生まれて初めての仕事は死後の仕事 (Aパート)
新元号記念に1話の前半だけ投稿します。
続きは6話まで書き溜めてから投稿する計画です。
| FF外から失礼します
| クソリプ乙www
| FF外から失礼しました
オレは今日も暗い部屋の中でカタカタとキーボードを叩き、SNSに攻撃的な書き込みをする。
| クソ擁護キターwww
| 理論が破綻してるwwwwしかも自覚無しwwww
| しったか乙
| お前がまともにアニメを見たことが無いってのはよくわかった
複数のアカウントを使いながら次々と煽り文句を書き込む。
今書き込んでいる話題は、新作アニメが面白いかクソかの話だ。
今季最悪クラスのアニメを神アニメと連呼しているヤツに対して、なにがどうクソなのか懇切丁寧に説明してやった。
するとそいつは論点ずらしのクソ擁護をしはじめたので、矛盾を突いて完膚無きまで叩きのめしてやったのだ。
| ハァ? そんなシーン無いんですけど?
| ほんとにそのアニメ好きなの?
| それとも目がフシアナなの?
| 言い訳になってないww
| 完全論破されてくやしいのぅwww
更に追い打ちをかけるように叩く。
ついに相手はアカウントをロックして逃げ出しやがった。
ざまぁないぜ。
今日もまたアホを論破できてスカッとした気分だ。
スッキリ満足できたところで、お腹がすいてきた。
お菓子棚からポテチを出そうとしたら棚はからっぽだった。
時計を見ると深夜3時。
母ちゃんは既に寝ている時間だし、ピザの宅配ももう終わっている。
仕方ない、自分でコンビニまで何か買いに行くか……。
玄関にあった適当なサンダルを履いて、一ヶ月ぶりに家を出た。
真夏の深夜は暑くもなく寒くもない快適な気温だった。
コンビニのある交差点で信号待ちをしていると、ふと財布を持ってきたか不安になった。
ズボンのポケットを手で叩いて確認する。
ちゃんと財布は有る。
念のため中身を確認しようと財布をポケットから取り出して開けた。
チャリン。
財布を開けた勢いで小銭が1枚落ちて転がっていった。
「あ、500円!」
急いで追いかけ、道路の真ん中に落ちた500円玉を拾い上げる。
立ち上がったとき、道路に自分の影がくっきりと映っているのが見えた。
背後に強い光源、つまり車のヘッドライトが後ろから――
急ブレーキの音の中、オレの体は強い衝撃で上にはね飛ばされた。
一瞬、自分の目線の高さに電線が見えた。
そして重力に従い、道路に向かって頭から落ちていく。
これ、オレ死ぬんじゃね?
アスファルトに叩きつけられる直前、時間が止まったように感じた。
あぁ、走馬灯のように自分の一生が頭に浮かんでくる……。
不登校になった中学時代。
高校には行かず、高卒資格を取って都会の大学に行った。
一人暮らしして、バイトもせず遊びまくって、留年を繰り返し大学中退。
そんな学歴で就職先が見つかるわけないのに、就活しまくったなぁ。
結局都会での就活は諦めて、地元に帰り親のスネをかじってニートして、気づけばもう35歳。
そんなオレの人生、最期は500円玉のせいで事故死か。
それなりに楽しめた人生だったんじゃないかなぁ。
母ちゃんには悪いけどな……。
……あれ?
走馬灯は終わったぞ?
なんでまだ地面に落ちてないんだ?
まわりもやけに静かだ。
なんだか本当に時間が止まっているみたいだ。
「あらあら、かわいそうな人生を送ったのね」
どこからか女の声が聞こえた。
そして何かに背中を引っ張られるような感覚がした。
魂が体から引き剥がされるような感じだ。
気づけば、目の前にオレの体があった。
オレ、幽体離脱してる!
「どう? 自分が死ぬ様子を見るのは」
後ろからまた女の声が聞こえた。
振り向くと、道路の真ん中に真っ黒な美女が立っていた。
クールさを感じさせる黒いストレートなワンピース。
ウェーブのかかったミドルの黒髪。
吸い込まれそうなほど黒い瞳。
血のように真っ赤な唇。
大理石のように真っ白な肌。
そして、背中から生えているドラゴンのような羽。
その背中には後光がさしていた。
「はじめまして、貞辺ユースケくん。私は死神よ」
女はエロスを感じさせるような声でそう言った。
「し、死神? そんなもの居るわけないだろ!」
「でも現に居るわ、ここにね」
何か言い返したいところだが、言い返す言葉が見つからない。
間違いなく今、現実離れした現象が自分の身に起きているのだ。
時間は止まっているしオレは幽体離脱している。
女の容姿も明らかに現実離れしている。
その上で死神と名乗られると、信じられないが信じるしかない。
「そ、その死神さんがオレに何の用だよ。オレを殺して何の得がある!」
「殺したわけじゃないわよ。アナタが事故死したから、転生させに来たの」
「転生……だと?」
夢にまで見たあの「転生」だと?
チートスキルを持って異世界で好き放題できるあの転生が出来るというのか!
「ちなみに少しは転生先のリクエストを聞けるけれど、どうしたい?」
「異世界でチートスキル使って女の子に囲まれながら怠惰な生活がしたいです」
オレは即答した。
30歳過ぎてこんなセリフを即答するとか恥ずかしすぎだろ、と思いつつ即答してしまった。
どうやらこの幽体離脱状態では本音を隠せないようだ。
なんという羞恥プレイ。
「ふぅむ、異世界に転生ねぇ……。あなた、異世界なんてあると思っているの?」
「無いね。あるわけない」
「ふふ、面白い子ね。ちょっと手続きしてみるわね」
そう言って、女はどこからか取り出した紙に何か書いて、空に向かって投げた。
紙に書いて飛ばすのが死神と冥土との連絡手段なのだろうか。
紙媒体を使っているとは、なかなかアナログだな。
女とオレはその返信を待つ。
その間に、気になった事を聞いてみることにした。
「人は死んだら、こうやって転生先を聞かれるものなのか?」
「いいえ、普通ならリクエストなんか聞かずに即転生させるわよ。でも今日は気まぐれ。あなた運が良いわ」
「オレが運が良い? バカ言うなよ、さんざんな人生を送ってんだぜ」
「それもそうね。ところであなた、人生が終わるって事に後悔は無いの?」
「ぜーんぜん。むしろ開放されるような気分さ」
「ふふ、やっぱり面白い子。……ちなみに、異世界は『ある』わよ」
今、『ある』と言ったか!
オレは年甲斐もなくワクワクした。
話しているうちに空から紙が飛んできて、女がそれをキャッチした。
どうやら冥土からの返信のようだ。
「あなたの転生先が決まったわ。異世界よ」
「いぃぃよっしゃぁぁぁぁぁぁ」
これでもかというほどガッツポーズした。
生まれてからこんなに喜んだことなんて初めてじゃないだろうか。
人生最大の幸せが死後に訪れるとか、冗談にも程があるぜ!
「ただ……あなたの来世は、異世界の家畜だそうよ」
「へ?」
「ギプゥっていう、この世界でいうブタみたいな食用の家畜ね。コレでも譲歩したほうだと思うわよ」
「ふ、ふざけるな! オレの喜びを返せ!」
オレは両手を振り回して、女におそいかかった。
が、避けられた上に足をひっかけられ、オレはその場に顔からコケた。
倒れたまま振り向くと女はいつの間にかナイフを持っていて、それをオレの心臓に一突きした。
ナイフに刺されたところから、オレの体が光になっていく。
オレの転生が始まったのだと直感でわかった。
「嫌だ、ブタなんかに転生したくない!」
「豚じゃないわ、ギプゥよ」
「そんなことどうでもいい、とめろぉぉぉ!」
抵抗しようともがいても、何の意味もない。
消える前に女を殴り飛ばしてやろうとしたが、消える方が早かった。
「それじゃ、良い異世界ライフを」
最後に見えたのは、女がそう言って手を振るところだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
気がつくと、オレは花畑で寝転がっていた。
周りは見渡す限り花畑。
地平線は見えない。
本当にどこまでも花畑が続いている。
オレ、なんでこんなところに居るんだっけ……?
そうだ、死んで家畜に転生したんだ!
ハッと思い出して、急いで手を見た。
ヒヅメにはなっていない。
人間の手のままだ。
足も体も人間のままだ。
ただ、服装は変わっていた。
真っ黒な死に装束。
なんだかマンガに出てくる死神みたいな服だ。
立ち上がって再度自分の体を見まわす。
家畜になっているような様子は無い。
そして体がなんとなく軽い。
あきらかに事故前より大幅に体が軽い。
腹についていたはずの贅肉がごっそり落ちているようだ。
その場でジャンプしてみても、お腹がぷるぷるしない。
これは鏡で確認してみるしかない。
水でもなんでもいい、鏡になるものがないかあたりを見回す。
するといつのまにか背後に全身鏡が置かれていた。
さっきまでこんなものなかったはずなのに……?
そして鏡の存在よりもっと驚くものがオレの目に映った。
「これ、オレかよ……若返ってんじゃん」
鏡に映っていたのは、二十歳くらいの頃のオレだった。
生涯で一番人生を謳歌していた頃のオレだ。
鏡を見ながら顔や体をペタペタ触ってみる。
間違いない、これはオレだ。
二十歳のオレと大きく違う点は二つ。
服が死に装束であることと、背中に後光がさしていることだ。
後光というか、光の輪みたいなものが背中に付いていた。
体を振ると光の輪も揺れる。
まるでさっきの死神女の後光のようだ。
なんでこんなものが付いてるんだ?
光の輪は背に隠れていて、鏡ではほとんどが見えない。
どうなっているのか詳しく見ようと体をひねったりしてみるが、やはり見えない。
「もう一個鏡があれば見えそうなんだけどなぁ……」
つぶやいていたら、背中の光の輪から何かがにょきにょきと生えてくる様子が鏡に映っていた。
なんだこれ、背中から鏡が出てきてる!
あっという間に二枚目の鏡が出てきて、全身鏡の合わせ鏡が出来た。
これで背中が見えるようになった。
いや、それより新たに発覚した事実の方が重要だ。
光の輪から鏡が出てきたということだ。
この光の輪はもしかして、物質召喚装置なんじゃないか?
「ベッド出てこい!」
試しに叫んでみる。
すると背中の光の輪から、にょきにょきとベッドがあらわれた。
ちゃんとふかふかした、良質なベッドだ。
「小腹もすいたぞ、ポテチ出てこい」
背中からポテチが出てくる。
早速開けて食べてみたが、味はいつも通りジャンキー。
ちょっと地味だが、これは便利なスキル!
どうやらオレは召喚スキル持ちで異世界転移したみたいだ。
しかも若返りオプション付き。
親切極まりない。
いやでも笑みがこぼれる。
「フ、フハハ、フゥハハハハハハァ!」
こんなスキルが手に入ったら何をするべきか。
世界を救う旅に出る? そんなわけない。
何をするかは決まっている。『怠惰』だ。
人は生まれながらにして怠惰を望む生き物だ。
怠惰こそ至高、怠惰こそ全て。
だらだらしない、なんてのは人生の10割を損する生き方だ。
死ぬほど怠惰を欲したオレが死んで怠惰を手に入れるとは、なんという皮肉よ!
早速ベッドに寝転がり、いろいろと召喚してみる。
アニメ全巻セット、マンガの新刊、新作ゲーム。
ゲーム機本体やBDプレイヤーも召喚できた。
ついでにマッサージチェアーも作っておこう。
もちろんディスプレイも必要だし、こいつらを動かすための電源も出した。
理想の怠惰セットまであと何が必要だろうか……。
「何やってんですかぁ!!!」
どこからともなく叫び声が聞こえた。
声のした方を見ると、真っ白な服を着た女の子が立っていた。
ふわふわロングな栗色髪をした、中学生くらいの見た目のメガネっ娘だ。
背中には例のごとく光の輪がある。
「アナタ、自分が何したか分かってるんですか!!!」
女の子は泣きそうなのか、声がうわずいている。
そして怒っている雰囲気も出しながら、涙目でオレの方に向かって走ってきた。
こいつオレに説教するつもりだな……。
怠惰の妨害は万死に値する、返り討ちにしてやろう。
オレはベッドからはねおきて身構える。
泣きそうな女の子だからといって甘く見るのはオレのモットーに反するぜ!
理由は単純。もしこいつが男だったら間違いなく蹴り飛ばすからだ。
オレは男女差別は嫌いなのだ。
「オレは泣いてる相手でも手加減しねーぞ。出て来い、フレイム・ソード!!」
ためしに叫んでみたら、背中の光の輪からフレイムソードが出てきた。
期待通り!
「な、なにしようってんですか! 殺す気ですか!」
「殺しはしねぇ。ただ、それ以上こっちに来るんじゃねーよ。オレの怠惰の邪魔をするなら、たたっ斬る」
カッコつけのためにフレイムソードを数回振りまわす。
剣の軌跡に炎が残り、陽炎がゆらめく感じがカッコよくてたまらない。
そして、剣を使っていると少し不思議な感覚がした。
まるで剣から立ちのぼる炎が自分の体の一部かのように感じた。
もしや、この剣は炎の操作も出来るのでは?
剣を女の子に向けて叫ぶ。
「COME ON! フレイム・ピラー! あのガキを動けないようにしてやれ!」
地面からいくつもの炎の柱が立ちのぼり、輪のようになって女の子を取り囲んだ。
これでこいつは行動出来ないだろう。
あたりの花も燃えたが、フレイムソードの力なら延焼も簡単に止められる。
便利な剣だ。
炎の剣に炎魔法まで使えるとは、さすが異世界。
「熱っ! 酷いじゃないですか! 私が何したってんですか!」
「安心しな、てめぇを燃やすつもりは無いぜ」
「安心できるわけないです!」
その後も女の子は何か叫び続けてたが、オレは無視する事にした。
さて、怠惰セットを作る作業を再開せねばならない。
何を召喚しようか。
なんでも召喚できるなら、ホームシアターだって作れるはずだ。
「ホームシアター、部屋ごと出てこいっ!」
背中から6畳くらいのプレハブみたいなものが出てきて、花畑にどんと置かれた。
自分の背中からこんな大きな物まで出てくるとは。
期待はしていたが、予想以上だ。
「ハァッハッハ、全知全能になった気分だァ」
フレイムソードを地面に突き刺しておき、さっそく部屋に入ってみる。
ふむ、悪くなさそうだ。
外から見るとちょっと安っぽそうだったが、床にはしっかりしたカーペットが張ってあった。
壁の素材も良さそうで、耳を近づけるとちゃんと吸音されているのがよく分かる。
「あぁ、こういうの憧れてたんだよなぁ……」
自分のホームシアターがGETできた嬉しさのあまり、つい壁に頬ずりしてしまう。
だがひとつ、おかしなことに気付いた。
肝心のスピーカーが見当たらない。
天井にはスピーカーが有るべきところに穴は空いているものの、中には何も無い。
スピーカーは商品に含まれませんってやつか?
「んー、ならスピーカー出てこい!」
……何も出ない。
「スピーカー、おい」
何も出なくなった。
召喚能力を使いすぎたか?
そんなジョークはご遠慮願いたいところだ。
「出ろ! ポテトチップス!」
やはり何も出ない。
あきらかにおかしい。
不安に思いながら、オレは部屋から出た。
火柱はまだ残っていた。
「消えろ、火柱」
フレイムソードを掴み炎を止める。
突然炎が消えたからか、女の子は驚いてキョロキョロした。
そしてオレを見るや、また怒ったような顔になった。
「やっと私の話を聞く気になったんですね! 今すぐ召喚をやめてほしいです!」
「おいガキ。その召喚なんだが、何も召喚出来なくなったぞ。どういうことか説明しろ」
「えっ、召喚出来なく、なったん、ですか……?」
女の子はきょとんとして、固まった。
あまりにぴたっと止まるものだから、時間が止まったかと思ってしまった。
「おい、どうした? 早く教えろよ」
声をかけても目の前で手を振っても反応しない。
完全に放心してやがる。
そうしてると、女の子は大粒の涙を流し始めた。
「む、無一文は、イヤ。イヤです……」
「無一文? お前の都合はどうでもいい。なんで召喚出来なくなったか聞いてるんだ」
脅すような口調で圧力をかける。
女の子はうるうるした目でオレを見つめる。
そして頑張って涙を止めようとしながら、口を開いた。
「まず、私の名前は『お前』じゃないです。ミィス-コナテゥアンです」
「ミィス……なんだって?」
「ミィス-コナテゥアンです」
「よくわからん、ミス子でいいな。」
「ミ、ミス子って言いました!? なんで私のあだ名を知ってるんですか!」
「知るかよ、偶然だろ。とりあえずこの世界の事をイチから教えろ」
ミス子はショックを受けたような反応をしたあと、徐々に落ち着きを取り戻していった。
ズズッと鼻水を大きく吸ってから、右手を広げ前に伸ばした。
まるで空中にある何かを掴むようなポーズだ。
しばらくすると、どこからか紙が飛んできた。
飛んできた紙はミス子の目の前で止まった。
「これを見てほしいです、この部分です」
「書類を読めってかぁ? めんどくせぇなぁ」
ミス子が紙を指差すので、仕方なくオレはその紙を覗き込んだ。
一番上には『転生手続用紙』と書いてあり、その下にはオレの名前や個人情報がつらつらと書かれていた。
どうやらオレの転生のために書かれた書類らしい。
ミス子の指差す所には『転生先の世界を変更する場合の記入欄(変更しない場合は記入不要)』とあり、転生先がチェックリストになっていた。
転生先リストを見ると、第三ドワーフ世界とか第六エルフ世界とか書かれている。
種族ごとに世界があるのだろうか。
そしてオレの転生先としてチェックされていたのが――
「転生先、冥土……?」
ミス子がコクっとうなずく。
「そうです。そして本当はこっちに行く予定だったのです」
ミス子は少し横に指を移動させる。
そこには第五ヒューマン世界と書かれていた。
「あと、ここも読んでほしいです」
また指を動かす。
そこには『転生後の生物種の変更先』とあり手書きで『ギプゥ』と書かれていた。
「ギプゥってのは、たしか異世界の家畜ってやつだな」
「そうです。最後に裏です」
書類の裏には細かい文字が大量に書いてあった。
ここには書類の書き方が書いてあるようだ。
ミス子が指をさしたところにはこう書いてある。
『転生先世界変更時の記入欄において"冥土"を選択した場合、書類内容にかかわらず"渉外天使への転移"となる』
「えーっと、つまり、オレを第五ヒューマン世界のギプゥにする予定が、チェック箇所がミスってズレてしまい、オレは冥土の天使になったってことか?」
ミス子がコクッとうなずいた。
「渉外天使ってのは、いわゆる死神です。死んだ人の魂や今から死ぬ人の魂を転生用に回収する職です」
「職? 死神って職なの? そもそも天使が死神ってのもよく分からんぞ」
「分からんと言われても、事実そうなってるんです」
「お、おぅ。まぁいいや。で、そのことを説明するためにお前はここに来たわけだな」
「そうです。ユースケさんに説明をする責任は私にある、ということになったんです……」
ミス子の言い方は、なんだか言葉を濁している感じだ。
自分が責任を負う事に納得していないような、何か隠したいことがあるような。
「お前がミスの責任を負わされたのか。お前、見た目はガキだけど実は管理職、とかそんなオチだろ」
「えっとですね、管理職というかですね……」
「もしかして、お前、書きミスった本人!?」
ミス子はビクッとしたあと、目を見開いてオレの顔を見つめてきた。
なんだこの反応、図星だったか。
ミス子がミスったとか、つまらんダジャレだな。
「まぁいい。それで、この召喚スキルが使えなくなったのはなんでなんだ」
「それは召喚の説明から必要ですね。召喚というのはこの背中の輪、通称エンゼルヘイロゥから実世界の物体のコピーを生成することです。この召喚能力は死神にのみ付与されてる能力で……」
「おいこら、説明が長い。もっと短く、理由だけでいい」
「えぇっ、えっと……ではまず、召喚にはお金が要るんです」
「金!? このスキル有料なのか!」
「はいそうです。召喚時に自動で登録口座からお金が引き出されるんです」
「書類はアナログなくせに自動引き落としはしっかりしてるのかよ! 冥土ってそんなセコい世界なのか」
「なので、お金が無いと召喚できないんです」
「つまり、召喚できなくなったのは……」
「そうです、口座の残高がゼロです」
なんてこった。
冥土なら好きに怠惰できると思ってたのに、ここでも金がないと怠惰できないのかよ。
生きてても死んでても金・金・金!
それならいっそ、物質召喚スキルより金を生み出すスキルが欲しかったぜ。
いや、でも待てよ――
「当然、金を召喚するなんてことはできない、よな」
「はい、できないです。生前の世界の通貨なら召喚できますが、当然冥土では使えません」
「じゃあ、オレが召喚に使った金はどこから来たんだ?」
「それは……説明すると長くなるのですが……」
ミス子が言葉に詰まっった。
説明が長い以前に、何か言いたくないような雰囲気だ。
さっきまでのパターンから、おそらくミス子のミスが引き金だろうか。
「そういえばお前、無一文はイヤとか言ってたな。もしかしてお前の口座……」
ミス子はまたビクッとし、目を見開いてオレの顔を見つめてきた。
そして、わなわなと震えながらコクッとうなずく。
やっぱりそうか。
アニメBD全巻セットやホームシアターの召喚に、ミス子の金が使われたのだ。
反応を見た感じ、おそらく返品やクーリングオフも出来ないんだろう。
「5年……、私が5年かけて貯めたお金がゼロです……」
ミス子はそれだけ言ったところで、堰を切ったように涙を流し始めた。
泣きたくなる気持ちは分かるが、オレにとっては対岸の火事だ。
オレの大好物な他人の不幸である。
「つまりお前は、さっきの一瞬で全財産を失ったわけだな。プッ、草はえる」
「無くなったのはあなたか使ったからですよ! あなたは責任とるべきです」
ミス子がオレに向かってつっかかってきた。
ちょっとは悪いなと思っていたが、こんなこと言われると反抗したくなるじゃないか。
意地悪に言い返してやることにした。
「責任? いま責任と言ったか? 無一文になった責任はお前にあるだろ」
「なっ、なんでですか!」
「まず考えてみろ、お前はオレに転生ミスを説明する責任があって、ここに来たんだろ」
「はいそうです」
「噛み砕いて言うと、お前はオレが召喚する前に召喚には金をかかることを説明する責任があったわけだ」
「そ、そうです」
「でもお前は説明するタイミングを作ることに失敗し、やっと説明できたのは金を使い切ったあとだ。つまりミス子が無一文になったのはミス子の怠慢だということだ」
「説明できなかったのはあなたが妨害したからです!」
「お? 人のせいにするのか。ただの責任逃れにしか聞こえないなァ」
「き、詭弁ですっ」
「さらに言うとオレは召喚に金がかかるなんて知らなかったから、オレはそれを止めることができるわけない。つまりオレには責任はない」
「おかしいです! おかしいですぅ!」
ミス子は何もまともに言い返せず、半泣きで顔を真っ赤にするだけだった。
はい、論破。他愛もない。
見た目通り、頭の中も中学生レベルだな。
――しかし、ミス子の金で召喚できるということは、ミス子が金を貯めないと新作アニメを召喚し続ける事が出来ないのか。
そうなると召喚できる上限は、5年でホームシアターセット(スピーカー無し)を買える程度、か。
満足行くまで怠惰を貪り続けたいなら、こいつの収入だけでは足りない。全然足りない。
生前みたいな、欲しいものを我慢しながら怠惰を送るのはゴメンだ。
「はいはい、もう泣くなよ。しゃーねーから、オレも金を稼いでやるよ」
「ホントですか!!」
ミス子の目が急にキラキラしだした。
こいつ、現金なヤツだな……。
「ああ、ホントほんと。オレだって金が無いと怠惰出来ないしな」
「ではさっそく準備です!」
元気になったミス子は、またさっきみたいにどこからか書類を飛ばしてきた。
今度は大量の書類だ。
その書類をパラパラと見て、なにか厳選しているようだ。
オレが死神になったということを考慮すると、殺す予定の人間のリストとかだろうか。
「で、オレは何すりゃいいんだ?」
「詳しくは現地で説明ですが……、端的に言うと、現世に行って死にかけの人にトドメを刺すというのが死神のお仕事です」
ミス子の言葉に、ゾクッと背筋に寒気が走った。
今、聞きたくない単語が耳に入った。
「ミス子、いまなんて言った……?」
「え? 死にかけの人にトドメを指すんですよ。こうナイフ的なのでグサーッて感じです。殺すのが怖いんですか?」
「違う、そうじゃない。その後に何て言った!?」
「えーっと、それが死神のお仕事です」
「働きたくないでござる! 絶対に働きたくないでござる!」
「な! 突然なんですか! さっきまでのやる気はどうしたんですか!」
くっ……仕事という単語には何かよくわからない抵抗がある。
今さっきまであったやる気がゴソッと削がれた。
なんだこのパワーは、たかが一つの単語だろうに。
いっきに気が萎えていく。
「あぁー、もうやだ。何もしたくない」
「駄目です! 働かないと怠惰は出来ないんです! ユースケさんが言った言葉です!」
「何か方法はあるはずだ、そんなことしなくても金を手に入れる方法が。それを模索すべきではないかね」
「そんなのあったら私だって仕事してないです」
「仕事って言うなぁ、その単語だけはダメなんだよぉ。なんかもっとこうオブラートに包んでさぁ」
「ぐだぐだ言ってるんじゃないですよ! ちょうど最初の仕事が用意できたところです、あとは行くだけです」
「嫌だぁ、仕事とか働くとか、絶対に嫌だァァァ」
「泣いても無駄です、もうワープ開始してるんです。詳しい説明は現地で行う予定です」
ミス子の背中のエンゼルヘイロゥがぐーんと大きくなり、オレとミス子を包んだ。
ああ、仕事に強制連行されるのか……。
『仕事』『労働』『社畜』という単語が、頭の中でぐるぐる回っていた。
◎ 第1話 Bパートの予告
ミス子と共に転移した先は、第3ヒューマン世界 ニホン国 オーサカの街はずれにある大きな病院だった。
そこで2人のジジイにトドメを刺すのがオレの初仕事。
だがミス子の選んだ仕事は「儲けが大きくて難しい仕事」だという。
そんなキツそうな仕事なんてヤダよ、もう帰りたい。
10月頃には投稿できるよう、鋭意執筆中……