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物理重視の魔法使い  作者: 東赤月
出会い
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招待の失敗

 腕に結晶を刺したまま集合予定地に辿り着くと、既に二人が揃っていた。一人は腕を組んでこちらを向き、もう一人は退屈そうに空を見上げている。

「どういうことだ? まるで成果がないようだが」

 全身を銀色の甲冑に包んだ『将軍』が憎々しげに言う。その顔は見れないが、浮かべているであろう仏頂面を容易に想像できた。相変わらずの重苦しい口調に、俺は軽い調子で返す。

「成果ならあるさ。俺たちの見立てが甘かったということが分かった」

「ええー。あんなにペットちゃんを使ったのに、それだけー?」

 不満そうに言うのは、裾の短い白い和服を身につけた少女だ。頭の左右で結んだ金髪と、二本の銀の角が前後に揺れる。厚底草履を履いた足もバタバタと動かし、椅子にしている熊の魔物に不満をぶつけていた。しかしその仕打ちにも魔物は微動だにしない。こちらも相変わらず、子供のような性格のままだ。こんな性格でよくペットを調教できるものだ。

「そんな成果とも呼べぬものを、どんな顔をして我らが『帝』様に報告するつもりだ? まさか今の貴様のように、不愉快な笑みを貼りつけてするとでも?」

「そうかっかするな」

「あっ、じゃあ『王』ちゃんにも将軍ちゃんの兜を被せたらいいんじゃない?」

「話の腰を折るな、『姫』。……聞けば貴様のその傷、疲労していた学生二人に負わされたものだそうだが、王様は随分と楽しく遊んでいたようだな?」

 ここに向かうまでの道中、通信魔法で俺の身に起こったことを大まかに聞いていた将軍が吐き捨てるように言った。

「ああ、中々楽しかったぞ」

 嫌味に対して素直な感想を返すと、将軍は声を荒らげる。

「貴様が遊んでいなければ、招待者ゼロなどという失態も晒さずに済んだはずだ。一体どう責任をとるつもりだ?」

 怒ったところで結果は変わらないだろうに。俺は肩をすくめて答えた。

「俺の失態は認める。相応の罰も受けるさ。しかしな、誰も招待できなかった最大の理由は、教師どもを足止めできなかったお前にあるとは思わないか?」

 俺が楽しんでいたせいでもあるが、あの時通信が入らなければ、少なくともあの二人は招待できた。それに元々俺の役割は、熊の魔物を打ち倒せるほどの学生を招待することで、その数は少ないという目算だった。大多数の学生は魔物に敗れ、その魔物が口に咥えて招待してくるはずだったのだが、そうならなかったのは足止め役の将軍が、教師どもを自由にさせていたことに因るところが大きい。

 とは言え、教師の数も多くはない。足止めがうまくできなかったのが全ての原因というわけではないだろう。学生だけで上手く対処したという件も少なからずあったはずだ。

「確かにそれは私の責任だ。どのような裁きが下されようと受け入れる。……あのストレイトという男、予想以上の実力者だった。こちらの誘いにも乗らず、真っ直ぐ学生の元へと戻ろうとしていた。そのせいで他の教師にまで手が回らなかった……」

 将軍は悔しそうに奥歯を鳴らす。姫は小さく首を捻った。

「その場で倒そうとするんじゃなくて、わざわざ足手まといになりそうな学生の元へ戻ろうとしたの? それも外部の人間が? うーん、私たちが招待しようとしてるってバレてたのかなー?」

「かもしれん。もしそうだとしたら、貴様の責任はより重いものになるぞ」

 再び怒りの矛先を向けられた俺は鼻で笑う。俺がユートと接触したことを指しているんだろうが、別段それがなくても、学院側が生徒の安否を最優先させ、有事の際は生徒の元に戻るよう伝えていたなどという可能性も十分あり得るはずだ。

「俺の存在が学院側に知られたかもしれないという件なら、もう終わった話だろう? そのことを受け、より周到に準備した結果がこれだということを認めたくない気持ちは分かるがな。いや、むしろそれがなければ今以上の大失態を犯していたかもしれないぞ? 指揮官どの」

 そもそも、そのストレイトという魔導士がやってくることは予想されていたことだ。そしてそれを足止めするのは将軍の役割であり、招待役の俺に責任を問われても困る。

「貴様……っ!」

「もー、喧嘩はダメー!」

 険悪な雰囲気に我慢ができなくなったのか、姫が両手を上げた。その先から膨大な魔力の光が溢れだし――

「姫、やめろ」

 その光が形を成す前に霧散させる。入り口から距離があるとは言え、ここで姫の魔法を使わせるわけにはいかなかった。最悪学院側にこちらの位置を知らせかねない。追われるのは面倒だ。

「むー」

 姫は口を尖らせるも、納得したのか渋々手を下ろした。将軍は小さく鼻を鳴らす。

「既に『籠』を展開済みか。それがあって、何故学生ごときに傷を負った?」

「魔術式の形成が早すぎてな。俺が妨害する暇がなかったんだ」

「へー。そんな早く、魔衣を破れるのを作れたの?」

「……本当か?」

 姫が身を前に乗り出し、 将軍もその声に僅かな驚きの色を混ぜた。

「本当だ。まあ、お前たちが想像しているようなものじゃないだろうがな」

 俺は左手で結晶を掴むと、おもむろにそれを引き抜く。その痛みの余韻を楽しみながら、二人に結晶の先を向けた。

「とにかく、俺たちは相手を見誤ったんだ。上手く連携したのか知らんが、姫のペットにも引けをとらない学生ども、そして起こりうるイレギュラーを想定して、入念な対策をしてきたであろう教師どもをな」

「………………」

「あたしは言われたとおりにしたもーん」

 姫がそっぽを向く。確かにこいつは言われたことをその通りに遂行したため、責めることはできない。もっとも、それ以上のこともしなかったわけだが。

「ああ。責任は俺と将軍にある。罰は俺たち二人が受けよう。それでいいか?」

「うんうん。そうしてよね」

「……元より、そのつもりだ」

 それを聞いて、一転声音が明るくなる姫とは対照的に、将軍の雰囲気が益々暗くなったようだった。胸の内でどんな覚悟を決めているのやら。

「そんな顔をするな、将軍。さっきも言ったが、成果ならある」

「我々の見通しが甘かったという事実の、何が成果だ!」

「言い方を変えよう。グリマール魔法学院の生徒なら、帝様も気に入る可能性が高いということが分かった」

「………………!」

 将軍が何かを言いかけて口を閉ざす。俺は将軍がまた変な理屈をこねだす前に畳み掛けた。

「そもそも今回の招待は、量より質を優先するという方針の元計画されたものだ。相手も一筋縄ではいかないだろうと想定した上で戦力を整えたわけだが、相手はこちらの想定を越えてきた。つまり俺たちの予想以上に良い人材が集まっているということだ。仮に今回の招待が成功していたとしても、帝様が満足できないんじゃ振り出しに戻るだけだ。しかし帝様が満足できる存在がいると分かれば、そこに狙いを絞ることができる。今までのような、運任せの招待はしなくて済むということだ。そう考えれば、少しは前進したとは思わないか?」

「………………」

 将軍は暫く考え込んでから頷いた。

「貴様の言い分にも一理ある。また有象無象を招待して帝様を失望させることに比べれば、確かに成果と言えそうだ。……コストに見合ったリターンとは言い難いがな」

「ねー、そんなことよりもお迎えはまだー? あたし、早くテーコクに帰りたーい」

 自分が責任をとらなくていいと知った途端に、姫はこの件に無関心になったようだ。俺はその言動に苦笑する。

「まあ反省するにしろ何にしろ、これ以上は戻ってからだな。もうすぐ新入りの部下がやってくるはずだ。姫、もう少し待ってくれ」

「……いいだろう。だが戻るまでの間に、貴様がとった行動とその理由を全て話してもらうぞ」

 やれやれ。どうにか場を取り繕ったと言うのに、こいつはまた不機嫌になりそうだな。俺は追及を逃れるための言い訳を考えながら、あの二人を招待する未来に思いを馳せていた。

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