0006.極少結界の耳栓
「二人共、ありがとう。じゃあ、今から説明するね。あっ、その前に、さっきみたいになるといけないから、耳栓を配るね。はい、ニコちゃん」
「ありがとうございます。――透き通っていて綺麗ですね」
「うん、極少の結界だから」
「結界……こんな使い方も出来るんですね」
「カハルだから出来る芸当だな」
「そうなんですか? ダーク様も作れるんですよね?」
「いや、無理だ。こんな事が出来るのは、カハルとヒョウキくらいだろう」
「ヒョウキ……もしかして魔国の王様ですか?」
「あぁ、さすが白族だな。王の名を知っているとは」
よくできました、と僕の頭を撫でながら続ける。
「これを作るには高い魔力と制御する力がいる。俺が作ろうとした場合、良くて爆発、悪いと手が吹っ飛ぶ」
「吹っ飛ぶ⁉」
僕が凍り付く横で、ヴァンちゃんが冷静に質問している。
「そんな魔力の結晶のような物を、魔力のない者が耳に入れても平気なんですか?」
全員に配り終わった女の子が、その質問に答える。
「うん、誰でも使えるよ。それに対象は、あの魔物の声だけにしてあるから、他の人の声とかは聞こえるよ」
「おぉ、便利」
ヴァンちゃん、感想はそれだけなの⁉ そんな凄い物が人数分あって、あっさり作るような人なんだよ? 僕は恐れを抱き始めていた。それは、他の子達も同じだったようで、女の子と僕達の間に空間が出来ていた。それを見た女の子が少し寂しげに俯いた後、まるで慣れているかの様に直ぐに顔を上げ、明るい声で言う。
「皆を守る物で、傷付けるような事は絶対にないから使ってね」
少し硬い笑顔を残して離れていこうとする様子を訝しげに見ていたヴァンちゃんが、珍しく怒気もあらわに言った。
「お前達っ、今すぐ謝れ!」
女の子がビックリして立ち止まる。そんな女の子の手をそっと握り、一つ頷いて見せると、怒りに燃える目を僕達に向ける。
「お前達の目は節穴か? この短い時間の中でどれだけ助けられたと思っている。一番危険な場所に常に立ち、俺達への攻撃も退け続け、手が吹っ飛んでもおかしくない物をこんなにも作ってくれたんだぞ。そんな人への返礼がこれか? 恥を知れっ!」
「え、偉そうに言うなっ」
そう声を上げたのは、いつもヴァンちゃんに突っかかるドガだった。
本当はヴァンちゃんに憧れていて仲良くしたいのに、素直になれず言い掛かりばかりをつけ、ヴァンちゃんとの溝は深まるばかりだ。
そんなドガが続けて言う。
「強い奴が他の人を守るのは当たり前だろう! それに名前しか知らないんだから警戒するのが普通だろっ。――ハッ、そうだ! 実は魔物なんじゃないのか? あいつの仲間だから詳しいんだろ!」
女の子は、その言葉に唇を噛んで俯く。その姿を見てドガは更に言葉を重ねる。
「ほら! 反論できないって事は事実だから――」
「黙れ」
ヴァンちゃんがそれを遮る。その声も眼も既に仲間に向けるものではなくなっていた。怒りを通り越したのか乾いた声で続ける。
「では聞くが、腕が二本あるのだから、一本寄越せと言われたら差し出すか?」
「なっ⁉ 差し出す訳ないだろっ」
「お前がさっき言っていた事と同じだろう? いや、生易しいか。お前はこの子に、出会ったばかりの警戒すべき俺達に対して、命を差し出せと言ったんだからな」
その言葉が僕の頭に浸透していく。理解に達した途端、恥ずかしさと情けなさで逃げ出したくなった。
本当になんて恥知らずだ……。女の子の行動を全て見ていたのに。他の子達も恥ずかしさに顔を上げられなくなっている。その中で、ドガだけがまだ向かって行く。
「そ、そんな事は言ってないだろ。それに魔物が活発になって危ない目に遭ったのは、その子のせいじゃないか!」
はぁ、とヴァンちゃんが小さな溜息をつく。
「まだ、理解できないのか? 最初にダーク様が『俺の力だけでは抑えきれなくなった』と言っていたのを聞いていなかったのか? 鏡の封印はこの子が来る前に解けかけていたんだ」
「でも、その子が引き金になったのは確かじゃんか!」
「そうだな――」
我が意を得たとばかりにヴァンちゃんの言葉を遮る。
「ほら、俺の言った通りじゃん!」
ヴァンちゃん VS ドガ です。
素直になれていたら良かったんですけどね……。
遮る音を選べるだなんて! 結界耳栓、作者もとっても欲しいです。
次話はヒロイン泣きます。
お読み頂きありがとうございました。