0077.僕、この家の子になります
「今日は、ニコちゃんの好物のお芋で肉じゃがを作るから楽しみにしていてね」
「はい。どんなお料理かな? 楽しみ~」
「ふふっ。きっと気に入ると思うよ。さぁ、二人共、お風呂に入っておいで」
「「はい」」
今日はどのお風呂に入ろうかな? 昨日は一番手前に入ってみたから、真ん中にしようかな。
「真ん中にする?」
「そうする」
「よいしょっと。――ふへぇ~、気持ちいいー」
「うんしょ。――昨日よりも少し熱い」
「ね。明日は一番奥のお風呂だね」
「うむ、楽しみ。あそこだけ、カーテンが引けるようになっているから、カハルちゃんは普段、一番奥なのかも」
「あー、確かに。カハルちゃんは熱いお湯が好きなのかな?」
「そうなのかも。早く一緒に入れるようになるといい」
「うん。楽しそう。髪の毛洗ってあげよう」
「俺もやりたい」
喋っていたら少しのぼせた。熱い……。
「「お風呂、ありがとうございます」」
「お帰り。ご飯出来てるよ。さぁ、座って」
はぁ、いい匂い。隣ではヴァンちゃんが沢庵を見付けて目を輝かせている。よっぽど気に入ったらしい。
「じゃあ、食べようか。いただきます」
「「いただきます」」
これが肉じゃがかな? じゃがいもさん、食べちゃうぞー!
「もぐっ……んーーっ‼ はむっ。もぐもぐもぐっ」
「味が染みてるし、ホクホクしていて、うまい」
「良かった。ニコちゃんは……聞くまでも無さそうだね」
「夢中過ぎて聞こえていないと思う」
「そうだね。明日は、ヴァンちゃんの好きなグラタンにしてあげるからね」
「ありがとうございます。早くカハルちゃんと一緒に食べたい」
「そうだね。カハルは猫舌だから、必死にふーふーして食べるんだよ。その姿がまた可愛いんだよね」
「俺も見たい。きっとアチアチってなる筈」
「分かってるねぇ、ヴァンちゃん。カハルが大きくなったら、一緒にご飯を作ったり、お菓子を買いに行ったり、色々としようね」
「絶対する。楽しみ」
「うん。――ニコちゃん、お替りあるよ」
「ふふぉぅっ⁉ お願いします!」
あっという間に空になってしまった器を切ない気持ちで見つめていたら、タイミング良く、シン様から声が掛かり思わず変な叫びが出てしまった。
「はい、どうぞ。大盛にしといたからね」
「はわーっ、ありがとうございます。やった♪ やった♪ いただきます! はむっ。――おいしぃーーーっ」
シン様が噴き出しているけど気にしない。これは僕史上、最高のじゃがいもさんです。はぁ、おいしい……。味が染み込んでいるし、じゃがいもはホクホクだし、お肉も旨味がたっぷりだ。玉ねぎは嫌いだったけど、これはトロトロでおいしい。これから毎日、こんなご飯が食べられるだなんて幸せすぎる!
「――僕、この家の子になります」
「本当? 息子が増えるね」
「んん?」
「ニコ、ダダ漏れ」
やってしまった。口からぽろっと。またもや、ぽろっと。そっと、シン様を窺うとカハルちゃんに息子が増えたよと話し掛けている。
「俺も立候補する」
「おや、ヴァンちゃんも? カハル、聞いた? ヴァンちゃんもだって。良かったね。――そう、嬉しいねぇ」
不思議そうに聞いていたカハルちゃんが興奮して手をパタパタさせている。もしかして、喜びの舞⁉ なんて、可愛い! この場合、僕がお兄ちゃんかなぁ。んふふふ♪ 良い響きだ……。
「ニコが旅立ってしまった」
「そうだね。幸せそうだから、いいんじゃないかな」
「確かに」
「さて、食べちゃおうか。ニコちゃーん、ご飯が冷めるよー」
「ニコ、戻ってこーい」
「――ふはっ⁉ 何か言いました?」
「うん。冷めちゃうから食べようって。ね、ヴァンちゃん」
「ん。ニコが食べないなら俺が食べる。肉じゃが、うまい」
「そんな~、これは僕の分だよ。はむはむはむっ」
「ゆっくり噛んでね。喉に詰まるよ」
そうだった。じゃがいもは村のじっさま達も時々、詰まらせかけていた。気を付けねば。
傍らではヴァンちゃんが食べ終えてお茶を飲んでいる。その姿をカハルちゃんがじーっと見ている。あっ、ヴァンちゃんと目が合った。
「カハルちゃん、お腹空いた?」
「あうっ、あー、あー」
首を傾げるヴァンちゃんに、シン様がカハルちゃんを渡す。
「カハルは、ヴァンちゃんをモフモフしたいんだよね」
「うーっ!」
おぉ、正解のようだ。さすが、お父さん。
カハルちゃんがヴァンちゃんの頬を小さい手で一生懸命触っている。ヴァンちゃんはくすぐったさに耐えているようだ。次にカハルちゃんはヴァンちゃんの真っ黒でツヤツヤなお鼻を触ろうとするが届かない。
「ん? カハルちゃん、何処に触りたい?」
「ヴァンちゃん、お鼻だよ」
「鼻?」
僕の言葉に従って、ヴァンちゃんが鼻を近付けると、カハルちゃんが、そーっと触る。
「うー、あ、あぶっ、うー!」
興奮しているようだ。獣族の鼻を触るのは初めてかな?
「カハル、良かったね。でも、今日はここまでだよ。もう寝ようね」
カハルちゃんが、ショボンとしてしまった。
「カハルちゃん、僕とヴァンちゃんが一緒に寝るので寂しくないですよ」
「そう、一緒。ずっと、モフモフ出来る」
その言葉に目をキラキラさせ始める。どうやら眠る気になったらしく、「うーっ」と言いながら布団とシン様を交互に見ている。
「ふふっ。じゃあ、寝ようね。はーい、おやすみー」
シン様がぽんぽんと背中を優しく叩きながら布団に向かう。既に目がトロンとしているので、布団に入った途端に眠ってしまうだろう。早くご飯を食べて添い寝してあげなければ。
肉じゃがとお兄ちゃんに舞い上がっています。
シンの腹筋が大忙しです。一度耐えても、すぐ次があるので結局噴き出します。
息子が増えて賑やか家族ですね。
次話は、カハルに変化が起きます。
お読み頂きありがとうございました。




