0075.早く受け取って下さい
無事に魔法道まで戻り、次の国へ到着。
「魔国の方ですね。お疲れ様です。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「お疲れ様です。会計の方に書類をお届けに上がりました」
「お名前は分かりますか?」
「えっと、メモが付いているので読み上げますね。『赤髪の部長補佐、今すぐに書類を寄越しなさい。私の本気の説教が聞きたいですか?』だそうです。誰か分かりますか?」
「ぶふっ、はい、直ぐに呼び出します。メモをお貸し頂けますか?」
笑いだすのを必死で堪えている。有名な人なのかな?
「――お待たせしました。全速力で参ります、だそうです」
「はい、ありがとうございます」
「メモをお返し致しますね。そこの椅子へ腰かけてお待ち下さい」
うんしょと、よじ登り待っていると、ダダダダッという音が聞こえてくる。
「お待たせ致しました! 申し訳ありません、何卒ご容赦をっ!」
部屋に入って来るなり、がばっと頭を下げ早口でまくし立てる。
「あの、顔を上げて下さい。書類の確認とサインをお願いします」
「えっ?」
やっと顔を上げてくれたので、椅子から飛び降り目の前まで行く。そんな僕をまじまじと見た後、一言。
「……からの?」
「えっ、からの?」
「他にも誰かいるんじゃないの⁉ 怯える俺を楽しそうに見つめる誰かが!」
あちこちに視線を走らせながら怯えている。普段どんな目に遭っているのだろうか?
「僕だけです。確認して頂けたら、また僕がミナモ様にお届けする事になっているので、お願いします」
なかなか受け取って貰えない書類を差し出す。
「君がっ⁉ 天は俺を見捨てていなかった! 直ぐ済むから、ちょっと待ってね。居なくなっちゃ駄目だからねっ」
そう言うと、近くの計算機を使い猛然と計算し始めた。おー、速い。指が踊っております。
「よし。あのさ、悪いんだけど、この書類も関係している物だから一緒に渡して貰えるかな?」
「はい、分かりました。ここに記入をお願いします」
「了解。――出来たよ」
「はい、確かに。ありがとうございました。これで失礼致します」
「あっ、待って待って。今度から君が来るの?」
「多分、その筈です。もう一人、僕と同じ種族の子が来るかもしれませんけど」
「そうなんだ? 助かるよ。これで恐怖の日々が終わる……」
本当に普段、どんな目に遭っているのだろうか?
「あの、差し出がましい事を言うようですが、お仕事をちゃんとしていれば、ミナモ様は非常に優しい方ですよ」
周りにいる土の国の兵士さん達が、うんうんと頷いている。良かった、僕の認識は間違っていない。
「君は知らないんだよ! あの氷の様な微笑も、身を切り刻むような数々の言葉も。怖くて眠れなくなる程に追い詰めて来る容赦の無さを!」
ヒョウキ様とお話している時の状態を言っているのだろうか? あれよりも凄いの? うーん、想像がつかない。まぁ、いいか。帰ろう。
「そうなんですか。僕もそうならないよう気を付けます。では」
「うん、気を付けてね。またね」
手を振って見送ってくれる姿に会釈し、魔法道へ入る。
「お疲れ様です。ニコちゃん」
「お疲れ様です。ミナモ様、こちらの書類を預かって来ました」
「ありがとうございます。少々お待ち下さいね」
待っている間にカハルちゃんに目をやる。よく寝てるみたいだ。寝顔にほっこりしていると声が掛かる。
「お待たせしました。これで問題ありませんので、続きの配達をお願いしますね」
「はい。行ってきます」
「行ってらっしゃい。気を付けて」
よし、サクサク片付けよう。レッツゴー!
赤髪の部長補佐さん、全力疾走です。
可愛らしい白族で喜ばせてからの、魔国のキレた官吏もしくはミナモが出てくると思っています。
ミナモは理由なしに叱ったりしません。本当の本当に優しい人ですよ~。
次話は、配達を終えての反省会です。
お読み頂きありがとうございました。
 




