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物理重視の魔法使い  作者: 東赤月
出会い
15/104

チームの力

「ふっ!」

「ふっ!」

 ドゴッ!

 ゴオオオ!

 強化された脚での廻し蹴りを、熊のような魔物の側頭部に叩きつける。これはさすがに効いたのか、魔物は呻きながら、ゆっくりとその体を傾けた。俺はアランに目配せすると、素早く魔物から距離を取る。

「フレイ、今だ!」

「食らえ、『ファイア・ボール』!」

 アランの指示に、フレイは形成の終わった魔術式から魔法を発現させる。一抱えはある大きさの火球が、体勢を崩した魔物へと吸い込まれていく。

 ボオン!

 火球は魔物に当たると、大きな爆発を起こした。まともに食らった魔物は地面に倒れ、結晶を残して消滅していく。

「よっし、倒せたわ!」

「油断するな! まだ終わりじゃないぞ!」

 一体と交戦している間に、さらにもう三体、森の奥から赤い目の魔物が現れる。討伐対象として聞かされていない魔物だ。魔法石による通信も何故か繋がらないというし、明らかに異常事態が起きていた。

 普通に逃げても追いつかれてしまう可能性が高い。そこでアランは、魔物の強さを推し量るために迎え撃ちつつ、魔術式の大きさだけなら規格外なシイキがその形成を終えるまでの時間を稼ぎ、大規模魔法で辺り一帯を攻撃し、魔物たちがそれに怯んでいるうちにこの場を離れるという作戦をとった。

「シイキ、魔術式が完成するまで、あとどれくらいかかる?」

「……一分以上」

 アランの問いに、シイキは苦い表情を浮かべながら答える。その間にも、魔物は俺たちとの距離を詰めてきていた。

「ユート、左の魔物を足止めしておいてくれ。俺が右をやる。フレイは魔術式を保ったまま、中央の奴から一体ずつ、確実に倒してくれ」

「分かった!」

「まっかせて!」

 俺は強く答えると、左から向かってくる魔物との距離を詰める。

「っ! ユート!」

 すると中央の魔物が、俺の方へと方向転換してきた。群れから飛び出た獲物を狩るという合理的な判断だ。アランの警告に、俺は笑みを返す。

「いや、これでいい! フレイ、俺のことは気にしないで撃て!」

「で、でも……!」

「早く!」

 今、二体の魔物は俺のことしか目に入っていない。狙い撃ちするには絶好の機会だ。

 背後から迫る魔物越しに目が合ったフレイが、口を引き結ぶのが見えた。

「ごめんっ! 『ファイア・ボール』!」

 フレイの魔術式から火球が放たれる。それが届くより前に、俺を挟んだ魔物が剛腕を振るう。

「ほっ」

 胴体と足元を狙った挟撃を、しかし俺は魔法を付与した脚の力で、前方の魔物を跳躍して躱した。飛び越えざま、魔物の後頭部に踵を打ち込む。

 ボオン!

 着地と同時、火球が当たる音と衝撃が空気を伝わる。共に俺を追い詰めた仲間がやられたにもかかわらず、魔物は俺を振り返り激昂の叫びを上げると、四つ足になって突進してくる。

 俺もまた魔物に近づくと、その顔面に両足の靴底をめり込ませ、反動を利用して距離を取る。双方の速度が乗った攻撃に、魔物はたまらず仰け反った。

 ボオン!

 その背中に火球が当たり、魔物は前のめりに倒れる。俺は消滅した魔物の結晶を二つ手に取ると、急いで三人の元へと戻った。その頃にはもう一体の魔物も倒されていて、アランがその結晶を拾い上げているところだった。

「ユート、無事か?」

「ああ。フレイの援護のおかげでな。ありがとう、フレイ」

「ううん。ユートくんが上手く引き付けてくれたから、私の魔法を当てることができたんだよ。それよりごめんね。ユートくんに当たりそうな攻撃をしちゃって」

「ああ、別にいいよ。俺、自分の身を守ることには結構自信あるからな。気にせずどんどん撃ってくれ」

「あはは、それはちょっと割り切れないかな……」

「あー、お前ら、また来たぞ」

 振り返ると、アランの言葉通り、今度は六体の魔物がやってきた。

「さすがにあの数は捌ききれないわね」

「俺が囮になって時間を稼ごうか?」

「いや、その必要はない。シイキ!」

「ふふ、やっと僕の出番だね」

 口元を吊り上げるシイキは、高く前方に突き出した手の先で、自分の身長の二倍はあろうかという直径の魔術式を完成させていた。

「すごいな……」

「うん。こんなに大きくできるなんて」

「俺もまさか、ここまでのものとは思わなかったがな。時間を稼いだ甲斐はあったってことか」

「さあ、巻き添えにならないよう、ちゃんと僕の後ろにいてよ」

 シルファは制御に難があると言っていたけれど、さすがに後方にまで魔法が及ぶようなことはないだろう。俺たちが全員移動したのを確認すると、シイキは巨大な魔術式に、さらに魔力を込めていく。

 六体の魔物は、自分たちに向けられているものの大きさを知ってか知らずか、かなりの速さで迫ってくる。けれどもう遅かった。

「切り刻め――」

 魔法が発現する直前だった。俺は視界の隅で、何か動くものを捉えた。それは人影のようで――

「――『ブレイド・ルーツ』!」

 魔法が発現すると同時に、俺は足に魔法をかけて駆け出していた。

「えっ?」

「ユート!」

「ユートくん!?」

 シイキを皮切りに、三人の声を背中に受ける。俺は振り向きながら叫んだ。

「俺のことは気にするな! そのまま魔法を使って逃げろ!」

 そして目に入ってきたのは、黒い大蛇のような無数の刃だった。何本ものしなやかな黒刃が、枝を折り、幹を切り、地面をえぐりながら伸びてくる。俺は走りながら、自分に伸びてきた二本の刃を防御魔法で逸らす。

「え、だって、そんな……」

「シイキ、しっかりしろ!」

「あなたが冷静でないと、魔法が暴走するわよ!」

 そうだ。俺の勝手な行動で、集中を乱したシイキに魔法を暴走させてしまうかもしれない。そうなればあの三人だって危ない。チームの仲間を危険に晒してしまったことに、申し訳なく思う気持ちが湧き上がる。

 けれど――

「うわっ!」

「なっ!?」

「動くな!」

 やっぱり見間違いじゃなかった。昨日話をした二人の男子が魔法に気づき足を止めている。俺は体を低くし、すれ違いざま二人を肩に担ぐと、迫る魔法から逃げ出した。

「くうっ!」

 強く踏み込んだ足が急に重くなる。くそ、強化魔法が解けたか。けれど二人を抱えたままじゃ手が使えず、新しく魔法を付与できない。

 背後からは再び、二本の刃が迫る。

「ゆぅ、とぉ!」

「そのまま走れ!」

 担がれた二人が上半身を持ち上げた。その手の先には魔術式が形成されている。揺られながらもどうにか形作れたようだった。

「分かった!」

 二人を信じて前を向く。後ろから刃が弾かれる音が響き、頭の上を魔法が通りすぎていく。

 不意にその黒い刃は動きを止め、間もなく空気に溶けていった。どうやら魔法による攻撃が終わったらしい。

 シイキの魔法の威力は凄まじく、振り返ると景色が変わっていた。木々は無惨にも切り刻まれ、今まさに折れようとする樹木が耳障りな音をこだまさせる。当然魔物たちもひとたまりもなかったようで、折り重なる木の下で消滅していく姿が見えた。俺は三人の元へと戻りながら、この光景を生み出したシイキの魔法の凄さを実感し、自分の軽率な行動がいかに無茶だったかを思い知った。

「ユート君!」

「無事だったか」

「もう! 心配したじゃない!」

 やがて三人と合流する。全員が無事で本当に良かった。俺は安堵の息をつく。

 そして俺は、肩の二人を地面に降ろすと、チームメンバーに深く頭を下げた。

「本当にごめん。俺の身勝手で、全員を危ない目に遭わせた。特にシイキには、とても悪いことをしたと思ってる」

 自分の魔法で味方を巻き添えにする。そんな、人を傷つけてしまうかもしれない恐怖を抱かせてしまった。

「本当だよ! もしユート君が、し、死んじゃってたら、僕……!」

「……ごめん……」

 詰め寄るシイキに、俺はただ謝ることしかできない。そんな俺たちの肩を、アランが叩いた。

「今は早くここから離脱しよう。俺の見通しも甘かった。まさか俺たちよりも奥に、他のクラスメイトがいたなんてな」

「まったくもう。二人だけでこんなに奥に行くなんて、危ないじゃない」

 フレイが口を尖らせる。二人は返す言葉もないのか、疲れた表情で俯いていた。

「奥にいるのはお前たちだけか?」

「そ、そうだ。アラン、シルファを知らないか?」

「少し前に奥で別れたんだが……」

「うそ、もしかして一人にしてきたの!?」

 非難するようなフレイの言葉に、二人は首を振って弁解する。

「ち、違うんだ! 俺たちは一緒に行こうとしたんだ!」

「けれどシルファが、早く戻って現状を伝えに行けって……」

「……っとうにもう、シルファのバカ……!」

「ん? おい、ユート!」

 アランが言い終わる頃には、俺は背負っていた鞄を下ろし、手近な木の枝に登っていた。

「シルファのいた方角は?」

「た、多分、あっちだ……」

「アラン、皆を連れて戻ってくれ。俺はシルファを探しにいく」

「ひ、一人で、行くつもり、なの?」

「ああ」

 シイキの言葉には疲れがにじみ出ていた。ただでさえ多くの魔力を使う魔法を発現させて、さらには動揺する気持ちを抑えて暴走させないよう制御したんだ。俺がシイキを必要以上に消耗させてしまったのは間違いなかった。俺は、けれど、表情を変えずに頷く。

「バカ言うな! 何が起きてるかも分からないのに、こんな場所で単独行動するってのかよ!」

「シルファだって一人きりなんだろ。それに俺は一人の方が、戦えはしなくても動きやすいからな。木の上に逃げれば、魔物もすぐには攻撃できないだろうし」

「け、けど……」

 フレイは反論の言葉に詰まる。今まさに、自分の身長よりも高い枝の上に登って見せた俺の言い分を、ある程度正しいと認めているようだった。その一方で、認めたくないという感情もひしひしと感じる。

「ふざけんな! このチームのリーダーは俺だ。勝手な行動すんな!」

「分かった。なら俺は今をもって、このチームを抜ける」

「なっ!?」

 アランが動揺する。俺はそこに畳み掛けるように言葉をぶつけた。

「アラン、チームのリーダーだって言うなら、今すぐ最善の行動をとってくれ。勝手な行動をとる、入ったばかりで魔術式も大きくない編入生を説得するのに時間を浪費するのか、一刻も早く、消耗している三人のクラスメイトを連れてこの森を出るのか」

 俺はシイキと二人の男子を見る。疲弊した顔を見せる三人はこれ以上戦えないだろう。アランとフレイだって、かなり魔力を使っている。そんな状態で三人を連れて脱出する機会は、シイキの魔法で近くの魔物の数を減らした今しかない。

 アランは俺を強く睨みつける。それは短い間だったけれど、その意思は十分伝わってきた。

 やがてアランは、俺の鞄を拾うと背を向けた。

「お前ら、急いでここを離れるぞ!」

「アラン!?」

「これが最善だ! 最低でも五人は確実に助かる。リーダーの指示に逆らうな!」

 アランは自分に言い聞かせるよう叫んだ。フレイは二の句を継げず、口を閉ざす。

 ありがとう、アラン。俺とシルファのことは気にしないで、脱出に集中してくれ。

 お互いになすべきことが決まった以上、もうのんびりしていられない。俺はシルファを探しに行こうと、枝の上で体を反転させる。

「ユート、君」

 背中にシイキの声がかかった。

「僕、まだ、許して、ないからね。シルファを助けて、無事戻ってこなかったら、絶対、許さないから……!」

「ああ」

 俺は足に魔法をかけると、全速力で駆け出した。

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