0064.新生活
「はい、着いたよ。さぁ、入って、入って」
瞬きの間に景色が変わっていた。僕とヴァンちゃんはシン様から離れて周りを見渡す。でも、暗くてよく分からない。明日、じっくり見てみよう。
目の前にある家は、町にあるのとはだいぶ雰囲気が違う。屋根は何かの茎のような物がびっしりと集められて作られている。
シン様に続いて中に入ると、土の床があり、右手に台所がある。正面は一段上がった所が板張りになっていて、居間のようだ。その中心が窪んでいて、灰が入っている。天井からは先端の曲がった金属の棒が下げられていた。何かを吊るすのだろうか?
居間の奥には更にもう一つ板張りの部屋がある。寝室かな?
「二人共、直ぐにご飯にするからね。そこの箪笥と物入れは二人に用意したものだから使ってね。あっ、靴は脱いで上がってね」
言われた通りに靴を脱いで上がると荷物を下ろし、鞄から箪笥や物入れに移し替えていく。あっという間に終わってしまったので周りを見渡す。
「ニコ、あの敷物いい匂いがする」
言われて僕もクンクンと匂いを嗅ぐ。
「本当だ、いい匂い。薄い黄緑で綺麗だね。植物かな?」
「どうしたの? 何か困り事?」
お野菜を洗って戻って来たシン様が首を傾げる。
「違うんです。あの敷物から凄くいい匂いがするんです」
「あぁ、あれはイグサだよ」
「イグサ? ヴァンちゃん知ってる?」
「俺も知らない」
「畳を作るのによく使うんだけどね。この世界では珍しいかも」
たたみ? 何だろう、それ。僕とヴァンちゃんは首を傾げる。そんな僕達の様子に笑いながら、シン様が言葉を続ける。
「後で色々説明してあげるよ。荷物の片付けが終わったなら、お風呂に行こう。案内するから、おいで」
お風呂は家の裏辺りに別棟で建てられていた。木のいい匂いがする。脱衣所に入ると、真ん中がカーテンで仕切られている。
「ニコちゃんとヴァンちゃんは男の子だから、こっちね」
そっか、カハルちゃんは女の子だもんねと納得していると、次々に説明がされていく。
「タオルはここ、下着とパジャマはここ。洗濯物はそこの籠ね。お風呂場の説明もしちゃうから、おいで」
扉が開けられると湯気と木のいい匂いがブワッと押し寄せてくる。湯気が薄れた所で目を開けると、大きな空間が広がっていた。なんと、お風呂が三つもある。ぽかーんとする僕達にお構いなく説明が続く。
「奥のお風呂に行くほど、お湯が熱くなるからね。好きな温度の所に入っていいよ。お風呂は深いから、気を付けるんだよ。えーと、この辺りの石鹸とか好きに使って。これはシャワーね。ここで温度調節して、ここを捻ると出るから。このレバーでシャワーか蛇口か選択してね。他に何か質問あるかな?」
「大丈夫だと思います」
僕が答えるとヴァンちゃんも頷く。
「じゃあ、脱衣所に行こう。――そうだ、毛を乾かさないと駄目だよね。魔石を貸してあげるね。使い方は、手に持ってペチッと叩けばいいだけだから。毛が乾くまでペチペチしてね」
フンフンと頷く僕達に笑い掛けると、手の平を上にする。何が始まるのかと見ていると、いきなり手の平に魔石が現れた。
「ほへっ⁉」
驚いて声をあげる僕と、固まったヴァンちゃんに、一つずつ魔石を差し出してくれる。
「はい、どうぞ。使い終わったら、そこの引き出しに入れてね。じゃあ、ゆっくり浸かるんだよ。――あっ、そうそう言い忘れてた。敬語はなしでいいからね」
クスクスと笑いながら、あっという間にシン様は行ってしまった。
ヴァンちゃんと顔を見合わせながら、僕達はこの先も目まぐるしい展開になる事を何故か確信した。
シンの家は、茅葺き屋根で囲炉裏のある和風なお家です。
シンの勢いとお家の凄さにタジタジのニコ&ヴァンちゃんです。
次話は、外に出てびっくりです。
お読み頂きありがとうございました。




