0066.初めて尽くしの朝食
はい、と渡された器の中には、麦とは違う白くてツヤツヤした粒粒がいっぱい入っている。並んでいる他の器の中身も見た事がない物ばかりだった。
二本の棒が並べてあるけど、これで食べるのだろうか? 戸惑っている内にシン様が座る。
「いただきます」
「「いただきます」」
言ったはいいものの、食べ方が分からない。
「ヴァンちゃん、食べ方分かる?」
「分からん。でも、いい匂い」
こそこそ喋る僕達に気付いたシン様が、しまったという顔をした。
「ごめん、ごめん。そういえば普通の食事と全然違うよね。このお箸で食べるんだけど持てるかな?」
二本の棒の持ち方を見せて貰い、同じように持とうとするけれど中々うまくいかない。
「うーん、訓練しないと無理かな。よし、フォークとスプーンにしよう。ちょっと待ってね」
急いで取りに行ってくれたシン様の背中を、申し訳ない気持ちで見る。ヴァンちゃんも少し凹んでいるようだ。
「はい、お待たせ。説明するね。この白い粒粒はお米又はご飯と言って主食になるよ。でね、今日は卵かけご飯にするから、この卵と醤油という調味料を混ぜてお米にかけて食べてね」
言われたように混ぜてダパッとお米にかける。卵を生で食べるのは初めてだ。恐る恐るスプーンで掬って口に運ぶ。
「もぐもぐ……おいしい!」
「……うまい……もぐもぐもぐ」
「僕の家はお米を食べる事が多いから、口に合って良かったよ。じゃあ、他のも説明するね。これはお味噌汁と言ってスープにあたるかな。で、これが漬物というおかずね。この黒いピラピラしたのが海苔。お米を巻いて食べるんだけど、お箸が使えないから千切ってお米にかけてね。他に分からない食べ物はあるかな?」
他はお魚を焼いたのと野菜を煮たのだから大丈夫そうだ。おいしくて、ついつい口いっぱいに卵かけご飯を詰め込んで答えられない方が問題だ。
「はははっ、二人共詰め込み過ぎだよ。まるでリスみたいだ。ほっぺたがぱんぱん」
笑われてしまった。ヴァンちゃんと僕は急いで噛む。もぐもぐもぐ……。
「ふふっ、そんなに急いで食べなくてもいいよ。お替りもあるから、ゆっくり食べて。分からない事は遠慮せずに聞いてね」
コクッと頷く僕達を微笑ましそうに見ると、シン様が食事を再開する。二本の棒を器用に使って、お魚を切り分けたり野菜を掴む。僕達も練習すればあんな風に出来るのだろうか? そう思いながら凄くいい匂いがするお味噌汁に口を付ける。
「んっ⁉」
「どうかした? 熱かった?」
シン様が僕の反応に心配そうに声を掛けてくれる。
「違うんです。これ、ものすごーーーく、おいしいです! 匂いもいいし、幸せな味がします」
「幸せな味か……いいね。他にも色々食べさせてみたいな。ニコちゃんの好きな食べ物を教えてくれるかな?」
「ドングリです」
「えっ、ドングリ? そっか……うーん、ドングリは料理した事がないなぁ。ごめんね、他にもあるかな?」
そっか、ドングリは一般的じゃないよね。うーん……。
「ニコは芋が好き」
「ヴァンちゃん、ナイス! 僕、さつまいもも好きだし、じゃがいもも好きだし、どっちかなんて選べなくて困ってたんだよ」
「お芋か。じゃあ、夜は肉じゃがにしようかな」
にくじゃが? どんなお料理だろう。でも、シン様が作ってくれる物なら全部おいしそう。
「ヴァンちゃんは何が好き?」
「チーズ」
「チーズか……グラタン好き?」
「好き!」
おぉ、ヴァンちゃんが良い反応。目がキラキラしている。
「カハルも好きなんだよ。ヴァンちゃんと好みが似ているかもしれないね」
ヴァンちゃんが嬉しそうだ。しっぽがピコピコ動いている。
「グラタンは明後日、作ろう。――よし、お話はここまでにして朝ごはん食べちゃおうね」
頷いて食事に専念する。どれも食べた事がない味だったけど、全てがとてもおいしかった。ヴァンちゃんは沢庵というお漬物が気に入ったようだ。ずっとポリポリと良い音をさせながら嬉しそうに食べていた。
朝食を終えたら準備をしてお城へ出発だ。今日も、しっかりとシン様の足にしがみ付く。準備が出来ました、とシン様を見上げたら笑いを堪えている。
だって、異次元に落ちたらと思うと……うぅっ、怖い、怖い。もっと、密着しておかなきゃ。むぎゅーっ。
シンの家はご飯も和風な事が多いです。
箸を使っている国は少なく、フォークやスプーンなどが一般的です。
この世界のドングリはアクなどなく、ピーナッツのような味です。
白族は茹でて殻を向いて食べる事が多いです。森の動物さんはもちろん生でいきますよ!
次話は、魔国の将軍さん登場です。
お読み頂きありがとうございました。




