0061.赤ちゃん
「ダーク様、あの赤ちゃんは俺達の知っているカハルちゃんで間違いないですか?」
「本当なら俺が話すんじゃなかったが……まぁ、いいか。あぁ、ヴァンの推測通り、あの赤ん坊がカハルだ」
「カハルちゃんだけ『リセット』されたという事でしょうか?」
「――そこから先は僕が話すね。ごめんね、後先になっちゃって」
シン様が赤ちゃんを抱きながら話に加わってきた。きっちり鉄拳制裁されたヒョウキ様は頭を抱えて痛みに耐えている。残念な王様だ。
「何とか『リセット』は回避できたけど、命を繋いで今の姿にするのが精一杯でね。その後、『世界』に預けて回復して貰っていたんだけど、カハルを預かっている余裕が無くなったって、戻されてしまったんだよ。本当は僕達が落ち着くまで預かって貰えるはずだったから、面倒を見る人間が居なくてね。それで、君達に依頼を出したんだよ」
「という事は、カハルちゃんは記憶を失くしていないのですか?」
「大丈夫。ちゃんとヴァンちゃん達の事を覚えているから」
ヴァンちゃんはコクリと頷くと、カハルちゃんの顔を覗き込む。スヤスヤとよく眠っている。
「シン様、僕達はカハルちゃんのお世話をすればよろしいのですか?」
「うん、世話と護衛をお願いできるかな。出来れば家に住み込みで来てくれる? 僕達はこれから魔物の残党狩りをしなきゃいけないから」
「残党狩り? 魔物はいなくなったと公式発表で出ていましたが……」
ヴァンちゃんがそう言うと、公式発表を出した人が近付いてきた。
「あぁ。動ける魔物が、だけどな。実際の所は封印されている魔物が結構残ってるんだよ。そいつらを全部やっつけたら、ミッションコンプリートってわけ」
なるほど、まだ安全ではないらしい。
「基本的には側に居てくれるだけでいいよ。ご飯もいらないし、おむつも替えなくていい。もしも、魔物とかに襲われたら、反撃せずにカハルを連れて全力で逃げてね。いいかな?」
「はい、全力で逃げます。……あの、シン様、俺達ちゃんとミルクをあげたり、おむつも替えられます。村で小さい子の面倒もよく見ていたので、任せて頂けませんか?」
「あっ、ごめんね、君達が力不足と思っている訳じゃないんだよ。カハルはこの世界からエネルギーを吸収して生きているから、ご飯を食べなくていいんだよ。一応、食べる事も出来るけどね。それで、食べた物は直ぐにエネルギーに変換されてしまうから、排泄する必要がないんだよ」
ぽかーんとしている僕達をニヤニヤと見ていたヒョウキ様が更に驚きの話を続ける。
「俺もシンもダークもそうだぞ。カハルは本体が別の世界にあるからよく眠っているけど、本来なら俺達と同じように眠らなくても生きられる。どうだ、驚いたか?」
「ダーク様、本当ですか?」
「あぁ、記憶を持ちこしている奴は大体そうだな」
「ちょっと、ヴァン、何でダークにいちいち確認するのさ⁉ 俺は嘘付かないぞ。信用しろ、なっ」
ヴァンちゃんが物凄く疑わしそうにヒョウキ様を見やる。その頭を優しく撫でて、シン様が口を開く。
「ヴァンちゃんは正しいよ。ヒョウキはね、仕事している時だけは信用できるけど、他はダメダメだから。ニコちゃんも振り回されないように気を付けるんだよ。無視していいからね」
「ちょっと、何、爽やかな笑顔浮かべて吹き込んでるんだよ! いいか、二人共、最も警戒しなきゃいけないのはシンだぞ。この男は腹黒くて、物凄く意地悪で冷たくて酷いんだぞ。今は猫を被っているだけだからな」
「ダーク、カハルをお願いね。――ヒョウキ、いい度胸じゃない」
言い争いを始めた二人に溜息を吐いて、ダーク様が僕達の目線に合わせ、しゃがみ込む。
カハルも周りも超人だらけです。常識が通用しません。
ヒョウキはシンをよく苛つかせます。
何だかんだ言いつつ一緒に居るので、釣り合いが取れているのかも?
次話は、魔国の宰相が登場です。
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