0086.早く帰らせて~
一件目、二件目と順調にこなしていく。今日は普通の人達だった。昨日が当たり? の日だったのかな。決めた通りに五件配り終える事が出来た。次は最後の特急だ。ん? この人は昨日の赤髪の部長補佐さんだ。
早く終わらせよう。これが終わったらお昼ご飯の時間だ。
「こんにちは。あれ、君は昨日の子?」
「はい、そうです。今日も赤髪の部長補佐さんをお願いします。これ、メモです」
「はい、お預かりします。少々お待ち下さい」
通信の鏡で呼び出して、メモを読み上げている兵士さんが必死に笑いを堪えて、声を震わせながら読み上げている。
「――そうです。『昨日、ニコちゃんに迷惑を掛けましたね。全くいい度胸です。一度、きちんとお話しましょうか。二人きりで』だそうです。あの、そちらに行って貰いましょうか? 顔が真っ青ですし、震えていらっしゃるので――」
「いやいやいや、ご足労頂くなんて、そんな事。今すぐ行きます。因みに昨日の子だけですか? 本当に他に誰も居ないんですね⁉」
「はい、昨日の子だけですよ。では、お待ちしております」
何とか通信が終わったようだ。メモを返して貰い、椅子に座って待っていると、ダダダダッという音が聞こえてくる。来たみたいなので椅子から降りて戸口に歩いて行く。
「お待たせ致しました! 今日はどのようなご用件で⁉」
「こちらの書類の確認とサインをお願い致します」
差し出すと、今日は直ぐに受け取ってくれた。サインを貰ったので帰ろうとすると、肩を掴まれる。
「待って、待って! ミナモ様の様子はどんな感じ? 怒っていた? それとも冷ややかに笑っている感じ? それとも笑顔で青筋?」
この人の中でミナモ様はそんなイメージなのだろうか? 優しい人だと思うんだけどなぁ。
「えーと、呆れている感じでした。それと、直接話すとおっしゃって――」
「直接⁉ 無理無理無理……精神が崩壊する。何とか君から取り成してくれないかな?」
この状況は、ミナモ様を呼んでもいい感じだろうか? 早く帰って食べて、カハルちゃんを一目見に行こうと思っていたのに……。
「――あのさ、嫌がっているから手を放してやれよ」
急に聞こえた声に目線を上げると、箱を抱えた青年が立っている。
「えっ? あっ、ごめん! 痛かった?」
「いえ、大丈夫です。僕、お昼ご飯の時間なので帰らないと。ヒョウキ様とミナモ様をお待たせする事になっちゃいます」
「えっ、それはまずいねって、そんな時間⁉ 俺も戻らなきゃ。じゃあね」
急いで走って行く姿が遠ざかった所で、お礼を言いにいく。
「ありがとうございました。とても助かりました」
「いや、大した事はしていないから」
「そんな事ないです。――うわぁ、可愛いぬいぐるみ!」
「ああ、父が作った物だ。俺はこれを届けに来たんだ」
「そうなんですか。カハルちゃん、こういうの好きそう。あの、お店を教えて頂けませんか?」
「ああ。土の国の中央通りから少し入った所にある、ビジュ・コパンという店だ。場所が分からなかったら、中央通りにある店の人に聞けばすぐに教えてくれる筈だ」
「ありがとうございます。引き止めてしまって、すみませんでした」
「いや、来てくれるのを楽しみにしている」
「はい! それでは」
お互いに会釈をして別れる。あとで、ヴァンちゃんにもお店の事を教えてあげようっと。
兵士さんが必死に読んでますね。その内、メモを見るのが心待ちになったりして。
赤髪さんは自分の事に必死で、ニコちゃんの様子に気付いていませんね。
青年、グッジョブ!
次話は、ニコちゃんの隠し事がばれます。
お読み頂きありがとうございました。




