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NICO & VAN ~最愛の主様を得たモフモフのほのぼの日常譚~  作者: 美音 コトハ
第二章 新生活の始まり
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0081.それ、逃げろ

「……うー……」

 

 カハルちゃんが不安そうな声を出した。どうしたんだろう? カハルちゃんの視線を追っていくとメイド長さんがこちらに近付いて来ていた。僕とヴァンちゃんは思わず後退る。何、あの静かな怒気は⁉


 気付いた研究者の人達が次々とメイド長さんと距離を取る中、部長さんだけが気付いていない。鈍感なのか、分かっていてあの態度なのか。


「部長、お疲れ様です。爆発音が聞こえたのですが、被害状況を確認させて頂いても?」


「ああ、どうぞ。ちょーっと天井と机が焦げちゃっただけだよ。はははっ」

 

 メイド長さんは綺麗な笑顔を保ったまま怒りのレベルを上げた。ひぃぃっ、怖いよぉー(泣)。カハルちゃんもプルプルしている。ヴァンちゃんはそんなカハルちゃんの背中をぽんぽんと叩き、あやしているけど顔が少し引き攣っている。


「だいぶ黒くなっていますね。つい最近、白く塗り替えて頂いたばかりですのに。あら、部長、襟に汚れが」


「おぉ、すまないね」

 

 汚れを落としながら、メイド長さんが襟から何かを取ったように見えたけど、気の所為かな?


「何度も言うようですが、爆発が起きるような実験は事前に申請し、結界などの準備をしっかりした上で行って下さい。直せる物ばかりではないのですよ? 人の命は一つしかないのですから」


「うん、ごめんね。つい、うっかり。それに、私だって爆発が起きるとは思っていなくてね。そうそう、さっきも実験があまりにも面白かったから、次々と試していたら、ドカーン。いやぁ、面白いね」

 

 あぁ、言ってはならない事を……。


「――分かりました。何を言っても無駄のようですね。部長、これが何か分かりますね?」


「あっ、それは私のバッジ! いつの間に⁉」


「その部屋に入る為には、このバッジと生体認証が必要なのはよくご存じかと思います。片方だけでは入れません」


「返したまえ」


「お断りします。部長は私の望みを聞いて下さった事は一度もございません。メイド達から不満が多く出ております。爆発の片付けや一日で着られなくなった白衣など数え切れません。部長には何度も改善をお願いしましたが、一向に対処して頂けません。ですので、ミナモ様にご相談した所、私に処罰を一任しますと仰せられました。よって、ここで発表させて頂きます」


「ちょ、ちょっと待ちたまえ。落ち着いて話し合おう」


「その時期は過ぎました。確か部長は有給休暇がかなり溜まっていますね? この機会に三週間ほどお休みなさって下さい。それと、城ではなくご自分の家へお帰り下さい。すぐに馬車の手配を致しますので、少々お待ち頂けますか?」


「ま、待ってくれ! 三週間⁉ そんなに長い間、私に実験をするなと?」

「はい、その通りです。お話は以上です」


「そんな横暴が許されるものか! 少し焦げた位、何だというのだ! こういう積み重ねがあるからこそ輝かしい未来があるのだよ。そもそも――」


「お黙りなさい」

 

 静かな声なのに有無を言わせぬものが潜んでいる。ひぃぃっ、と心の中で叫び、近くにいたワコウ将軍の足に抱き付く。ヴァンちゃんはカハルちゃんと共に完全に凍り付いている。


「部長、独房に入って頂いても構わないのですよ? それとも今までの被害額を完済するまで無給で働いて頂いてもいいのです。それとも、将軍達にしごかれるのがお望みですか? メイド達に混ざって一日中、洗濯をしますか? それとも――」


「わ、分かった。家に帰る」

「お分かり頂けたのなら何よりです」

 

 ワコウ将軍が少し青ざめた顔で僕達に囁く。


「次の所へ行こうか」

 

 僕達は必死に頷き、少し歩いたところで声が掛けられる。


「ワコウ将軍、お待ち頂けますか?」

「っ⁉ は、はい。メイド長、ど、どうされましたか?」


「すみません、兵士の方に片付けを手伝って頂きたいのです。今、手隙の方はいらっしゃいますか?」


「あ、あぁ、それでしたら、第一部隊の者に声を掛けて下さい」


「ありがとうございます。お呼び止めして申し訳ありません。ニコちゃん、ヴァンちゃん、カハルちゃん、お恥ずかしい所をお見せして申し訳ありません。お城見学を楽しんで来て下さいね」

 

 ニコリと僕達に笑ってくれたメイド長さんは怒りを全く感じさせない。ほっとしたのも束の間、部長さんに向き直った途端、冷気が辺りを覆う。


 に、逃げよう。そうだ、そうしよう。僕は走り出したいのを堪え、猛スピードで歩く。ヴァンちゃんも僕の隣に並んで来た。その目が語っている。それ、逃げろと。


 ワコウ将軍と共に角を曲がった所でようやく速度を緩める。


「はぁ、怖かった……」

「うー……」

「カハルちゃん、よしよし。ニコもよしよし」

 

 ヴァンちゃんに頭を撫でて貰い、カハルちゃんと共に和む。


「ははっ、はぁ……」

 

 ワコウ将軍が笑おうとして失敗し、深々と溜息を吐く。頭をガシガシと掻きながら、気持ちを落ち着けているようだ。


「――三度の飯よりも実験が好きな人だから、だいぶ堪えるんじゃないかな」

「すぐ、けろりとしてそう」

 

 ヴァンちゃんの言葉にワコウ将軍が項垂れる。図星ですか……。


「――取り敢えず、三週間の平和を手に入れただけでも良しとしよう……。えっと、次の所に案内するね」

 

 何とか気分を落ち着かせて皆で歩き出す。


「もう、あまり時間が無いからヒョウキ様の執務室近くの仕掛けを重点的に説明するね」


「「はい」」


メイド長の堪忍袋の緒が切れました。

もっとも効果的な処罰を下しましたね。

周りの人達はブルブルです。自分が言われている訳ではないですが、お顔が真っ青です。


次話は、城の仕掛けについてです。


お読み頂きありがとうございました。



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