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帰り道でお話しです

「何だか、随分とあっさり終わったね」

「元々、こんなに多くの魔導士が必要になる依頼じゃなかったのよ。最初は少しイレギュラーがあったけど、なんとなくこうなるんじゃないかとは予想していたわ」

「まあ何にしろ、何事もなく終わって何よりだ」

「そうですね。皆さんが無事なのが一番です」

「にゃはは、その通りだにゃ。あっさり終わるくらいが丁度いいんだにゃ」

 荷物を背負いながら林の中を歩く私たちに、ヌヌさんが声をかけてくれました。出発した時は前の方にいたはずでしたが、わざわざ最後尾にまで来てくれたみたいです。

「ヌヌさん、探知魔法は使わないのですか?」

「今は別の魔導士が使っているにゃ。ただ昨日倒した分と今日倒した分で全部だと思うのにゃ。念のため行きとは違う道で帰っているけどにゃ」

「ど、どうして全部だって分かるんですか? もしかしたら他にもいるかもしれないじゃないですか」

「一匹のジョオウアリグモから産まれるオオアリグモの数には限りがあるにゃ。私が見てきた数と、他の魔導士に聞いた、村の近くに現れた数も合わせれば、ほぼほぼ限度一杯にゃ。これ以上のオオアリグモはいにゃいにゃ」

 珍しいことだけどにゃ、とヌヌさんは続けました。

「そういうことでしたか。だからキャンプに戻ってくるのも早かったんですね」

「そういうことにゃ。オオアリグモはもうそれ以上いにゃいと分かったから戻ってきたのにゃ。すみかを変えようとしてたのか、予想よりも早くジョオウアリグモを見つけられたという理由もあったけどにゃ」

「オオアリグモ以外の魔物がいるという可能性は?」

「にゃいとは言い切れにゃいけど、かにゃり低い確率だろうにゃ。他の魔物が奴らの縄張(にゃわば)りに入ったら、集団で襲われることににゃるにゃ。それをものともしにゃい魔物がやってきたのにゃら、あの山までの道中で、逃げてきたジョオウアリグモに会ってたはずにゃ」

 ヌヌさんの言葉に、ユートさんも納得したようでした。ヌヌさんがそこまで言うのなら、本当にもう魔物はいないのでしょう。私はほっと息をつきます。

「ところで、竜神様にはお会いしましたか?」

 シルファさんの質問に、ヌヌさんは首を横に振ります。

「会ってにゃいにゃ。個人的には気ににゃるところだったけど、今回の依頼はあくまで魔物退治だったしにゃあ」

「え? じゃ、じゃあ村の人たちは、竜神様が無事なのかどうか、分からないままってことですか?」

「ま、そうにゃるにゃ。ただ元々、竜神様は滅多に人前に姿を現さにゃいそうにゃ。最後に姿を見せたのは、三十年も前だという(はにゃし)だしにゃあ」

「……確かに竜は長命だけど、そんなに前から……」

 シイキさんが何かを考えるように呟きます。シルファさんも、僅かに表情を曇らせました。きっと私と同じ考えを持っているのだと思います。

 その竜神様は、もう……。

「ならこの後、竜神様に会ってみないか?」

 ユートさんが、いつもと変わらない声でそう言いました。

「この後って、依頼が終わった後ってこと?」

「ああ。滞在予定期間はもう一日あるんだし、魔物もいないなら、行って戻ってくることくらいならできるだろ」

 シルファさんの問いに、ユートさんは笑って頷きました。けれど――

「ダメよ」

「どうしてだ?」

「私たちは荷物運びの依頼を受けるという名目で、学外での行動を許されているの。そしてその目的が果たされた以上、一刻も早く学院に戻らなければならないわ。それが学院の規定よ」

「少しくらい融通利かないのか? 会えば、どうして魔物が現れたのかについて何か分かるかもしれないし、今回の依頼が発生した原因を探ることにも繋がる。言わばこの依頼の延長みたいなもんだろ?」

「例えそうであったとしても、私たちが受けたのは荷物運びの依頼よ。その役目が終わった私たちに、これ以上できることはない、いいえ、これ以上のことはしてはいけないのよ」

「それは、学院の決まりだから?」

「そうよ」

「ふーん」

 ユートさんはつまらなそうに頭の後ろで手を組みました。

「僕もユート君の気持ちは分かるけど、こればっかりはね……。それに竜神様があの山のどこに棲んでいるかも分からないし、一日で村と往復するのは難しいよ」

「……それもそうだな」

 ふうと息をつくユートさんの肩を、ヌヌさんが軽く叩きます。

「その気持ちだけでも立派だにゃ。ユートちゃんたちはもう十分頑張ってくれたんだし、後のことは他の魔導士に任せるのにゃ」

「……はい」

「で、でもこれで、あの村の人たちも喜んでくれますよね。魔物はもういなくなったんですし」

「そうね。きっと喜んでくれるわ」

「アイさんも安心してくれるだろうね」

「アイさんって、あのおにぎりを差し入れてくれた子かにゃ?」

「はい。僕とフルルとユート君は、その前にも会って話をしてたんです。ね、フルル」

「は、はい! 実はこの依頼を出したのもアイさんだそうで」

「にゃんと! この人数を集めるほどのお金を、一人で出したのかにゃ? 随分とお金持ちにゃんだにゃあ」

「あ、それは、その……」

 私はアイさんが貴族であることと、どうしてこの村に滞在しているのかを説明しました。

「にゃるほどにゃあ。いい子だとは思ってたけど、 そこまで見上げた子だったかにゃ。ユートちゃんじゃにゃいけど、私ももっとあの村のために頑張りたくにゃってきたにゃ」

「ですよね。俺も同じ気持ちです」

「ユート」

「分かってるよ。行動には移さないさ」

「よろしい。……確かにアイさんは立派だけど、だからといって私たちがそれに張り合わないといけないわけじゃないわ。私たちは私たちができることをしたのだから、胸を張って帰りましょう」

 シルファさんの言葉に、シイキさんが腕を組んで頷きます。

「そうだね。まあ僕にしてみれば、ちょっと物足りなかったけど」

「行きも帰りも、運んでいる荷物は私たちの中じゃ一番少ないのに、よくそんなことが言えたわね。フルルはどう思う?」

「わ、私ですか? えっと、その……」

 急に話を振られた私は、なんて答えればいいのか分からず、言いあぐねてしまいます。

「何も迷うことはないわ、フルル。感じたままを答えればいいのよ」

「そ、そうだよ。僕なら何を言われても平気だから」

「そ、そうですか? なら……」

 私はどこかひきつった笑みを浮かべているシイキさんと顔を合わせると、正直な感想を言いました。

「シイキさんって、その、あまり力持ちじゃないんですね」

「うぐっ!」

 シイキさんが胸を押さえて呻きました。私は慌てて言葉を続けます。

「で、でも、シイキさんは魔物を倒していましたし、その分疲れていましたから、仕方ないというか、あ、でもそれだと、シルファさんたちもそうですし……」

「……うん、ありがとう……。もう大丈夫だから……」

 シイキさんは弱々しく手の平を向けました。シルファさんがくすくすと笑います。

「それを言うと、フルルはかなり力持ちだよな」

「そ、そうなんですか? 自分では普通だと思っていたんですけど」

「ぐふっ!」

「フルル、それ以上はやめてあげて。……ふふっ」

「あ、す、すみません! そんなつもりじゃ」

「き、気にしてないよ……」

 なんとかフォローする言葉を探していると、ヌヌさんも口元に手を当てて笑います。

(みんにゃ)本当に(にゃか)がいいにゃあ。やっぱりチームはこうあるべきにゃ」

「あ……」

 私はそれを聞いて、この依頼を受けた理由を思い出しました。

「………………」

「んにゃ? (みんにゃ)どうかしたのかにゃ?」

 急に静かになった私たちに、ヌヌさんは首を傾げます。

「えっと、その……」

「ヌヌさん、私たちは四人のチームじゃありません。私とユートが二人のチームで、シイキとフルルはチームに所属してないんです」

 口ごもるシイキさんに代わって、シルファさんが言いました。

「にゃにゃ、そうにゃのかにゃ!? てっきり全員同じチームだと思っていたにゃ。丁度四人だしにゃ。どうしてチームを組まにゃいのにゃ?」

 ヌヌさんはチームのことについても知っているようでした。私はヌヌさんの質問に答えられず、下を向きます。

「……率直に言えば実力の問題です。今回の依頼も、フルルが私たちのチームに入れるかどうか、確かめるために受けたという側面があります」

「その結果はどうだったのにゃ?」

「…………受け入れられません」

「そんなっ!」

「シルファ!」

「いいんです! ……私の、ことですから」

 私はユートさんを止めます。前を歩く人の何人かがこちらを振り返りました。それを見てユートさんも口を閉じます。

「ふむ、どうしてにゃ?」

「元々、フルルと私たちの実力に差があることは分かっていたんです。そして今回、改めてそのことを確信しました。それが理由です」

「確かに私も、シイキちゃんはともかく、今のフルルちゃんとは実力に差があると思うにゃ」

「……っ」

 そのことは、自分が一番よく分かっているつもりでした。けれど改めて言われると、心にくるものがありました。

「でもにゃあ、フルルは依頼をきちんとこにゃしたはずにゃ。どんにゃチームでも、全員の実力が全く(おにゃ)じにゃんてことはにゃいんだし、多少の実力差には目を瞑ってもいいんじゃにゃいかにゃ?」

「……私には、目指す場所があります。チームメンバーの実力に関しては、妥協できません」

「……そうかにゃ。まあ私は部外者だし、これ以上は言わにゃいでおくにゃ」

 それっきり、話は途絶えました。私は足元を見たまま歩き続けます。

 ……そう、ですよね。今思い返してみても、この依頼中、私は何一ついいところを見せられませんでしたし、それどころか皆さんの足を引っ張るばかりで、そんなメンバーを欲しがるチームなんてあるわけありません。シルファさんの判断は、とても正しいことです。

 だから、これでいいんです。

「総員、警戒しろ!」

「っ!」

 ボルドさんの言葉に、弾かれたように顔を上げました。前を歩いていたヌヌさんが魔術式を形成するのを見て、私も急いで魔術式を作り出します。

 形成が終わってから、私は不思議なことに気が付きます。近くに魔物の姿はありませんし、魔物と戦う音も聞こえてきません。魔物が襲ってきたんじゃないのでしょうか?

 そんな疑問を抱いていると、前の人たちが魔術式を保ったまま歩き始めました。私たちもその後に続きます。

 いつの間にか、林の出口に辿り着いていたようでした。木の幹の間から、曇り空が見えます。

「え……?」

 その下にある光景を見て、私は一瞬、頭が真っ白になりました。

 村がボロボロになっていたのです。

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