先輩の魔術式はまだ円形になってないから大規模魔法の準備かな。左右に分かれた残りの二人はほぼ同じ大きさの魔術式を完成間近にまで仕上げている。攻撃にしろ防御にしろ逃げ道を潰されるとまずい。


「なら」


 あと数歩の距離で普通の魔術式から光弾を発現させた。威力は大したことないけれど、この距離なら届く。それと同時に右へと跳んだ。


「あら」


 正面にいた女の先輩は意外そうに呟き、発現させた半透明の防御魔法で俺の放った光弾を難なく防ぐ。

 そして新たに正面になった男の先輩は、形成した魔術式に魔力を込めてニヤリと笑った。


「バイバーイ」


 二重強化魔法、発現。


 ドン!


 今までよりも強い魔法の光を纏った足が地面を鳴らす。その直後に放たれた相手の光弾は、さっきまで俺のいた空間を通り抜けていき、障壁魔法に向かって飛んでいく。


「はあ!?」


 男の先輩が驚きの声を漏らす。大きく速い光弾は防御もできず回避も難しいから、今のは結構危なかった。けれどああいう魔法は続けざまに何度も放てるものじゃない。弾速もある程度把握できたし、今のうちに横から――


「ん?」


 回り込もうとした矢先、先輩の側面に防御魔法が出現した。見ると、正面の女の先輩が発現した防御魔法が、さながら障壁魔法のように相手のチーム全体を覆うよう展開していた。ただし、左右に分かれた先輩方の正面にだけは穴が空いている。攻撃魔法を通すためだろう。

 へえ、いい連携だな。あれなら防御を気にせず攻撃できるし、障壁魔法が存在しない学外での戦闘にも使えそうだ。けど穴が正面にしかないから、側面からの攻撃にすぐ対応できないのはイマイチかな。

 自分なりの分析をしつつ一定の距離を保ちながら横から回り込む。穴が空いていないとはいえ、近づいた瞬間に防御魔法ごと攻撃されないとも限らない。それはそれで相手の意識をこちらに向けることができたとも言えるけど、やられたらそこまでだ。長く相手の気を引いておくためにも、慎重に行動しないとな。


「トマス、どうする?」

「前の三人に集中する。あいつはろくに攻撃ができないらしいからな」

「わ、分かった」


 中から微かにそんな会話が聞こえてくる。俺に攻撃を避けられた先輩は、俺を横目で一瞥してから前に向き直る。

 ふむ、なら少し揺さぶってみるかな。誘いの可能性は低そうだし。

 相手の真横にまで来たところで、俺は距離を詰めるよう方向転換する。男の先輩と目が合った。俺は笑みを見せると、左手で光弾用の魔術式を形成する。小さくない動揺が見て取れた。


「トマス」

「あの程度の大きさの魔術式から放たれる魔法なんてどうというものでもない。前を向け」

「……ああ!」


 トマス先輩の言葉で迷いは消えたようだった。男の先輩は前に向き直って魔法を発現する。トマス先輩は俺の方を見ないまま、大きな魔術式の仕上げに入っていた。

 俺を無視して他の三人を倒すという方針で間違いないみたいだ。大規模魔法も発現させられそうだし、潮時かな。

 光弾を上に向けて放ちシルファたちに合図を送った俺は、相手のチームに肉薄する。


 ボン!

「なっ!?」


 最初の光弾との明らかな音の違いに、トマス先輩も驚きの声を上げた。その間に俺は防御魔法に沿って背後を周りつつ、左手に保持した楕円形魔術式から光弾を発現させる。

 速度、維持時間を犠牲にした、威力偏重の光弾だ。かつてシイキの防御魔法を破り、そのまま薄膜を消したものだった。その光弾が炸裂する音が連続する。


 ボボボボボボン!

「く、うう……!」

「アイシャ、大丈夫!?」

「へ、平気……」

「もうすぐ俺の魔術式が完成する。それまで耐えてくれ」

「うん……!」

「させません」


 素早く前方まで回り込んだ俺は、右側で攻撃している女の先輩が魔法を放った直後を狙い、穴の前に左手を伸ばす。


「な、速」

「伏せろ!」

「きゃあ!」


 先輩は魔術式を霧散させると、慌てて体を低くする。その上まで辿り着いたところで、寿命の短い光弾は消滅した。

 道が開いた。俺はぽっかり空いた穴に向かって、魔術式を形成した右手を伸ばす。


 ボン! ボン!


 しかし光弾が通り抜けるより前に穴が塞がれた。アイシャ先輩の仕業だろう。そういうこともできるのか。

 感心している間に、トマス先輩は魔術式に魔力を込め、アイシャ先輩はその場に伏せ、しゃがんだ女の先輩が手のひら大の魔術式を形成し終えた。魔力の供給が断たれた防御魔法が霧散し始める。


「『ワイドカッター』!」


 咄嗟に屈んだ俺の頭上を、防御魔法を突き抜けた幅の広い光が通過していった。そして目の前には魔術式を構えた先輩がいる。障害となっていた防御魔法はもう消えかけていた。


 ボボボン!

「あ……」

「……ここまでか」


 女の先輩が放った光弾は俺の防御魔法に防がれ、俺の放った光弾は先輩の薄膜を消し、俺は右から飛んできた光弾に靴底を当てた。光弾が当たった衝撃のまま飛ばされながら目をやると、男の先輩が倒れるような体勢で俺に魔術式を向けている。

 俺は両手を上げてリュード先生に自分の戦闘不能を報せると、足から着地して速やかにその場から離れた。


「切り進め、『ブレイド・タプルート』!」


 頼れる仲間の声が聞こえ、口許を緩める。

 やれるだけのことはやった。あとは皆を信じよう。



 ◇ ◇ ◇



 ユート君が光弾を打ち上げる。相手の大規模魔法が発現間近であることを伝えるものだ。


「シイキ、間に合う!?」

「多分!」


 そこそこの距離を空けて前で防御魔法を発現させているシルファの声に答える。多分、いける。以前の僕なら間に合わなかったかもしれないけれど、今の僕なら……。


 ボオン!


 などと考えている間に、相手の攻撃がシルファの左隣にいるフルルの防御魔法に着弾する。断続的な攻撃に修復が間に合っていないようで、フルルの魔法はボロボロだった。


「す、すみま、せん……。私、もう……!」

「大丈夫よ、フルル。ほら、私たちに攻撃が来ないよう、ユートが注意を引いてくれているわ。もうひと踏ん張り、できるかしら?」

「は、はい!」


 僕からはよく見えないけれど、今までほぼ等間隔に飛来してきていた相手の攻撃が止んだのは確かだった。その間にフルルは魔術式に魔力を込めて、防御魔法を作り直す。


「っ! 来たわ!」


 シルファが叫んだ。見ると、薄い扇状の白い光がかなりの速さで飛んできている。

 でも、あの程度なら――!


「シイキ!」

「うん!」


 しゃがんだ二人の頭の上から、防御魔法を破った相手の大規模魔法が姿を現す。


「切り進め、『ブレイド・タプルート』!」


 それとほぼ同時に、僕の魔法が発現した。大きな黒い刃が魔術式から勢いよく飛び出し、白い光と衝突する。


 ガギィン!


 金属音を思わせる鈍い音が響き、相手の魔法が右に逸れ、背後の障壁魔法にぶつかった。僕の魔法の切っ先も左に逸れる。


「ぉおおおおおお!」


 それでも構わず魔術式に魔力を込め、刃を伸ばしながら徐々に軌道を修正する。黒刃に攻撃を受けながらも、どうにか相手に近づけていく。

 僕の魔法で勝つんだ、僕の魔法で!


 ガギィン!

「あっ!」


 けれど再び相手の大規模魔法をぶつけられた刃は、今度こそ完全に弾かれてしまう。あらぬ方向を向いた僕の魔法は、そのまま障壁魔法に突っ込んでしまった。動きの止まった黒刃は、徐々に空気に溶けていく。


「ああ……」


 ダメ、だった? あれだけ練習したのに、僕はやっぱり――


「そこまで! チーム・シルファの勝利!」

「え?」


 呆然としていた僕は、予想外の言葉で現実に引き戻される。遠くにいる相手チームの三人の薄膜はいつの間にか消えていた。


「か、勝てたんですか!?」

「どうして……」

「私の魔法よ」


 未だ事態が呑み込めない僕たちに、いつの間にか離れていたシルファが歩きながら説明する。


「あなたの魔法が相手の魔法を弾いた後、すぐにあなたの魔法と反対側に移動して魔術式を形成したの。向こうは焦ってたのか、三人ともシイキの魔法の迎撃に躍起になってたから、簡単に倒せたわ」

「そ、そうだったんだ……」


 そうか、僕が失敗してもいいように、シルファはちゃんとフォローするために動いていたのか。それでもあの短時間で、離れた場所にいる相手に攻撃する魔術式を形成するなんて、流石シルファだ。


「シルファさん、すごいです!」

「ありがとう。でもそれも、シイキの魔法がうまく目立ってくれたおかげよ」

「そうですね! シイキさんもすごいです!」

「あ、はは、ありがとう……」


 ……何だろう。三年生のチームを相手に勝つことができて、すごく嬉しいはずなのに、どうしてこんなにもやもやするんだろう。

 胸の内に湧きあがる変な気持ちに戸惑っていると、障壁魔法が消えた。気持ちの整理がつかないまま、中央に集まって試合後の礼をする。


「両チーム、礼」

「ありがとうございました!」

「ありがとうございました」

「次、チーム・セシル、チーム・ゴードン、前へ」


 頭を上げると、僕たちは急いで場外へと向かう。次の試合までは休憩できるけど、その間も今後の対戦相手の観察をしなければならない。いい場所は大体取られちゃってるけど、少しでも観戦しやすい所にいかないと。


「なあ、俺、先輩方と話してきていいか?」


 だけど次の試合が始まる直前になって、ユート君がそんなことを言い出した。


「ええ、構わないわよ」

「ちょっと、シルファ!?」

「ありがとう。それじゃ」


 止める暇もなく、ユート君は走って行ってしまう。これじゃあ観戦した情報の共有が難しくなっちゃうじゃないか。お互いの意見が聞けないと作戦もうまく立てられないのに。


「シルファ、いいの?」

「大丈夫よ。ユートが居なくても作戦は立てられるし」

「そ、そうなんですか?」


 フルルが驚いたように尋ねる。僕もシルファの口からそんな言葉が出てくるなんて思ってもみなかった。ユート君を頼りにしているみたいだったのに。


「ええ。基本的なことは練習中に伝えてあるから問題ないわ。今からする話は立ち位置の調整とか細かなものばかりだし、私たちと離れて行動するユートとはあまり関係がないのよ。それだったらああして、先輩方と混ざって他の試合を観戦してもらったほうが有益よ。私たちとは別の視点から見ることができるかもしれないし、あわよくば先輩方から、私たちの知らない情報を得られるしね」


 シルファの視線が一瞬、障壁魔法越しにユート君がいるであろう方向を向いた。僕は目を凝らすも、ぼんやりとした影があるようにしか見えず、表情は読めない。


「で、でも、私たちの攻撃のタイミングが変わったりしたら、困りませんか?」

「ユートなら平気よ。前に一度、私の魔法に巻き込みそうになった時も避けてくれたし、その後も笑って許してくれたもの」

「……でも、結果的にユート君は戦闘不能になったじゃないか」

「そっ、そんなことがあったんですか!?」

「そうね。あれは運が悪かったわ」

「………………」


 いけしゃあしゃあと言うシルファに、もやもやとした感情が大きくなる。


「とにかく、ユートのことは心配いらないわ。彼自身、俺を巻き込むつもりで攻撃してくれて構わないって言ってたでしょう?」

「それは」


 言葉が続けられなかった。

 練習中の想定でも、ユート君が巻き込まれる位置にいる場合はどうするかという話はあった。その時もそういう結論になったけど……。


「………………」


 フルルはユート君のいる方を見て、次に僕の方を向いた。なんとなくだけど、フルルの気持ちが伝わってくる。


「前に出て戦うというのはそういうことよ。ユートだって、それを分かった上で行動しているわ。好機があるのに攻撃しないことこそ、危険な場所で戦ってくれているユートへの侮辱行為よ」

「………………」


 そうかもしれないけど、だからこそ、細かなことも共有するべきなんじゃないだろうか。その方が僕たちだって攻撃する時の気持ちが軽くなる。それが分からないシルファじゃないはずなのに。


「ほら、試合が始まったわよ。ユートも来ないんだし、この話はこれ以上しても意味ないわ」

「……分かったよ」


 結局、ユート君は僕たちの次の試合が始まるまで戻ってこなかった。

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