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シルファさんもすごいです

 ジェンヌ先生は障壁魔法を消すために、中央にある魔法石の元へと歩き出します。本当に、見ているだけで勝ってしまいました。

「ね、言った通りだったでしょう?」

「は、はい! ユートさん、すごいです。……でも、ならどうして、攻め手が足りないなんて言ったんですか?」

 ユートさん一人で勝ってしまえるなら、これ以上攻撃する人はいらないんじゃないでしょうか? 私は目だけを動かして、シルファさんを窺おうとします。

「フルル、相手チームの敗因は何だと思う?」

 するとシルファさんに顔を覗き込まれ、私は慌てて目を逸らします。そのあと、少し顔を下に向けてから、上目遣いでシルファさんを見ました。

「……えっと、それは、ユートさんの動きに混乱したから、ですか?」

「正解よ。始めから落ち着いて、チームとして各々の役割りをちゃんとこなせていれば、倒せなくとも近づかせはしなかったでしょうね。相手はそれができなかった。まあ予想はしていたけれど」

「えっ?」

 そう言えば、シルファさんは試合が始まる前から、こうなることを知っていたようでした。ユートさんの戦い方なら、初めて見る人は絶対に驚くんだって分かっていたのでしょうか?

 そんな私の考えを読んだかのように、シルファさんは言葉を続けます。

「そう思った一番の理由は、相手がユートを甘く見ていたからよ。試合が始まって真っ先にユートが飛び出した時も、少しは驚いたでしょうけれど、すぐに気持ちは変わったと思うわ。わざわざやられに来てくれた、とかね。だから早々にユートを倒して、四対二の状況にしようとした」

 向こうでは、ユートさんが相手のチームの方と話をしていました。どうやら今の試合について感想を言っているみたいです。相手のチームの方は、悔しそうに下を向いていました。

「このくらいの魔法で倒せるだろう。そんな考えで魔法を放って、けれど避けられてしまう。最初は運がいい奴だくらいの認識だったでしょうけど、どんどん距離を詰められて、それでも尚攻撃を避け続けるユートに、余裕は焦りに変わっていく。後衛のメンバーも、前衛二人で倒せないユートに危機感を抱き始めて、本来なら遠くの相手を攻撃するための魔法をユートに向ける。前衛との魔術式の大きさの差は、そのまま魔法の速度の差となって、チームの意識がバラバラなまま放たれたお互いの魔法がぶつかり合う。その結果がこれよ」

 まあ同士討ちしたり、魔法を暴発させなかったのは良かったわね、とシルファさんは締めくくりました。そこでようやく、相手のチームから離れたユートさんが走って戻ってきます。

「シルファ、どうして攻撃しなかったんだ?」

「あなた一人で何とかなると思ったのよ。実際その通りだったし、魔力を無駄遣いせずに済んでよかったわ」

「その分俺が魔力を余計に使うことになったんだが……。折角のチームなんだし、一緒に戦ったほうが絶対にいいだろ?」

 ユートさんの視線が私に向きます。

「あ……」

 その視線は、私を責めるようなものではなく、純粋に意見を求めたもののようでした。けれど私は自分が魔法を使えなかったことを思い出して、目を逸らしてしまいました。そんな私の頭を、シルファさんが優しく撫でてくれます。

「私が止めたのよ。そのほうがあなたの実力を知れて安心できるでしょう? ね、フルル。ユートはこんなに強いの。だからたとえあなたが魔法を失敗しても、簡単に挽回してくれるわ。そうと分かれば、失敗を恐れないで、落ち着いて魔法を作れるでしょ?」

「は、はい」

 シルファさんの言葉に、私はこくこくと頷きます。ユートさんも納得したように頷きました。

「そういうことだったのか。フルル、シルファの言う通り、あんまり気負わなくていいからな」

「……はい」

 気が付いたら、障壁魔法は消えていました。私たちはそこから離れ、休憩も兼ねて、他のチーム同士の試合を見学します。

「流石に次もユート一人で勝てるほど甘くはないわ。フルル、今度は魔法を使ってもいいからね」

「………………」

 私は黙って頷きます。

「もう、そんなに思い詰めないの」

「……でも、もし失敗したらと思うと……」

「なあフルル、痛いのは嫌いか?」

 私の弱音に、ユートさんが口を開きました。私は小さく首を傾げながら答えます。

「は、はい。痛いのは、嫌いです」

「そうか、そうだよな。俺も痛いの嫌でさ、どうにかそれを回避しようと思って努力したら、防御魔法や強化魔法が上達したんだ」

「あなた、そんな理由でその魔法を身に付けたの?」

「じいさん、本当に容赦なかったからな……」

 シルファさんが、憐れむような、呆れたような、そんな感情が入り交じった声で言いました。ユートさんはどこか遠い目をして返します。

「とにかくさ、まずは痛いのが嫌だからとか、そういう単純な気持ちで魔法を使おうとすればいいと思うんだ。なんか今のフルルは、色々なことを考えすぎて、そのせいで魔法に集中できてない気がしてさ。もっと素直な気持ちを強く意識して、それを魔力に込めればいいと思う」

「あ……」

 ユートさんにそう言われて、私は頭の中のもやもやが、少し晴れたような気がしました。

「へえ、あなたにしてはいいことを言うわね」

「いやシルファ、俺をどんな目で見ていたんだ?」

「外でも裸足で駆け回る非常識な男子」

「うぐ、それは否定できないな……」

「それと学院では薄膜を使うから、普通痛い思いなんてしないわよ」

「あ、そうか。うーん、なら、やられると悔しい! みたいな気持ちを強くすれば」

「これは誉め言葉だけど、あなたって本当に単純ね」

「誉められている気がしないんだが!?」

「……ふふっ」

 二人のやり取りを見て、私は思わず笑ってしまいました。すると二人が同時にこちらを見て、慌てて両手で口元を隠します。

「あ、その……」

「どうして隠すんだ? フルルの笑顔、良かったぞ」

「そうね。私はかわいいと思ったわ」

「か、かわいいなんて、そんなこと……」

 お父さんとお母さん以外の人からそう言われたのは初めてでした。私は不意に両親のことを思い出して、目を潤ませてしまいます。

「フルル?」

「どうしたの?」

「い、いえ、大丈夫です!」

 私は目元を拭うと、ゆっくりと二人に向き合いました。

「……私、今度は頑張ります。絶対に、魔法を成功させます!」

「はは、頼もしいな」

「無理はしなくていいからね」

「はい!」

 笑顔を向けてくれるユートさんとシルファさんに、私は大きく頷きました。

 やがて、また私たちの出番が来ます。今度はキース先生が審判をしているところでの試合でした。相手のチームの四人には、見覚えがありません。ユートさんやシルファさんと同じクラスの方なのでしょう。

「昨日のようには行かないからな、ユート!」

「ああ。けれどこっちも、昨日と同じだと思うなよ」

 礼をした後、相手のチームの方が、ユートさんと言葉を交わしました。ユートさんはクラスメイトと仲がいいんでしょうか? 私とは大違いです。

 今度の相手は、前衛と後衛にそれぞれ男女が一組ずつの陣形でした。けれどお互いの間隔が少し狭い気がします。

「ユートの速さに翻弄されないよう、固まって守る面積を小さくしているようね」

「みたいだな。まあ問題ないさ」

「………………」

 私は二人の間に立って、体の前でぎゅっと両手を握りしめました。

 さっきあんなに意気込んだのに、私はまた緊張していました。どうにか体の震えを抑えようと、強く強く手を握ります。

「安心して、フルル。もしもの時は私が守るわ」

「……いえ、大丈夫です。シルファさんは、私が守ります」

「ふふ、心強いわね」

「そんじゃ、試合開始だ!」

 キース先生の声が響き、ユートさんが手を叩いてから駆け出していきます。私は自分を落ち着かせながら、魔術式を形成していきます。

「えっ!?」

 相手がもう攻撃してきました。ユートさんの方にも光弾を放っていますが、私たちに向ける魔法の方が多いです。先に私たちを倒して、最後にユートさんを四人で倒そうとしているようでした。

 けれど相手の光弾は小さく、そんなに速くもありません。私はどうにか魔術式を形成すると、攻撃が届く前に防御魔法を発現させました。

「できた……!」

 大きな光の壁が魔術式の先に立ち、相手の攻撃を防ぎます。私は魔術式に魔力を込め続け、魔法が消えないようにします。

「あっ……!」

 安心してすぐのことでした。後衛の二人が大きめの魔術式を形成し終えたのが見えました。片方はユートさんの方に、もう片方はこちらに向けられています。ユートさんは攻撃を避けながら近づいていっていますが、まだ相手には辿り着けていません。

 そして魔法が放たれました。大きく速い光弾は、私の防御の上の方に当たります。小さな光弾は下の方です。魔法同士をぶつけないようにしているのでしょう。あんなに離れた場所から、とても正確に攻撃してきています。

 私は必死に魔力を込めますが、攻撃が激しく、発現させる内から削られていきます。

 ……ダメです。もう……!

「ご、ごめんなさ――」

「フルル、こっちにきて」

「っ!」

 それは、シルファさんの魔術式が完成したという意味の合言葉でした。私は急いで後ろを向き、シルファさんの背後に移動します。

 シルファさんが形成した魔術式は、シルファさんの身長よりも大きいものでした。私はその綺麗な魔術式に一瞬見とれてしまいます。

「あっ!」

 魔術式の横を通り抜けるときに、足がもつれて倒れてしまいます。倒れたまま慌てて振り向く私の目に、迫る光弾と、凛とした表情のまま魔術式を構えるシルファさんが映りました。

「突き進め、『アイス・ピラー』!」

 魔術式から発現した大きな氷が、光弾を弾きながら進んでいきました。その先には、一ヶ所に固まった相手のチームがあって――

「うお!」

「きゃあっ!」

 二人が魔法に当たりました。残った二人も、驚いている間にユートさんが倒してしまいます。

「そこまで!」

 私は、キース先生が試合の終わりを告げても、まだ倒れたまま、口を大きく開けていました。

「……すごい……」

 相手の攻撃をものともせず突き進んだ氷の塊は、ゆっくりとその姿を消していき、淡い光を残します。その綺麗な光景に、私は心を奪われてしまいました。

「フルル、大丈夫?」

「……は、はい!」

 私は差し伸べられた手を握って立ち上がります。シルファさんは小さく微笑んでいました。

「今回の勝因は、私の最大の魔法が、最適な状況で発現できたこと。私の強みを活かせたことね」

 そしてシルファさんは、私の頭を撫でてくれました。

「それができたのはユートと、あなたのおかげよ、フルル。よく頑張ってくれたわ」

「……ふあ……」

 私のおかげ。その言葉がじんわりと私の心に染み込んできます。

「あなたは『お荷物』なんかじゃない。そのことを皆に教えてあげましょう」

「はい!」

 私は、自分でも驚くほど自然に笑顔を浮かべて、大きく返事をしました。

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