0068.緊張で味がしません
「――おい、ニコ、昼だぞ。ニコ?」
肩を揺さぶられてハッとする。
「ニコ、昼ご飯」
「そんな時間? ヴァンちゃん、ごめんね。だいぶ呼んでた?」
「うむ。集中してた証拠。気にしなくていい」
ヴァンちゃんに手を引かれて、既に料理が並べられているテーブルに向かう。椅子によじ登った所で、いつの間にか居なくなっていた、ミナモ様とヒョウキ様が部屋に戻って来て同じテーブルに着く。
えっ? この世界で一番偉い人と一緒に食べるの⁉ 慌てる僕に気付いたヒョウキ様が首を傾げる。
「どうした、ニコ? 食べるぞ。いただきます」
逃げられそうにない。諦めた僕は、スプーンを持ち食べ始める。マナーとか大丈夫かな? 緊張で味がしない。はぁ……。
「ニコちゃん、溜息を吐いてどうしました? お口に合いませんか?」
「えっと……」
口ごもる僕を急かすことなく、ミナモ様が待ってくれる。
「差し出口とは存じますが、王と宰相と一緒に食事をするという事で緊張されているのではないでしょうか?」
お茶を出してくれたメイドさんが僕の心情を正確に語ってくれた。
「そうなのか? 俺もミナモも城の者達とよく一緒にご飯食べてるぞ」
「そうですね。相談事を聞いたりしながら一緒に食べたりしますね。確かに変わっていますが、皆で食べるご飯の方が美味しいですから。ニコちゃん、無理強いはしませんが、一緒に食べませんか? 昨日から一緒に食べるのを楽しみにしていたんです」
うぅ、どうしよう? とヴァンちゃんを見ると、僕にチラッと視線を向けてから、大きく切り分けたカツレツを口いっぱいに頬張った。えっ、ヴァンちゃん⁉ そんな大胆な……。もぐもぐと素早く咀嚼すると、気に入ったのか更にガブリといく。
「ヴァン、うまいか?」
「ふぅふぁい!」
頬張りすぎて、うまく喋れないヴァンちゃんを皆が微笑ましそうに見ている。肩の力が抜けた僕は、その後、おいしく楽しい昼食を過ごす事が出来た。ブレないヴァンちゃんに感謝だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
資料を作り終わり、大きく伸びをする。ふぅ、体が強張ちゃった。
「ミナモ様、資料が出来ました」
「ニコちゃん、ありがとうございます」
「俺も出来ました」
「ヴァンちゃんも、ありがとうございます。二人共、ずっと座り仕事で疲れたでしょう? ちょうど、おやつの時間ですし、運動がてら売店に行って来てくれませんか? このお金で私達の分も合わせて買って来て下さい」
「はい、喜んで。あの、売店て何処にあるのでしょう? 外ですか?」
「いいえ、ニコちゃん。城の中にあるんですよ」
「失礼致します。お茶をお持ち致しました」
あっ、昼食の時のクールビューティなメイドさんだ。
「ありがとうございます。メイド長、この後、少しお時間ありますか?」
「はい、少しでしたら」
「この子達を売店に案内して頂けますか?」
「ミナモ、俺が案内してやる。ほれ、二人共行くぞ」
「ほれ、じゃありませんよ。ヒョウキ様は仕事をして下さい。一分一秒が惜しい状態なのですよ? はい、再開して下さい」
手をパンパンと叩いてミナモ様が急かす。取り付く島もないとはこの事だろう。ガンバレ、王様。
ヴァンちゃんはニコちゃんの視線に気付いて、カツレツを殊更大きく切って食べています。
ヒョウキも一役買いましたね。
次話は、売店でお菓子選びです。
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