0082.危険な扉
「まず、この扉ね。開けてもすぐ入っちゃ駄目だよ。ええと、紙とか持ってないかな?」
ポケットをごそごそとと探る。おっ、カサリとしたもの発見。
「飴の包み紙でもいいですか?」
「うん。よく見ていてね?」
ワコウ将軍が扉を開け、包み紙を放り投げた。ゴォーッと音を上げて部屋中が業火で埋め尽くされる。
「えっ……」
固まる僕達にワコウ将軍が真剣な顔で説明してくれる。
「今のを見て分かったと思うけど、この城の仕掛けは命を落とすレベルだからね。無闇に扉を開けて入ってはいけないよ」
ごくりと唾を飲み込み頷く。ちょっと膝が笑ってしまっている。
「なぜ、ここまでの仕掛けが必要なのですか?」
ヴァンちゃんが部屋の中に視線を固定したまま聞く。
「因みにここは宝物庫に行く為の最初の扉だよ。この国は強力な魔法具を数多く抱えている。使い方を間違えれば一国が吹き飛ぶような物まである。俺は途中までしか仕掛けと道筋を教えて貰っていない。最後まで知っているのはヒョウキ様とミナモ様だけなんだよ」
ヴァンちゃんが頷き、ポツリと呟く。
「……全ての国の暗部も知っている」
「そうだね。この国は全てを抱えている。そして、その全ての重さをヒョウキ様が背負い、ミナモ様がサポートしている。もし、俺がそれを背負わされたら数日で気が触れると思う……」
ワコウ将軍は正直な人だ。そして、その言葉に考えさせられた。国を背負う重さで気が触れそうなのに、カハルちゃんは世界を背負っている。それは、どれほどの重さだろう……。
そっと、カハルちゃんに目をやると、不思議そうに僕を見返してくる。全てを懸けて戦うカハルちゃんに僕は何をしてあげられるだろう? すぐには思い付かなくて、ヴァンちゃんに背負われているカハルちゃんの頬をそっと撫でる。
「あー、うっ、うー!」
カハルちゃんが嬉しそうな声を上げたのを聞いて、ヴァンちゃんとワコウ将軍がハッとした様に動き始める。
「次はこっちだよ。一番、危険な扉に案内するね」
「あれよりも上……」
ヴァンちゃんの言葉に頷くワコウ将軍を見て、僕は気を引き締める。
その扉は執務室のすぐ近くにあった。そんなに危険な物が王様の側にあって大丈夫なのだろうか? ヴァンちゃんも不思議そうに首を傾げている。
「意外だった? でも、この城で一番強いのはヒョウキ様だからね。ここに居る者は俺達じゃ歯が立たない。少しなら足止め出来るかもしれないけどね」
何だか嫌な予感しかしない。もしかして僕が今、背にしている黒光りする分厚い石の扉の先には――。
『横に跳んで!』
首筋にチリッとしたものを感じた瞬間、頭の中に響いた声に従って横に大きく跳ぶ。先程まで僕が居た空間に、細くて黒い触手のような物がうにゃうにゃと蠢く。出所は――扉の隙間からだ!
伸びて来た触手をヴァンちゃんが素早く避ける。ワコウ将軍は剣を抜き放ち、次々に触手を斬っていく。
ヒョウキ様を呼ばないと! ワコウ将軍に目で促されたのに頷き、走り出そうとした、その時――。
「無事か⁉ 魔物の気配がしたぞって、うわっ、出て来てる! ワコウ、ニコ達を連れて退避しろ。俺は封印を強めてから仕掛けのレベルを上げる。俺が良いと言うまでウロチョロするなよ。近付くと死ぬぞ」
「了解。すぐに退避します」
そう言うと、ワコウ将軍は僕達を腕に抱き上げて走り出す。その途中で、ミナモ様とロウ将軍がこちらに走って来た。
「ヒョウキ様は?」
「封印を強めた後に城の仕掛けのレベルを上げるそうです。ヒョウキ様が良いと言うまで、この前、説明を受けた場所には近付くなとの事です」
ミナモ様の質問にワコウ将軍が答えると、ロウ将軍が来た道を引き返して行きながら指示を出す。
「ワコウは執務室でその子達を守りながら待機。私は兵達に通達する」
「私はその他の方達に伝えて来ます」
ミナモ様も足早に去って行く。
「行こうか。執務室は仕掛けのレベル上げの影響がないから安全だよ」
「「はい」」
危険なお城ですね。賊が侵入出来たとしても何も出来ずに終わりそうです。
ニコちゃんの予感が当たってしまいました……。
次話は、ワコウ将軍に魔物や退避についてのお話を聞きます。
お読み頂きありがとうございました。




