一夜
新年の慌ただしさも薄れ、
高校生にとっての最大の難関である大学入試も
無事に終了した2月。
ほとんどの高校三年生は試験を突破し、
自由登校となっていた。
勉強漬けの毎日から解放され車の免許を取るも良し、
バイトをするのも良し、
何をしてももう咎められることは無いとなれば
わざわざ卒業式しか残っていない学校に行くような生徒はいない。
大学入試を無事にパスした知陽、樹、麻衣、悠、菜々美たち5人もまた、
例に漏れずその生徒達の一部であった。
「ねぇ」
「なんだよ。早く投げろよー、まぁどうせガターしか知陽は出さないんだろうけど」
「うるさいな!初心者なんだから当然でしょ??
樹こそさっきから3本くらいしか倒せてないじゃん」
「俺は不調なだけですー。まだ倒せてるだけいいんですー。」
「知陽早く投げてよー!ナナまで回ってこないじゃん」
「ごめんごめん!...おりゃっ!」
順番が1番最後の菜々美に催促されて慌てて投げた朱色のボーリングボールは知陽の手から離れると
ゴンッと鈍い音をたて無回転のまま滑るように
ピンではなくガターに向かってスルスルと吸い込まれていった。
「なんでーー??」
「ここまでくるともはや尊敬するよな」
「確かに」
「悠と麻衣までそんなこと言わないでよぉ〜...
あーもう!ジュース買ってくる!!」
「あ、俺のも買ってきてくれんの?やっさしー」
「それなら私も!なっちゃんオレンジ!」
「じゃあ俺はコーラ。カロリーゼロね」
「ナナはカルピスがいいな!」
「あー!もう!どうせ最下位は私だからいいよ別に!!」
知陽はそう叫ぶと半ばひったくるかのように自分の財布を掴んで、自動販売機の方へ向かった。
知陽達5人は所謂物心着いた頃からの幼馴染、
というやつで2000ピースのジグソーパズルを何時間も掛けて5人で完成させたり、
冒険ごっこといって近所の家の犬にちょっかいを掛けて一緒に追いかけ回されたり、
高校を選ぶ時も『5人で一緒に行けるならどこでもいい』と皆で必死に勉強して同じ高校を選んだりと
何をするにしても常に5人で、
常に一緒に行動してきた。
あまりにも一緒にいすぎて
『そろそろ幼馴染離れしなさい!』
なんて親達に言われるけど
今まで家族以上に長く付き合ってきて今更離れろ、
なんて無理な話だし想像すらつかない。
ある意味『依存』しているのかな、
なんて笑いながら話したこともあるけど
この関係があまりにも居心地が良いものだから
特に気にすることはなかった。