0060.恐ろしい笑顔の依頼主
「シン、連れて来たぞ。――二人共、あの金髪の長身の男が依頼主だ。挨拶しろ」
「「はい」」
カツカツと靴音をさせてこちらに向かって来るシン様は、金色で緩いウェーブが掛かった腰まである長い髪、エメラルドのような瞳、鼻筋がスッと通っていて唇は少し薄め。物凄く綺麗な顔立ちだ。ダーク様よりも綺麗な人なんて居ないと思っていたけど、ここに居た。
ぽへーと見惚れている間に、すらりと長い長い足が僕の目の前にある。いいなぁ、長い足。悲しくなりながら自分の足をそっと見る。うん、身長が低いからだ、きっと。……そうに決まっている。
「こんにちは。ヴァンちゃんとニコちゃんかな?」
「はい、僕がニコです。ご依頼ありがとうございます。これから三ヶ月よろしくお願い致します」
「うん、よろしく。じゃあ、こちらの君がヴァンちゃんだね。よろしく」
「よろしくお願い致します」
「うん。急な依頼でごめんね。早速仕事の説明をするから、こちらに付いて来てくれるかな」
長い一歩の後を僕達はせかせかと足を動かして付いていく。ダーク様も足長さんだった。軽く一歩で僕らを追い越していく。悲しくなんかないやい……。
きょろきょろと周りに目をやると、闇の国のお城ではないようだ。どこだろ、ここ? ヴァンちゃんも初めての場所かな?
「この部屋に入ってくれるかな。――どうぞ」
シン様が開けてくれた扉は、両開きの大きく重厚なものだった。ダーク様の執務室の扉に似ている。
「「失礼致します」」
礼をして入った部屋はやはり執務室のようだ。大きな暖炉とフカフカの絨毯。大きな机と応接セットに壁一面の棚。歴史を感じさせる重厚なお部屋だ。
部屋の主と思われる人は暖炉の前のソファーに座り、腕には布に包まれた小さな赤ちゃんを抱いていた。
「おう、シンとダークお帰り。お前達が白族か? ちっこくて可愛いな。こっち来い」
ちょいちょいと手招きされて、僕とヴァンちゃんは顔を見合わせる。どうしようと思いながらダーク様を見上げると、肩を竦め首を横に振られた。そんな僕達の様子を見たシン様が溜息を吐く。
「戸惑っているから止めてあげてくれる? それよりも、さっさと自己紹介してくれないと話が進められないのだけれど」
「おっと、そうだった。ほんじゃ自己紹介な。俺はヒョウキ。魔国の王をやっている。よろしく~♪」
軽い。物凄く軽い。本当に王様なのだろうか?
「……本物?」
おっと、ヴァンちゃんから本音が漏れた。……ま、まずい。何とか誤魔化そう。僕も同じ気持ちだけど。
「あ、あの……」
「思いっきり疑われているじゃないか、このアホ……。はぁ、すまんな、二人共。残念だが正真正銘あの男が魔国の王だ」
「そうだぞ。ものすごーく偉いんだ。だから、そのモフモフの毛を撫でさせてくれ! カハルだって触りたいよな? なぁ?」
んっ? 今、赤ちゃんの顔を覗き込んで、カハルちゃんって言った⁉
「そちらの御子は、ヒョウキ様のご息女ですか?」
「ヴァン、良い事言った! よし、俺の子に決定。カハル、大事に育ててやるからな!」
バシッと良い音をさせて、シン様がヒョウキ様の頭を叩く。
「ヒョウキ、随分と口が過ぎるよ? その子は僕の大事な娘だからね。その頭は、すっからかんなのかな? ねぇ?」
そう言うと、シン様が恐ろしい笑顔を浮かべて、ヒョウキ様の頭を鷲掴みにする。ひぃえー、怖いよぉ、帰りたいよー(泣)。
そんな僕の横で、冷静にヴァンちゃんとダーク様が話し始めた。
シンがなぜ居るのか? 最後の戦いは? などは、第四章で語られていく予定です。
ニコちゃんが知っている情報だけで、しばらくお話が進んでいきますので、よろしくお願いします。
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ヒョウキが軽いですね。
城の外で出会ったら誰も王様だとは思いません。ただの軽いお兄さんです。
ニコちゃんが既に帰りたがっています。何とか耐えて~。
次話は、赤子の正体と仕事内容の確認です。
お読み頂きありがとうございました。




