0063.初仕事
「分かった、分かった。約束すればいいんだろう」
「何が分かったのでしょうか? 心のこもらない口先だけの約束など無いのと同じですよ」
「くっ……嫌がる事はしない。これでいいだろう⁉」
「はい。確かにお約束頂きました。守られなかった場合は、シン様とダーク様に制裁して頂きますので、ご了承下さい」
「マジかよ⁉」
「はい。約束を守ればいいだけですよ。簡単でしょう?」
顔を歪めるヒョウキ様を、さくっと無視してミナモ様が僕達に向き合う。
「不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。今、約束させましたから安心して下さいね。ですが、もしも嫌な事をされたら直ぐに私に言って下さいね? きちんと対処しますから」
「はい! ありがとうございます。良かったね、ヴァンちゃん」
「うむ。――ミナモ様、ありがとうございます。心強いです」
優しく笑って頷いてくれたミナモ様が、不貞腐れているヒョウキ様に声を掛ける。
「ヒョウキ様、仕事が山積みなのでお早くお席に。この子達と触れ合う時間が無くなってしまいますよ?」
「っ‼ そうだな、さっさと終わらせよう。ミナモ、カハルをこちらに。魔力を供給するには体が触れ合っていないと出来ない」
「畏まりました。―――どうでしょう? 紐をもっときつくしますか?」
「大丈夫だ。本当は前に抱っこしたいんだが、仕事しにくいからな」
カハルちゃんをおんぶしたヒョウキ様が黙々と書類仕事を始める。あんな真剣な顔も出来るんだなぁ。
「お二人はこちらにお願い出来ますか? お仕事の説明をしますね」
ヴァンちゃんと一緒に席に着き、説明を聞く。今日は資料作成のお手伝いらしい。高く積まれた書類から必要な数字を探し出し、纏めていく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
黙々とお仕事をこなしていると、シン様が帰って来た。
「お疲れ様。二人共、お家に帰るよ。――ヒョウキ、魔力供給ありがとう」
「ん? そんな時間か。――よいしょっと。ほい」
「はい、ありがとう。何か変化はあった?」
「いや、ずーっと大人しく眠ってたぞ。しばらくは、このままじゃないか?」
「そうだね。――準備出来たみたいだね」
僕達がミナモ様に進み具合を報告して、荷物を背負ってシン様に走り寄って行くと、ちょうど会話が終わったらしい。
「さぁ、帰ろうか。僕の家は次元の間にあるんだよ。移動の魔法を使うから僕に触れていてね。絶対に放しちゃ駄目だよ。異次元に落ちて二度と戻って来られないからね」
怖っ! ダーク様が特殊な場所にあるって言っていたけど、そんな怖い場所にあるとは……。大丈夫かな?
僕とヴァンちゃんは服を軽く掴むのを止めた。シン様の足に、腕と足を巻き付けてしがみ付く。顔を見上げると少しの間、目を見開いていたが、徐々に形のいい唇が弧を描いていき、満面の笑みに変わる。
「うん。ギュッと掴まってね。ヒョウキ、ミナモ、また明日ね」
「あぁ、明日な」
「お気を付けて。ニコちゃん、ヴァンちゃん、お疲れ様でした」
「「お疲れ様です」」
ヒョウキは一生ミナモには敵いませんね。
シンの家に行くには命懸け。合言葉は「ぜ~っっったいに! 離すものか~!!」です。
次話は、新しいお家で珍しい物を見付けます。
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