0007.ハンカチ
それまで黙って聞いていたダーク様が口を開く。
「――だが、来なくても遅かれ早かれこうなっていた。そして、俺達は全員死んでいただろうな。――ニコ」
「は、はいっ」
「皆を代表して挽回の機会を与えてやろう。何故か、そこの馬鹿に説明してやれ」
僕はチラチラと女の子とヴァンちゃんを見つつ喋り始める。
「えっと、その子が引き金だったかもしれないですけど、逆にその子が居たから僕達は今ここに立っている事が出来ています」
「はぁ?」
うっ、と詰まった僕の後をヴァンちゃんが続ける。
「はぁ? じゃないだろ。どこまでも阿呆だな。相手の力量も測れない者には分からなかっただろうが、最初の蔦の攻撃でほぼ全滅だ。俺とニコが怪我をしつつギリギリ避けられただろうが、次の攻撃で死んでいた。なんとか生きていたとしても魔物の声で発狂していただろうな。だが、その全ての事態を、この子が居た事で回避できた。分かるか? その全てにこの子が命を懸けてくれた事が。俺達の存在がこの子を危険に晒したにも関わらず、全てを救い上げてくれた優しさと覚悟が」
「ダーク様もいるし、余裕で闘っていたじゃん。命の危機なんて大袈裟だろ」
「この野郎っ」
ギリッと歯を鳴らし掴み掛りそうなヴァンちゃんの手を女の子が引っ張る。
「もう止めて、ヴァンちゃん……。その子も引っ込みがつかなくなっているんだと思うよ? 私の為に怒ってくれてありがとう。でも、これ以上は駄目だよ。その子との関係が修復できなくなっちゃうよ」
「でもっ――」
女の子が首を振りながら、ヴァンちゃんの言葉を遮る。
「いいの。昔からこうなんだ。私の力を知った人は大体、利用しようとするか恐れて離れて行くのが普通だから……。だから、ヴァンちゃんが分かってくれただけで充分」
力を隠す事も出来た筈なのに、僕達の命を最優先にしてくれた。こうなる事も覚悟して――。僕の胸がズキリと痛む。でも、この何倍も女の子を傷付けてしまった。早く謝らなきゃ。
「あの、」
「今までも逃げられていた? ハハッ、やっぱり化け物――」
僕の言葉を遮ったドガの首に、トスッとダーク様の手刀が入った。
「もう、いらん。クビだ」
崩れ落ちたドガの首根っこを掴んでプランとぶら下げると、唖然としている女の子の前に立つ。
「カハル、俺が昔に言った事を覚えているか? 『力が有ろうが無かろうが何者だろうが、俺はお前が気に入った。だから離れてやらん』 と。その言葉に今も嘘はない。態度でも証明してきただろう? だから、カハルはそのままでいろ。そして、顔を上げ続けろ。俺がいつだって味方でいてやる」
その言葉に唇を震わせると小さく頷き、涙でいっぱいになった眼を袖でゴシゴシしようとする。その姿に思わず声を上げていた。
「あっ、あの、このハンカチ使って下さい……」
「えっ⁉」
ビックリして声を上げた拍子に、女の子の眼から涙が一粒零れ落ちる。僕は慌てて近寄ってフキフキする。そして、まだ涙でいっぱいの眼を見つめながら、中々言えなかった言葉を口にする。
「ごめんなさい……」
腰を九十度に曲げて深々とお辞儀する。僕の行動を皮切りに、他の仲間達も次々と謝罪の言葉を口にしながら頭を下げていく。
ドガがクビになってしまいました。
ヴァンちゃんが、こんなに長く喋る事はもう無いかもしれません(笑)。
ヴァンちゃんの見せ場だったのに、ダークが良い所を根こそぎ持っていった気がする……。
次話は、ニコちゃんがお星様を見ます。
お読み頂きありがとうございました。