0062.ミナモ様が最強
「いいか、二人共。カハルは回復の為に、ヒョウキの魔力を分けて貰う事になっている。基本はヒョウキがおんぶするが、会議や外出している時は二人が見る事になる。さっき言われたように、何かあったら全力で逃げるか、俺達を呼べ。どうしても逃げられない時は、これをカハルに飲ませろ」
透明な液体が入った小瓶を受け取る。何だろう? 聖水とかかな?
「カハルちゃんにとって危険な物ですか?」
「危険とまではいかないが、これは魔力を一気に回復させるから、体に負担が掛かるな。出来れば使わずに済ませたい」
「了解です。他に注意点などありますか?」
「そうだな……カハルは大人しく寝ているだろうから、お前達が暇になる筈だ。城の仕事を融通して貰えるように、この国の宰相に頼んである。ヒョウキの手綱をしっかりと握れて、穏やかで面倒見がいい奴だから心配しなくていい。あぁ、そうだ。お前達の昼飯は、この城で用意してくれる。それと、住む場所はシンの家なんだが、特殊な場所にあるから、行き帰りは必ずシンと行動を共にする事になる。後、生活に必要な物は全てシンが用意してくれる。何か質問はあるか?」
「あの、カハルちゃんのお母様は?」
僕の質問にダーク様が一つ瞬きをする。
「そういえば言ってなかったな。カハルに母親はいない。セイという兄が一人いるんだが、今回の戦いのダメージが酷くて治療中だ。回復したら一緒に住む事になると思う。他には何かあるか?」
「いいえ、大丈夫です。ヴァンちゃんは質問ある?」
「大丈夫」
「よし。じゃあ、俺はもう行くから、後は頼んだぞ。――おい、シン、行くぞ」
ダーク様は僕達の頭を撫でると、ヴァンちゃんにカハルちゃんを渡し、僕達に「よろしくね」と手を振るシン様と共に足早に去って行った。
ヒョウキ様と僕達の間に沈黙と緊張が流れる。ヒョウキ様の行動を止めてくれる人はもういない。じりじりとお互いの行動を探りつつ、僕達は見合う。最初に動いたのはヒョウキ様だった。大きく一歩踏み出し手を伸ばして来ようとする、その時――。
「失礼致します」
緊張を緩めるような優しい声が響いた。水色の髪の毛を緩く束ね、瞳は茶色。声と同じように優しい顔立ちと穏やかな雰囲気を持つ人が入って来た。
「おや、可愛い子達がいますね。ヒョウキ様、彼らがダーク様がおっしゃっていた子達ですか?」
「――チッ。あぁ、そうだ。白族のニコと、そっちがヴァンだ。二人共、この男は魔国の宰相でミナモという。仲良くするんだぞ」
「「よろしくお願い致します」」
僕達がお辞儀すると、ミナモ様が笑顔を深くして膝を付き、僕達と視線を合わせてくれる。
「よろしくお願いしますね。この赤ちゃんがカハルさんですか?」
「はい、そうです」
「よく眠っていますね。私にも抱っこさせて貰えませんか?」
ヴァンちゃんは少し躊躇した後、カハルちゃんをミナモ様に渡す。ダーク様のお墨付きがある人だから僕も大丈夫だと思う。
「小さいですね。可愛い……」
とても嬉しそうに笑うミナモ様につられて、僕達も思わずニコニコしてしまう。
「おい、ミナモ、俺も抱っこしたいんだけど」
待ちきれなくなったヒョウキ様が、視線を僕達やカハルちゃんに向けながら催促すると、ミナモ様が僕達を守るように眼前に立つ。
「ヒョウキ様、先程の舌打ちを私が気付いていないとでも? それに、私が部屋の中に入って来た時に、この子達はほっとしていました。きちんと私と、この子達が嫌がる事をしないとお約束して頂けるまで、この子達には近寄らせません。よろしいですね?」
悔しそうに唸るヒョウキ様を見つつ、僕は確信した。ミナモ様が最強だ。この人に付いていれば間違いない、と。
結局、ダークがほとんど説明していますね。お疲れ様です!
残念王様にはしっかり者の宰相様が必要です。
次話は、仕事開始です。
お読み頂きありがとうございました。




