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夜のお話しです

「明日は早いし、私たちもそろそろ寝る準備をしましょ」

「そ、そうですね!」

「食器やお盆は部屋の外に置いておけばいいんだっけ?」

「俺、動けないんだけど……」

「あなたの分は私が運ぶわ」

「あ、あの、ユートさんのお布団はどうするんですか?」

「それは僕が運ぶよ」

「シイキ、ありがとう……!」

「分かっていると思うけど、一歩でも近づいたら氷漬けにするから」

「あ、あははは……」

「まあ仕切りもあるし、間に僕が入るから、少しくらいは許してあげなよ。寝返りの一つくらいするかもしれないし」

「シイキ、お前は親友だ……!」

 こうして、入り口近くにユートさん、大きなお部屋を仕切りで分けた手前の側にシイキさん、奥に私とシルファさんという分け方で、それぞれ眠ることになりました。

「おやすみなさい」

「お、おやすみなさい」

「うん、おやすみなさい」

「おやすみ」

 寝る前の挨拶をして、灯りを消します。部屋が真っ暗になって、静かになりました。

「………………」

 暖かいお布団の中で、私は明日のことを考えます。本当は早く寝ないといけないんですけど、何だか寝付けませんでした。

 明日は荷物を運ばないといけません。けれどそれだけじゃなく、魔物に襲われた時は、自分の身は自分で守らないといけません。突然魔物が現れても、驚かないで、落ち着いて魔術式を形成しないといけません。……大丈夫です。いつも練習していることだから、絶対に大丈夫です。

 けれどもし失敗したら――

「…………っ!」

 考えちゃダメです。頭では分かっているのに、そう思えば思うほど、悪い想像ばかりが膨らんでいきます。

 目を閉じても、瞼の裏に冷たい視線があるみたいでした。耳を塞いでも、聞こえないはずの言葉が響いてくるようでした。暖かいお布団の中にいるのに、寒い外にいるみたいでした。

「……ふ、ぅ……!」

 目を開けると、暗さに慣れてきたのか、窓からのわずかな光に浮かび上がった天井が見えました。私は息を乱しながら、額の汗を拭いました。

「………………」

 隣ではシルファさんが横になっています。目を閉じて、小さな寝息をたてていました。

 私も早く寝ないといけません。けれど悪い夢を見てしまう気がして、目を閉じるのが怖いです。なんとか目を閉じても、あるはずのない視線を感じてしまい、震えて目を開けてしまいます。

 ……眠れません。どうしましょう、もしこのまま眠れなかったら、明日の依頼ができなくなってしまって、それで……。

 目に涙を浮かべた時でした。

「どこ行くんだ?」

「起きてたの?」

 仕切りの向こうから、小さな話し声が聞こえました。

「眠りは浅い方なんだ。シイキは寝なくていいのか?」

「折角だし、温泉に入ろうかと思ってね」

「こんな時間に?」

「うん。今なら誰もいないだろうから。遅くまで開いているみたいだし」

「……本当に一人で平気か?」

「あはは、大丈夫だよ」

「………………」

 私は体をそちらに向けて、お二人の会話に耳を澄まします。盗み聞きしているようで申し訳ないのですが、こうして声を聞いているだけで、少し安心できました。

「僕のことより、フルルを気にかけてあげてよ」

「…………っ!」

 息を呑みました。遠ざかっていた嫌な想像が、すぐ後ろにまで迫ってきます。

「何かあったのか?」

「ユート君が馬車の外で走ってる間、結構思い詰めた表情をしていたんだ。君が戻ってきてからはいくらかましになったけど、内心かなり不安なんだと思う。もし明日失敗したらって」

「うーん、そればっかりはフルル自身が向き合うしかないからな。手を貸すわけにもいかないし、俺ができることは、フルルを信じることくらいだ」

「………………」

 シイキさんの言うことも、ユートさんの言うことも、とても正しいです。私は不安で夜も寝られませんし、それをどうにかできるのも私だけです。

 けれどそれができないんです。自分でもどうしようもないくらい、悪い考えばかりが浮かんでくるんです。怖くて震えが止まらないんです。

 折角、シルファさんがチャンスを与えてくれたのに、ユートさんが信じてくれているのに……!

「手は貸せなくても、言葉をかけるくらいはできるでしょ? それだけで心が軽くなるかもしれない」

「いや、声をかけすぎるのも良くないと思うんだ。逆に追い詰めるってこともあるだろうし。それにフルルには、フルル自身のために頑張ってほしいんだ」

 私、自身のため?

 ユートさんの言葉が、よく理解できません。

「どういうこと?」

「なんとなくだけど、フルルはいつも俺たちのことばかり気にしている気がするんだ。俺たちのいないところだと自分の気持ちを言えてたけど、俺たちを前にするとほとんど意見を出さなくなるし」

 …………それは。

「気を遣いすぎてるってこと?」

「ああ。授業で魔法を失敗した時も、怯えるみたいに俺やシルファを窺っていたんだ。その様子は自分が魔法を失敗したことより、それで俺たちに迷惑をかけたってことを強く意識しているように見えた。授業はあくまで自分のために受けるもののはずなのに、俺たちに迷惑をかけないために頑張ってるように感じたんだ」

「……確かに、その気持ちも大事だけどね」

「ある意味、それも自分のためなのかもしれないけどな。他人を立てることが自分にとって一番いいって考えているのかもしれない。けれどチームのメンバーって、仲間って、そういうものじゃない気がするんだ。他が良ければ自分はいいなんて、……そんなの、寂しいじゃんか」

 …………寂しい、ですか。

「まだ知り合ったばかりだし、いきなり本心を曝け出してほしいってわけじゃないけれど、フルルにはもう少し、自分の意思を示してほしいんだ。言葉でも、行動でも構わないから」

「自分の意志、ね。でも難しいと思うな。誰だって、人に嫌われたらって思うと、なかなか本音を言い出せないものだし」

 ……そうです。また一人に戻るくらいなら、自分の意見なんて――

「人に嫌われるなんて、当たり前のことだろ?」

「え…………?」

 思わず声が漏れてしまいました。私はそれに気がつくと、慌てて口を塞ぎます。

「あはは! やっぱりユート君はすごいね。そういうこと、何でもないように言っちゃうんだから」

「シイキ、ちょっと声が大きいぞ」

「ごめんごめん」

 どうやら私の声は聞こえなかったみたいです。ほっと息をつきます。

「けど今だって、もしかしたらシイキの言動に俺が怒ったかもしれないだろ? 夜中にうるさくしたのにまるで反省してない、みたいな理由でさ」

「え、いや、そんなつもりは」

「分かってるよ。けれどもし俺がそんなことで怒るような性格なら、シイキのことを嫌いになったかもしれない。それと似た話だと思うんだ。人それぞれ意見があるんだから、食い違いは絶対に起こる。悪いと分かっていてやるのはダメだろうけど、正しいと思って起こした行動でも、人に嫌われるかもしれない。だったらそれはもう仕方ないって受け入れるしかないだろ? もし自分が間違ってたら、その時指摘してもらえばいいし」

「で、その結果が今のユート君だと」

「はは、そうだな。俺も山暮らしが長かったから、こっちじゃかなり非常識なんだと思う。でもだからこそ、何が良くて何がいけないのか、意見しあって納得していけたらって思うんだ。嫌われるかも、なんて思い込んで何もしないよりかは、絶対にその方がいいしな」

「……ユート君は、強いね」

 シイキさんの言う通りです。ユートさんの考えはとても素敵だと思います。けれどそれは、他人とぶつかることを恐れない、強い気持ちがあってはじめてできることなんです。

「そうか?」

「そうだよ。ユート君の言う通り、人には人の常識があるわけでしょ? どんな考えをしているか分からない相手に自分の考えをぶつけるなんて、なかなかできないよ」

「そりゃ俺だって、誰彼構わず自分の考えを押し付けたりはしないさ。だけどほら、俺たちは同じ学院の仲間だろ? だったら意見をぶつけ合ってもいいと思うんだ」

 ……仲間……。

「仲間、か。確かにね。けど仲間だからこそ、余計嫌われたくないって思うんじゃない?」

「……まあ、その気持ちも分かるけどな」

 ……そうです。私に優しくしてくれているユートさんたちだから、尚更嫌われたくないんです。

「でも俺、フルルを嫌いになんかならないしな」

「……っ!」

 ……今、なんて……?

「……ど、どうしてそう思えるの?」

「え? だって単純に、嫌う理由がないだろ? 素直だし、俺の魔法を認めてくれるし、やりすぎってくらい他人を気遣えるし」

「実力が足りないとは思わないの? それに、もし人に言えないような秘密を抱えていたとしたら?」

「実力は俺だってまだまだだしな。これからつけていけばいい。人に言えない秘密なら誰だって持ってるだろうし、もしそれを打ち明けられても、驚きはするかもしれないけど、俺を信じての行動だって分かるから、それで嫌いになったりはしないさ」

 さすがに犯罪歴を打ち明けられたら困るだろうけど、とユートさんが苦笑交じりに続けます。私は、息をするのも忘れて、それを聞いていました。

「とにかく俺は、ゆっくりでいいから、フルルの気持ちを直接伝えてほしいんだ。それは信頼の形でもあると思うし、俺はフルルを嫌いになったりなんかしないから」

 ……ユート、さん……。

「……ふふ、流石は僕の親友だね。だけどそれ、フルルに話した方が良いんじゃない?」

「いや、それだと元の話に戻るんだ。フルルは自分のためじゃなくて、俺のために頑張ろうって意識が強くなる。大事なのは、フルルがどうしたいか、だからな」

「ユート君たちのチームに入りたいんじゃないの?」

「多分な。けれどもしかしたら、それもジェンヌ先生に頼まれたからって理由からかもしれない。この依頼を受けたのも、俺たちに嫌われたくないって思いからかもしれない。もしそうだとしたら、お互いにとって良くないからな。この依頼を通じて、フルルの気持ちを知りたいんだ」

 ……私の、気持ち……。

「っと、随分話し込んじゃったな。温泉に入るんだろ? 引き留めてごめん」

「いや、話を振ったのは僕の方だから。それにユート君の考えを聞けて良かったよ。ありがとう」

「はは、こちらこそ聞いてくれてありがとな」

「………………」

 扉が開閉する音がして、静かになりました。私は目を閉じると、ユートさんの言葉を思い返します。

 私は、どうしてこの依頼を受けたんでしょう? 私は、何を望んでいるんでしょう?

 考えているうちに、段々と眠くなってきます。私はそのまま、夢の中に入っていきました。

 意識が遠くなる直前に、いつの間にか震えがなくなっていたことに気がつきました。

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