表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第二章 新生活の始まり
91/390

0090.箸の特訓

 シン様の家では、箸という木で出来た二本の棒を使って食事をする。でも、僕達は上手く使えないので、フォークとスプーンだ。だが、郷に入っては郷に従え。絶対に使えるようになってみせる。休日を使って特訓だ。

 

 魔物退治に出掛けたシン様が練習用に色々と置いていってくれた。まず、箸の持ち方の紙を熟読する。僕達の指が四本なのに合わせて絵まで描かれていて、非常に分かり易い。


 えーと、ペンを持つように親指と人差し指と中指で上の箸を持つ。まずは上の箸だけで上げ下げの練習。いちに、いちにっと。順調順調と思った矢先にヴァンちゃんと二人で箸を落とした。がっくり……。気を取り直して再度挑戦だ。いちに、いちに。


「出来た、かも?」

「そうかも。次に進んじゃう?」

 

 ヴァンちゃんと頷き合って、次のステップへ。


 ――なになに、次は下の箸の練習かぁ。親指の付け根の所で挟んで、薬指の爪の辺りに当てる。ふんふん、こうかな? 絵と見比べながら同じ形にしていき、お互いに見比べる。


「ニコ、出来てる」

「ヴァンちゃんも良いと思うよ」

 

 よし、次は上下合わせて箸を持つ。下の箸の形を保ったまま、上の箸を差し込む。――おぉ、出来た。これが正しい形ですね!


「出来たよ、ヴァンちゃん!」

 

 興奮しながら伝えた僕の横で、カランカランという音が響く。


「あっ……」

 

 ヴァンちゃんが小さく声を上げ停止した。


「ご、ごめんね、ヴァンちゃん。僕が声を掛けたから……」

「……いや、ニコの所為じゃない。もう一度やる」

 

 何とか持つのに成功したヴァンちゃんと次のステップを覗き込む。


「えーと、下を動かさずに、上の箸を中指と人差し指で挟むようにして動かすだって」

 

 僕が読み上げると、ヴァンちゃんが気合を入れて動かそうとする。


「……うまく動かせない」

「持ち方は合っているよね?」

「うむ。上を動かそうとすると下の箸が指から離れる。それに、上も挟むのが難しい」

 

 どれどれ、僕も挑戦してみよう。挟むようにして持ち上げるっと。


「ニコ、人差し指だけ持ち上がってる……」

「何故⁉ あっ!」

 

 カラーンと箸が落ちる。うぅ、また一からだなんて悲しすぎる。その後も何度も挑戦するが上手くいかない。どこかを動かすと、どこかが離れてしまったり、持ち方が変わっていたりする。ふぬぅ、負けるものか!


 もう一度、紙をよく見る。上の箸は親指も重要らしく、支点の様にすると。ほうほう。ヴァンちゃんにも教えてあげよう。

 

 特訓の末に何とか形になる。


「出来た……」

 

 ヴァンちゃんが、しみじみと呟いている。うんうん、良かったよぉ。でも、僕は既に気付いている。ここがまだスタート地点だという事に。先は長い……。



「えーと、次のステップは実際に使ってみるだね。まずは、マシュマロを掴んで食べるだって」


「食べていいのか?」

「うん。おやつの時間になっている筈だからって」

「完全に読まれているな」

「そうだね……」

 

 シン様には僕達が何にどれくらい掛かるか、お見通しらしい。


「じゃあ、早速。いただきます」

 

 ヴァンちゃんがあっさりと掴み、マシュマロを口に入れる。


「うまい」

 

 僕も食べようっと。あーん、ぱくっ、――にはならなかった。力が弱過ぎたのか、口に入る前にお皿に落下した。口を開けたまま固まった僕の肩をヴァンちゃんが叩く。


「――ドンマイ」

 

 うぅ、恥ずかしい……。ええぃ、無様な姿のまま終わるものか! とうっ、――ぱくっ。やったぁ、成功した! よぉし、次だ次っ。


「次は、『冷蔵庫にオレンジジュースが入っているから飲んでね』って書いてある」

 

 僕達は顔を見合わせ、冷蔵庫に向かう。開けると蓋にメモが貼られた器があった。『これを箸で食べてね』と書かれている。ジュースと器を運び、蓋を開けると、ひと口大に切られたリンゴが入っていた。


「うまそう。いい匂い……」

 

 ヴァンちゃんと一緒にリンゴの香りを吸い込む。はぁ、甘酸っぱくていい匂い。


 匂いを堪能し、箸で掴む。……滑る。よし、もう一度。――また、掴めない。目の前にリンゴがあるのに食べられないなんて酷すぎる。うぅうぅと唸りながらヴァンちゃんと挑む。あっ、ようやく一切れ取れた!


「はむっ。おいしい~。頑張った分、余計においしく感じるよ……」

 

 ヴァンちゃんも隣でもぐもぐと口を動かしながら深く頷いている。


 最後の一切れを食べる頃には、一、二回落とすだけで掴めるようになった。



 最終ステップ。お豆を隣のお皿に移す事。


 お皿に入っているお豆を箸で掴むと、勢いよくすり抜け床で跳ねる。カツーン、カツーン、カツッ……。


 慌てて拾いに行きお皿に戻す。きっと、掴みにくい形だったのだろう。別のお豆に狙いを定め、えいやっと掴む。だが、勢いよく吹っ飛んだ。カツーーーン、カツッカツッカツ……。あんなに遠くまで行ってしまった。再度、拾いに行き、お皿に戻す。


 今度こそ! 掴む力が強すぎたのかもしれないと優しく掴んでみると、ぽろっとお皿に落ちる。弱すぎたかな? えいっ! カツッカツッカツーーン……。呆然と見送り、暫し遠い目をする。出来る気がしない……。


 チラッと横を見るとヴァンちゃんも遠い目をしていた。途中から拾いに行くのを諦めたのか、お豆が床に幾つも転がっている。僕達は揃って、じっと我が手を見つめる。何が、一体何がいけないのか……。


「ただいま。進み具合はどうかな? あー、うん。何も言わなくても大丈夫」

 

 帰ってきたシン様が僕達の頭を撫でてくれる。一目瞭然ですよね……。


「豆を掴むのって難しいよね。箸を普段使っている人だって、失敗するから大丈夫だよ。ちょっと箸を貸してくれる?」

 

 差し出すと、先端部分に風の魔法で一周ぐるりと線を入れていく。五本引いたら完成のようだ。


「はい、もう一回試してみて。力を入れ過ぎるのも良くないよ」

  

 頷きお豆をひょいっと掴む。


「あれ、掴めた……」

 

 まぐれだろうか? もう一度挑戦。


「掴めた……掴めました!」

「うん。凄いね、ニコちゃん。上手だねぇ」

「やったー! 出来たよ、ヴァンちゃん」

「凄い。一気に上達した」

「ヴァンちゃんも箸を貸してごらん」

 

 僕の箸と同じように線が刻まれる。


「さぁ、やってみよう」

 

 ヴァンちゃんが緊張した面持ちで箸を構える。


「――掴めた」

 

 ヴァンちゃんが掴めた事にびっくりしている。さっきまで全然掴めなかったのだから当然だ。


「線のおかげ?」

「うん、滑り止めになるんだよ。他の課題は達成できたかな?」


「はい、全部出来ました。でも、なかなか上手くいかなくて挫けそうになりました」


「ふふっ。二人共、良く頑張ったね。偉い偉い。カハルも撫でてあげてね」

 

 頷いたカハルちゃんが小さな手で僕達の頭を撫でてくれる。こんなご褒美があるだなんて。頑張って良かった……。


シンは行動を読んでいますね。さすが、お父さんです。

最初は順調でしたが、最後の豆は難関でしたね。転がっては拾い、転がっては拾い。

豆が飛んでく『カツッ』という音を書くのが途中から楽しくなってしまい……。

苦労を掛けて、ごめんよ、二人共。


次話は、カハルに更なる変化が起きます。


お読み頂きありがとうございました。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ