0095.マグロのステーキ丼(シン視点)
「二人共、うがいしてから、お風呂に入っておいで」
コクッと頷いて荷物を置くと仲良く井戸に向かって行く。
「カハルはここにいてね」
ウトウトとし始めているので座布団の上に寝かす。毛布を掛けてあげる頃には完全に寝てしまった。
さてと、ご飯を作るか。冷蔵庫には何があったかな。マグロがあるな。ステーキ丼にするか。
お味噌汁はニコちゃんの好きなじゃがいもを入れてあげよう。後は、昨日作っておいた蕪の柚子漬けでいいかな。
マグロは表面をさっと焼いて取り出し、バターと醤油とわさびを入れてソースを作る。辛いのは苦手のようだから、わさびは少なめだ。
カハルには桃を擂り下ろしてあげてと。メロンは食後に切ればいいかな。
「お風呂ありがとうございました」
「戻りました」
ふわふわでほかほかの二人が戻って来た。二人に気付いて起き上がったカハルがバランスを崩す。
「うわぁっ」
「カハルちゃん!」
ヴァンちゃんが咄嗟に抱き留めてくれた。
「大丈夫?」
「うん、あんがと。――わぁ、ヴぁっちゃ、ふわふわであったかにゃの……」
余程、気持ちが良いのか頬擦りして抱き付いている。目がトロンとして眠ってしまいそうだ。その前に、ご飯を食べさせないと。
「カハル、起きて。ご飯だよ」
「うみゅ~」
微妙な返事が返って来た。ヴァンちゃんにくっついたまま離れようとしない。
「カハル、それじゃあヴァンちゃんがご飯を食べられないよ」
「はなれたくにゃい……けど、ごはんのじゃましないの……」
諦めて離れたカハルを撫でて座らせる。
「カハルちゃん、偉い。ご飯が終わったら好きなだけひっつく」
「うんっ。あんがとう。うれしー」
「カハルちゃん、僕にもひっついていいですよ」
「ニコちゃも⁉ やったー!」
何ていい子達なのか。この子達に依頼して本当に良かった。
「二人共、お料理を運ぶのを手伝ってくれるかな?」
「「はい」」
ヴァンちゃんには柚子漬けを運んで貰おう。器を渡すと、漬物だと気付いて目が釘付けになっている。
「ヴァンちゃん、前を見てね。転んだら食べられなくなっちゃうよ」
背中に声を掛けると、しっぽがビンとなり、しっかりと前を見て歩き始めた。あれなら大丈夫かな。
マグロを程良い厚さに切り、熱々のご飯の上に綺麗に並べてソースを回しかける。真ん中にこんもりとカイワレ大根を載せたら、マグロのステーキ丼の完成だ。
ニコちゃんがそわそわしながら隣で待機していてくれたので、おぼんを渡す。
「はい、よろしくね。それは、ニコちゃんとヴァンちゃんの分ね」
匂いを嗅ぐと、満面の笑みを浮かべて運んでいく。
「ヴァンちゃん、バターのいい匂いがするよ~」
「おぉ、うまそう。中がレアだ。肉?」
「赤身のお肉?」
正体が分かっていないようだ。当てられるかな?
残りの料理を一気に運び、席に着く。
「いただきます」
「「いただきます」」
「まちゅっ」
二人共、箸の使い方が上達したなぁ。ちゃんと掴めている。
「んん? 肉じゃない……。魚?」
「そうだね。お肉よりも簡単に噛めるね」
「何の魚か分かるかな?」
二人でうーんと悩んでいる。白族の村では海のお魚はあまり食べないのかもしれない。
「分からない。ニコは分かる?」
「ううん、僕も分からない。正解は何ですか?」
「マグロだよ。ツナ」
「サンドイッチに入っている?」
「そうだよ、ヴァンちゃん」
二人で「ほぉー」と頷きながら口いっぱいに頬張る。しっぽがブンブンと振られているので、気に入ったのだろう。
「カハルも食べようね。はい、あーん」
小さな口に桃を入れてあげると、嬉しそうにもぐもぐしている。
「あまいね~。いいにおい……」
飲み込んだ後も口の中にいい匂いが残るのか、うっとりとしている。ヴァンちゃんの目利きは確かだったようだ。
「はい、もう一口」
気に入ったのか食べるペースが速い。多めに擂っておいて正解だったな。食べ終えると、うつらうつらし始めたので布団に寝かせ、自分の食事を取り始める。うん、良い焼き加減だ。ソースはもう少し辛くてもよかったな。
二人を見ると、ほとんど食べ終えているようだ。ヴァンちゃんが残り少なくなった蕪の柚子漬けを大事そうに食べている。それを見たニコちゃんが、自分の分をそっとヴァンちゃんの器に入れ、目を瞠ったヴァンちゃんがマグロを一切れ渡している。
「二人共、仲良しだよね。喧嘩したりするの?」
「はい、時々。でも、僕が一方的に怒っている事が多いです」
「何で怒らないのとよく言われる。嫌な事をされたり、悪口を言われた時に、俺はそういう人なんだなと思って終わりの事が多い。でも、ニコがされていたら相手にやめろって言うのに自分の時はしない。ニコにはそれが歯痒いらしい」
「成程ね。相手にしないというのも一つの手だけれど、嫌な時は嫌と言っていいんだよ。相手はヴァンちゃんが嫌だと思っている事に気付いていないでやっている場合もあるからね。僕だったら、分かっていてやってくる奴には、どれだけ愚かな事をしているか思い知らせてやるけれど。まぁ、でも、そういう奴はそのうち誰にも相手にされなくなるけどね」
二人の顔が若干引き攣っている。怖がらせてしまったかな? だが、甘い顔をすれば直ぐに付け上がる奴に容赦などしない。長い時を生きているので、良いものも悪いものも散々見てきている。
さてと、空気を変えるか。
「二人共、お腹にまだ余裕はあるかな?」
「「あります」」
「よし、じゃあ、メロンを切ってあげるからね」
「やったーーーー!」
喜んでバンザイをしているニコちゃんを見て思わず笑みが浮かぶ。
「ヴァンちゃん、手伝ってくれるかな?」
大きく頷いてついてくる。冷静なのかと思っていたら足取りが弾むようだ。これから、もっとヴァンちゃんの心を汲み取ってあげられるように、よく見ていてあげよう。
切ってあげたメロンに大興奮して、甘い、美味しい、いい匂いと連呼して頬張っている二人を微笑ましく見ながらお茶を飲む。
さて、次は何を食べさせてあげようかな?
「さて」、「さてと」が口癖なシンです。
お風呂上りの白族。ものすっごくふわふわですよ。カハル、いいなぁ。
果物は大好評でした。こんなに喜んでくれるなら、もっと喜ばせてあげたいと思っちゃいますよね。
次話は、探検で出会った熊さんが登場です。
お読み頂きありがとうございました。




