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メンバーを探せ

「このままじゃ依頼を受けられないわ」

 開口一番にシルファはそう言った。場所は魔法競技場の観客席で、眼前には半球状の障壁魔法が無造作に立ち並んでいる。俺はそこから目を離し、横に座るシルファへと顔を向けた。

「依頼っていうと、シルファが俺を案内してくれたようなやつか?」

 シルファは前を向いたまま頷く。

「ええ。今まではそういう、一人でも受けられる依頼も少しだけならあったの。けれど今日以降、暫くは四人以上でないと依頼を受けられなくなったわ」

 ああ、そう言えば朝キース先生がそんなことを言ってたな。遠足の件を受けて、より安全に配慮するとかなんとか。

「つまりあと二人集めないと、依頼を受けられないってことか」

「そうよ。ただその話を抜きにしても、私たちのチームはまだ半分しかメンバーが集まっていないわ。同じチームでなくとも、四人揃えば依頼は受けられるけど、この機会に残りのメンバーも集めたいと思うの」

「確かに二人だけのままよりも、折角なら四人いたほうがいいよな」

 メンバーが増えればその分戦略も増えるし、何より仲のいい相手が増える。絶対その方が楽しいし、お互いにいい影響を与え合えるはずだ。

「そういうわけだから、実力のありそうな生徒がいたら覚えておいて欲しいの」

「なるほど、だから観客席に来たのか」

 俺は前に向き直ると、障壁魔法石の中にいる生徒たち一人一人の動きを観察する。

「けどこうして見ると、もう四人揃っているところがほとんどだな」

「中等部の頃からずっと同じチームのまま卒業する生徒もいるって話だし、私たちみたいに、二人以下で行動している生徒は多くないでしょうね」

 ふむ、お互いを知り尽くしているようなメンバーと一緒の方が何かと安心するってのもあるんだろうな。

「けれど実力に差が出始めたとかで、チームから抜ける生徒も少なからずいるわ。そういう生徒を引き込めればいいんだけど」

 心なしか、シルファの声が下がったような気がした。俺は横目で軽くシルファを見る。けれどその表情は変わってなかった。俺の気のせいだったかな。

「あとはあなたと同じ、編入生とかかしらね。編入してきた時にはもう四人で固まっているチームも多いし、もしかしたらまだどこのチームにも所属してないかもしれないわ」

「うーん、とりあえず事情がどうあれ、チームを組んでいない実力者を引き入れればいいんだよな?」

「ええ」

「ならシイキを誘えば」

「ダメよ」

 言い終わる前に断られてしまった。

「どうしてだ? シイキはまだ誰ともチームを組んでいないし、実力もあると思うんだけど」

「大事な条件を言い忘れていたわ。いくら実力があっても、性格や態度が悪い生徒はダメ。チームが崩壊するわ」

「シイキは別に性格が悪いようには見えないけどな」

「私と合わないの。……まあ、どうしても足りなくなったらやむを得ないけれど、あくまで最終手段よ。いいわね?」

「う、うん」

 かなりの剣幕で迫られ、素直に頷く。シルファもそれに満足したように頷くと、元の体勢に戻った。

 昔何かあったのかな? 今度それとなくシイキに聞いてみるか。

「それとさっきも言ったけれど、あなたは気になった生徒を覚えておいてくれればいいの。誘うかどうかはリーダーである私が判断するから」

「構わないけど、面倒じゃないか? 他のチームに先に誘われるかもしれないし、声をかけるくらいならいいんじゃ?」

「自覚がないみたいだけど、あなたはびっくりするくらいお人好しだから、相手の態度が悪くても気づかないと思うわ。だから勧誘は私に任せなさい」

「……分かった」

 いまいち釈然としないけれど納得する。俺だってじいさんに馬鹿にされるのには気づけるし、シルファが言うほどお人好しなわけでもないと思うんだけどな。

「とりあえず、今日のところはもう解散ね。競技場にも良さそうな生徒はいないし」

「シルファも結構目がいいのか?」

「そう? このくらい普通だと思うけど」

「だよな。俺もこの前視力がいいって言われたけど、あまりピンとこなくてさ」

 俺とシルファは立ち上がると、出口に向かって歩き出した。


「そういうわけで、まだチームを組んでいない生徒を探しているんですけれど、心当たりはありませんか?」

「ふむぅ、そうだなぁ……」

 シルファとチームについて話した翌朝、ジェンヌ先生のパトロールを手伝った後、俺は一緒に回った子犬の精霊を撫でながら先生に事情を話した。

 獣人族のジェンヌ先生は、相変わらず茶色で統一した服装に身を包み、大きな犬の精霊にもたれかかりながら、ゆっくりと首を傾げる。考えることに集中するためか目を閉じる先生だけど、その動作や間延びした口調も相まって、なんだか眠そうに見える。

「その子をもっと撫でてくれたら教えてあげようかなぁ」

「任せてください!」

 俺は足元にいる子犬を撫で回す。茶色い子犬は気持ち良さそうに喉を鳴らした。可愛いなぁ。

 しかしこの毛並みといい柔らかさといい暖かさといい、本物の子犬と言われても信じちゃいそうなくらい存在が安定してるよな。あの大きな犬も見てて全く違和感ないし、顕現するために相当魔力を使っているはずだ。俺は改めてジェンヌ先生のすごさを実感する。

「ユートは入ってきたばかりだからなぁ。あの制限は困るよなぁ」

「いえ、そうでなくてもチームは四人で組みたいですし、寧ろいい機会だと思います。俺達と同じように、メンバーが足りない生徒も見つけやすくなるかもしれませんし」

「確かにそういう考え方もできるかぁ」

 ジェンヌ先生はうんうんと頷く。

「ところで、依頼を受けると何かいいことがあったりするんですか?」

「おやぁ、ユートはまだ知らなかったかぁ。この学院を卒業するためには一定の量の依頼を受けないといけないんだぁ」

「そうだったんですか」

 初耳だった。それなら依頼を受けられないのは困るな。

「未来の魔導士を育てるところだからなぁ。簡単なものでもいいからいくつか依頼を経験しておかないとぉ、卒業してからが大変だしなぁ」

「授業では依頼について全く触れないんですか?」

「いやぁ、依頼の受け方とか基本的なことに関しては教えるぞぉ。だけど実際に受けてみないと分からないことも多いからなぁ。そこはできるだけ学院は干渉しないようにしてるんだぁ」

 なるほど、そういうところで生徒の自主性を高めるわけか。

「ただ折角依頼を受けるならぁ、卒業するために嫌々受けるのではなくてぇ、自分が成長するチャンスと捉えて受けて欲しいかなぁ。学院に守られている安全な環境から外に出てぇ、見聞を広めたり困難を乗り越えたりして欲しいんだぁ。……図らずも今回の遠足がそれに近くなってしまったけどな」

 ジェンヌ先生は自嘲気味に笑う。俺は子犬を撫でる手を止めて、ジェンヌ先生の目を真っ直ぐ見た。

「俺は事情を全部知ってるわけじゃないですけど、先生方はちゃんと俺たちの安全を考えてくれていたと思います。それでも起きてしまったことなら、もう仕方ないですよ。必要以上に気にすることはないです」

 実際、じいさんの旅行なんかよりはよっぽど安心できたしな。俺は確信を持って先生に告げる。

「それに俺だって、自分のことを省みず行動して先生方に迷惑をかけちゃいましたし、お互い様ですよ」

 俺が苦笑混じりに言うと、ジェンヌ先生は少しだけ目を大きくした。やがてその目を細めて優しく微笑み返してくれる。

「ユートはいいやつだなぁ。その子がなつくのも納得だぁ」

 アン! と子犬が高い声を上げる。前足を俺の足に乗せてこちらを見上げる姿は、もっと撫でてくれとせがんでいるようだった。

「ああ、ごめんな」

 俺は手の動きを再開する。子犬は満足したように目を細めた。

「話が逸れたなぁ。約束通りまだチームを組んでいない生徒を紹介しよぉ」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

「感謝されるほどじゃないさぁ。紹介するだけだしなぁ」

「いえ、とてもありがたいです」

 外から見ただけじゃチームを組んでいる生徒かどうか分からないし、数も少ないみたいだからな。当てもなく闇雲に探すよりかはよっぽどいい。

「それじゃあ早速今日の授業で紹介するなぁ」

「え、授業は担任の先生が行うんじゃ?」

 俺たちの担任はキース先生だ。ジェンヌ先生と授業で関わることはないと思うんだけど。

「今日は丁度ぉ、私とキースのクラスで合同授業があるからなぁ。そこでチーム戦をする予定なんだけどぉ、私のクラスの生徒でただ一人チームを組んでいない生徒がいるんだぁ。だからよければ一緒にチームを組んでやってくれぇ」

「そういうことですか。分かりました!」

 話しているうちに、太陽の位置が高くなってきていた。

「あ、もうすぐ朝の集会が始まる時間ですね」

「あぁ、もうそんな時間かぁ。良かったら途中まで送ろうかぁ?」

「いえ、走ったほうが運動になりますから」

「ユートは元気だなぁ。それじゃあまたなぁ」

「はい」

 俺はジェンヌ先生に軽く頭を下げてから、自分の教室へと向かった。


「今日はここまでにするかぁ。それじゃあみんなぁ、次の授業は合同授業だぁ。魔法競技場に移動するぞぉ」

 クラスメイトの皆さんは、大きな声で返事をすると、立ち上がって教室から出ていきます。私はこういうときいつも、他の皆さんが出ていくまで待つことにしていました。

「チーム戦か。楽しみだな」

「お前らはそうだろうよ。このクラスだけで四人揃ってるんだからさ」

「今日は誰が荷物番になるのかね?」

 教室の外からそんな声が届きました。私は両手で耳を塞いで、目を強く閉じます。これはここに来る前から身につけていた、私なりの防御でした。耳にしたくない言葉から、目にしたくない悪意から、自分の身を守る唯一の手段でした。

「何度も言っているけどぉ、気にすることはないぞぉ」

 肩に何かが触れました。私は驚いて目を開けます。すると目の前には、私のクラスの担任の先生、ジェンヌ先生がいました。

「……えっと、私に何か用ですか?」

「そうだぞぉ。とりあえず歩きながら話そうかぁ」

 もう教室に残っているのは、私とジェンヌ先生だけでした。私は席から立ち上がると、ジェンヌ先生と一緒に教室から出ます。

「この後の授業なんだけどなぁ」

「っ……!」

 私は反射的に身をすくめます。ジェンヌ先生が続ける言葉を予想したからでした。

 きっとジェンヌ先生も、私に授業に参加して欲しくなくて――

「別のクラスの子とチームを組んで欲しいんだぁ」

「えっ……」

 予想していた言葉とは違いましたけど、すぐに納得しました。つまり私を他のクラスのチームに押し付けたいのでしょう。

「……私が『お荷物』だからですか?」

 私はできるだけ傷つかないよう、先に自分で自分を傷つけます。けれどジェンヌ先生は首を横に振りました。

「いいやぁ。その子がまだチームを組んでいない生徒を探しているんだぁ。チームのメンバーを増やしたいんだってぇ」

「……そう、ですか」

 私は自分の足元を見ながら歩きます。確かに私はまだ他の人とチームを組んではいません。けれどそれは、私がチームを組めない理由があるからです。

「きっとその人も私をチームに入れてはくれないだろうなぁ、なんて思っているんじゃないかぁ?」

 思っていたことを言い当てられて、私はびっくりして顔を上げました。ジェンヌ先生は小さく笑ってこちらを見ています。ジェンヌ先生は他人の心の中を覗けるのでしょうか?

「フルルは本当に分かりやすいなぁ。これも何度も言っていることだけどぉ、やる前から諦めてちゃあ、うまくいくこともうまくいかなくなるんだぞぉ」

「……でも私、皆さんよりも魔術式が小さいですし……」

 私はまた自分の靴を見ようとして、

「その子、ユートはフルルよりも魔術式が小さいぞ」

「えっ?」

 ジェンヌ先生を見上げました。その顔には、さっきまであった笑顔はなく、真剣な表情がありました。

「ユートは魔力放出量が少ないんだ。恐らく中等部の生徒にすら及ばないだろうな。それでも彼なりに努力した結果、編入試験を突破してここの生徒になることを認められたんだ」

 編入試験を……? もしかして……。

「……すごいんですね」

「ああ。だからユートは少なくとも、フルルの魔術式が小さいことなど気にもしないだろう」

「……でも、私は……」

 俯きかける私の肩を、ジェンヌ先生がぽんぽんと叩きます。

「まぁまぁ、とりあえずユートとチームを組んでみてよぉ。なにも最初から信頼しろってわけじゃないからさぁ」

「…………はい」

 私は不安と、うまく言葉にできない不思議な感情を抱きながら、魔法競技場の入り口をくぐりました。

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