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メンバー候補

「ふぅん、早速一人見つけたのね。やるじゃない」

 ジェンヌ先生のクラスとの合同授業をするために移動した魔法競技場にて、俺はシルファに今朝の話を伝えた。

「それで? その生徒はどんな魔法を使うの?」

「さあ?」

「さあって、実力があると思ったから紹介してもらうよう頼んだんじゃないの?」

「いいや。まだチームを組んでいない生徒が居たら紹介してほしいって頼んだんだ」

 シルファは頭を押さえてため息をつく。

「それじゃあ意味ないじゃない。チームメンバーが増えても、お互いの実力に差があったら上手くいかないわ。最悪、できるメンバーにほとんどの仕事を任せて、自分はそれについていくだけでいいなんて考える奴が入ってくるかもしれないのよ?」

「確かにそれは困るけど、たとえ実力がなくても頑張ろうって思える生徒なら問題ないんじゃないか?」

「問題あるわよ。例えば依頼を受ける時だって、そのメンバーの実力に合わせた依頼にしなくちゃならないわ。魔法の練習をするにしても、そのメンバーに教えている間、他のメンバーは自分の練習ができなくなるし」

「それを言うなら、俺もメンバーになれないんじゃ?」

「あなたは魔術式が小さいだけで実力もあるし、一人で練習することもできるでしょ。もう少し自分に自信を持ちなさい」

「おっしお前ら、授業を始めるぞー」

 キース先生の声が響き渡り、会話はそこで終わった。俺は渋々口を閉じる。

 シルファの言うことも分からなくはないけれど、いくら実力がないと言ってもここの生徒なわけだし、少なくとも俺は一緒に成長し合えると思うんだけどな。

 もやもやしたままキース先生を見る。その向こうにはジェンヌ先生の後ろ姿があり、ジェンヌ先生のクラスの生徒たちが集まっている。あの中に、これから紹介してもらえる生徒がいるんだろう。そう考えると少しわくわくしてきた。

「ジェンヌのクラスの生徒と一緒に授業するのは、今度の対抗戦前だとこれが最後の機会だ。お前らが成長した姿、存分に見せつけてこい!」

 はい! と強く返事をする。それに少し遅れて、ジェンヌ先生のクラスからも大きな声が聞こえた。

「そんじゃチームを組み始めろ。折角なら向こうの生徒と組んでも面白いと思うぞ。案外新しいチームができるかもしれないしな」

 そう言ってキース先生は俺たちから離れる。それを合図に、俺たちのクラスはチームごとに固まった。授業中はチームで行動するのが義務というわけではないらしいけれど、チーム戦をするからには慣れた相手と組みたいという心理からか、自然とそういう形になっていた。俺自身、チームを組んだばかりのシルファとの連携はまだまだ未熟だし、シルファと組まないという選択肢はなかった。

 クラスメイトだけでチームを組んでいる生徒は四人揃っているけれど、アランやフレイみたいに、他のクラスの生徒とチームを組んでいる生徒は、別のそういった生徒たちと一時的にチームを組むことができる。今回は合同授業だから、向こうのクラスの生徒ともチームを組めるということだ。

「ねえアラン、また僕を入れてもらってもいいかな?」

「おう、いいぞ」

 けれどクラスの皆は、昨日の授業と同じチームを作りだした。向こうのクラスの様子を見ても、こっちのクラスに話しかけようとする生徒は見当たらない。どうやらジェンヌ先生のクラスの生徒とチームを組んでいる人はいないみたいだけど、なんだか寂しいな。

「おぉいユートぉ」

 などと考えていると、ジェンヌ先生が一人の女子生徒を連れてやってきた。ジェンヌ先生に隠れるようにして、俯きがちに歩くその子は、こちらを窺うように顔を上げた。柔らかそうな金色の髪が、その動きに少し遅れて小さく揺れる。

 随分と小柄な子だった。制服の胸の部分にある校章の色からして俺たちと同学年なんだろうけど、二つくらい歳が離れていると言われても納得してしまいそうだ。灰色の丸い大きな瞳といい、顔だちも幼く見える。

「フルル・ヴァングリュー……」

 シルファがポツリと呟いた。

「シルファ、知ってるのか?」

「ええ、知っているわ。ジェンヌ先生、もしかして彼女が?」

「おぉ、シルファももう話を聞いているかぁ。それなら話は早いなぁ。ほらフルルぅ、いつまでも私に隠れているなぁ」

「……はい」

 その子、フルルがおどおどしながら前に出た。

「……フルル・ヴァングリューです。よろしくお願いします」

 丁寧に頭を下げるフルルに、俺は笑顔で挨拶を返した。

「おう、よろしくな。俺はユートだ」

「シルファ・クレシェンよ。よろしく」

「………………」

 フルルはゆっくりと顔を上げ、上目遣いでこちらを窺うように見た。

「……あなたが、ユートさん……」

「ん? 俺のこと知ってるのか?」

「……やっぱり、あの編入試験の人、ですよね?」

「ああ、俺の試験見てくれていたのか」

 俺は少し恥ずかしくなって軽く頬を掻く。

「フルルもユートのことを知っていたのかぁ。これは私が思った以上にうまくいきそうだなぁ。それじゃあ後はよろしくぅ」

「え、ジェンヌ先生?」

 それ以上言うことはないのかと思い呼び止めようとするも、ジェンヌ先生はひらひらと手を振って離れていってしまう。

「………………」

「………………」

 あとには中途半端に手を伸ばしかけた俺と、無言で俯くフルルと、そのフルルを無表情で見るシルファが残った。

「まあいいか。それじゃあ早速だけど、お互いの魔法を教え合おう。俺の魔法は――」

「……知っています。楕円形魔術式を使うんですよね?」

「あれ、もしかして試験を最後まで見てくれたのか?」

「……はい」

「そうだったのか。はは、なんだか嬉しいな」

 理由はどうあれ、自分の頑張りを見てもらえたっていうのは嬉しいものがある。

「……ごめんなさい」

「え、なんで謝るんだ?」

「……その、ユートさんの知らないところで、ユートさんを覗いていたというか、えと、……ごめんなさい」

「いや、何も謝ることはないんだけど……」

 あれは本人に無断で覗くとかそういうものじゃないし、引け目を感じる必要なんてないはずだ。それともフルルが生活していた場所では、そういうのがいけないことだったりするのだろうか?

「フルル、あなたの使う魔法を教えてくれる?」

 フルルの持つ常識を尋ねようとする前に、シルファが口を開いた。まあ今聞かないといけないことじゃないし、別にいいか。

「……私は、基本的な魔法しか使えません。光弾と、防御の魔法、くらいです」

「そう。私は氷の魔法を使えるわ。時間さえ貰えれば、大規模魔法も発現させられる。私の魔法に関して、何か質問はあるかしら?」

 フルルはゆっくりと首を横に振った。

「なら次は戦略について話すわね。私とユートはチームを組んでいるんだけど、彼が前に出て相手を撹乱させて、その隙に私が魔法で攻撃するって動きが基本的な戦略になるわ」

 それは昨日の授業前に二人で立てた戦略だった。二人しかいない分、各々の実力を最大限に発揮する必要があるという方針のもと決まったものである。

 俺が持ち前の速さと守りで攻撃を防ぎながら距離を詰め、俺の対応に手間取っている相手にシルファが大規模魔法をぶつけるという単純な作戦だ。

「けれどこれだと攻め手が足りないのよね」

 そこで一旦言葉を止め、シルファはフルルを見る。フルルはそれに気づくと、慌てたように目をきょろきょろさせ、こくこくと頷いた。

「……元々二人しかいないっていうのもあるけれど、例えば相手が強固な防御魔法を発現させたら、突破するには私が大規模魔法を発現させるしかなくなるわ。できることなら相手が防御のための魔術式を形成する前に攻め切りたいのだけれど、他のメンバーにけん制されたら、ユートは私を守るために防御に専念しなくちゃいけなくなる」

 確認するようなシルファの視線を受ける。それにつられるようにフルルも俺を見たところで首肯した。

 一人ならどうにかなるけれど、二人がかりで弾幕を張られると俺は動けなくなってしまう。間断なく飛んでくる魔法を防ぎながらだと進めないし、避けたらそれらがシルファに向かうことになるためだ。

「私が魔術式を完成させられていたら、ユートは私のことを気にしなくてもよくなるけれど、最初からそんな大きな魔術式を形成しだしたら、相手はここぞとばかりに集中砲火してくるわ。そうなるとユート一人じゃ、ユート自身はともかく私まで守りきることはできない」

 そのためシルファも早いうちから魔術式を形成して攻撃に参加するしかないのだが、そうなると二人や三人で凌がれている間に、相手の防御魔法や大規模魔法が先に完成してしまうというわけだ。そうなったら負けるというわけではないけれど、数の差で押し切られることが多い。

「………………」

 ここまでずっと、フルルは黙って話を聞いている。話を理解してないわけじゃなさそうだけど、自分から何かを言い出す気はないようだった。シルファはそんなフルルを見て、口を開いた。

「そこでフルル、あなたには中衛で防御を担当してもらうわ。ユートは後ろを気にせず相手に近づいて、私は大規模魔法の魔術式を形成する。いいわね?」

「……はい」

 伏し目がちなままのフルルは、それだけ言って頷いた。

「ちょっと待ってくれ。フルルだけで相手の魔法を全部防ぎきれるのか?」

「だそうよ。どうなの? フルル」

「………………」

 フルルは無言で首を横に振る。そりゃそうだよな。いくら何でも四人分の攻撃を一人の防御魔法で防ぎきれるわけがない。よっぽどの実力者なら話は別なんだろうけど。

 そこで思い出したのが、倒れた俺を見下しながら楽しそうに笑うじいさんだった。俺はなんだか無性に体を動かしたくなる。

 落ち着こう。俺は静かに息を吐いた。

「…………っ!」

 するとなぜか、フルルが僅かに肩を強張らせた。どうしたんだろう?

「私も何も、あなたにそこまで求めているわけじゃないわ」

 シルファは一度こちらを鋭い目つきで睨むと、フルルに向き直った。なんなんだ一体……。

「フルル、形成できる魔術式の大きさはどのくらい?」

「……こ、このくらいです……」

 フルルは両手を動かして、空中に円を描く。直径は俺の魔術式の三倍くらいか。十分大きいな。

「ええ、それでいいわ。あなたはできるだけ早く、その大きさの魔術式を作って、防御魔法を発現させてほしいの」

「……本当に、それでいいんですか?」

「それでいいわ。その大きさなら少なくとも、けん制のための小さな光弾なら二人分くらいは防げるでしょうから」

「ああ、そういうことか」

 俺はようやく納得する。シルファも小さく頷いた。

「え、え? どういうことですか?」

 まだ話についていけてないフルルの言葉に、シルファは嬉しそうに目を細めた。

「やっと質問できたわね。偉いわよ」

「え、あ……」

 シルファはフルルの頭を優しく撫でた。フルルはどう反応していいか分からないといった表情だ。

「そろそろチームも組み終わったな。それじゃあ障壁魔法石を配るぞー」

 キース先生の声が聞こえ、他の生徒たちがぞろぞろと移動を始める。チームの一人がキース先生の前に並び、他のメンバーは受け取りが終わるのを待っていたり、先に場所を取りに行ったりしていた。

「続きは障壁魔法の中ね。ユート、取りに行ってきて」

「ああ、分かった」

 俺のチームは後者らしい。俺は最後尾まで駆け足で向かった。


「さ、行くわよ」

「……はい」

 すたすたと歩くシルファさんの後ろを、私は遅れないようについていきます。

 少し歩いたところで振り返ると、ユートさんは最後尾に並んだまま、こちらに背を向けていました。私たちが先に行くことを怒っていたりしないのでしょうか?

「フルル、どうしたの?」

「あ! す、すみません……」

 気が付いたら、離れたところでシルファさんが立ち止まって私を見ていました。私は走ってシルファさんの元に行きます。

「……ごめんなさい」

 待たせてしまったことが申し訳なくて、私は深く頭を下げます。

「気にしてないわ。寧ろそうやって謝られるほうが困るわね」

「す、すみません……」

「だから、それが困るのよ」

「あう、うぅ……」

 私はシルファさんと向き合っていられなくなって、シルファさんの足元を見ます。

 また嫌われてしまいました。私はどうして、こんなにダメなんでしょう……。

「フルル」

「…………はい」

「あなた、不本意なあだ名をつけられているみたいね」

「っ……!」

『お荷物』。そう聞こえた気がして、私は拳を強く握り、目をきゅっと閉じます。

「………………はい」

 私はどうにか、泣きそうになりながらも、答えられました。

 そんな私の頭に、ぽんと柔らかい何かが乗りました。

「なら、私たちと一緒ね」

「え……?」

 私はゆっくりと顔を上げます。シルファさんは私の頭を撫でながら、その顔に寂しそうな笑みを浮かべていました。

「私は『暴君』。ユートは『小物』だったかしら。勝手なものよね」

「………………」

 私はどう返していいか分からず、シルファさんに撫でられたまま、その顔をちらちらと窺います。

「けれど、所詮は周りが勝手に言っているだけのものよ。あなたも気にする必要はないわ、フルル」

「………………」

「返事は?」

「あ、はい!」

「いい子ね」

 そう言ってシルファさんは、私に背を向けて歩き始めました。銀色の髪がさらりと揺れます。私にはその姿が、すごく綺麗なものに見えました。

 ……私も、シルファさんみたいになれたらな……。

 そんな小さな憧れは、けれど、自分が背負っているものを思い出して、消えてしまいました。

「フルル?」

「す、すみません。今行きます」

「だから謝らないで」

「は、はい……」

 シルファさんはまた、背中を見せて歩き出します。私は今度こそ遅れないよう、しっかりと前を向いて歩きました。

 私はシルファさんみたいにはなれません。でもせめて、シルファさんの力になりたいです。シルファさんの背中を見ながら、私はそう心に決めました。

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