0059.新規依頼
カハルちゃんの無事を聞いた翌日。
まず、今回起きた事への説明が魔国の王から発表された。
『長年続いた魔物との戦いに終止符が打たれた。だが、その際に大規模な魔力衝突が起こった。その為、世界が崩壊寸前になってしまったのは皆の知るところだ。今はどこまで影響が出ているか調査中だ。詳しい事は、また後日発表とする。皆を不安に陥らせた事を心から謝罪する。魔物のいなくなったこの世界をより良いものにする為、尽力する事をここに誓う。そして、どうか皆にも力を貸して欲しい。この愛すべき世界を共に育んでいこう』
この発表により、人々はもう魔物に怯えなくてもよいのだと胸を撫で下ろした。そして、連日発表されていく被害状況――太古の森や洞窟、海域の一部など、元々魔力の濃度が高かった場所は被害が大きかったようで、立入禁止となった。でも、人が立ち入る事など殆ど無い場所ばかりだった為、影響が少ないらしい。
段々と落ち着きを取り戻していく人達を横目に、僕とヴァンちゃんはダーク様からの連絡をじりじりと待っていた。カハルちゃんをこの目で見ない限り、僕達の焦燥感は消えない。
あれから二週間。白族の元には徐々に仕事の依頼が入り、僕とヴァンちゃんも仕事に飛び回る。たまたま仕事の報告がヴァンちゃんと重なった。
「ヴァンちゃん、先に報告していいよ。僕、喉乾いちゃったから先にお水飲んでくるよ」
「すまん。すぐ終わらせる」
「あぁ、二人共いい所に。すみませんが、一緒に来て下さい」
僕とヴァンちゃんは顔を見合わせてミルンさんの部屋に入る。
「二人共、お疲れ様でした。先に報告をお願いできますか?」
「じゃあ、俺から。また来年の今頃に来て欲しいとの要望がありました。後、この店の依頼を受けて貰えないかとの事です」
ヴァンちゃんが書類をミルンさんに渡す。
「ふむ、調査次第ですね。ヴァン、報告をありがとうございます。ニコはどうでしたか?」
「僕の方は要望や紹介はありません。こちら依頼達成の書類です」
「はい、ありがとうございます。――では、本題に入りましょう。二人を名指しで珍しい依頼が入りました。内容は赤子の世話を頼みたいという物です。期限は取り敢えず三ヶ月との事ですが、延長される可能性が高いと思って下さい。報酬は相場の三倍払うとの事です。受けますか?」
ヴァンちゃんが怪訝な顔をしつつ質問する。
「新規ですか?」
「はい、新規です。ですが、ダーク様からのご紹介です」
「えっ⁉ いつ連絡があったんですか?」
「二人が戻って来る少し前です」
「という事は、まだ調査していないにも関わらず依頼を受けると? ルール違反ではないのですか?」
ヴァンちゃんが眉間に皺を寄せている。僕も何かがおかしいと思う。そもそも僕達は大人になっても八十センチ位の身長しかない。ミルンさんは珍しく一メートルあるけれど。はぁ、羨ましい……。
白族をよく知っている人なら赤子の世話を、という発想はしないのではないだろうか?
「そうですね。いくらダーク様のご紹介と言っても調査は必須です。ですが、今回は依頼主ではなく、仕える相手に目を向けるようにと言われました。それと、もう一つ。二人の為に引き受けろと言われました。この二点から、私は調査を必要なしと判断しました」
ヴァンちゃんが沈思している横で僕も考える。ダーク様が僕達に不利益を与えるような事をするとは思えない。それに、ミルンさんが白族の絶対のルールを曲げるだろうか? ――いや、あり得ない。だとすると既に僕達がよく知っている人物という事だ。もしかして――。
ヴァンちゃんと目が合った。まだ何処か不安を抱えながらも、僕達は頷き合う。
「「受けます」」
「――よく言った。さぁ、行くぞ。直ぐに準備しろ」
突然入って来たその人に、僕とヴァンちゃんは目を見開く。
「ダーク様、既に書類は整っております。この子達の荷物もほぼ準備済みです。さぁ、二人共。残りの準備を急ぎなさい」
「俺達が受けると確信していたのですか?」
「はい、必ず受けると思っていましたよ。さぁ、ダーク様をお待たせしているのですから急いで」
何が何だか分からないながらも、僕とヴァンちゃんは自分の部屋に向かう。
えーと、この武器も持って、このお菓子を入れてと。ミルンさんが言っていたように、ほぼ準備が終わっている鞄にガシガシと詰め込む。よし、急げ!
僕が部屋を出るのと同時にヴァンちゃんの部屋の扉も勢いよく開く。僕達は並んで重たい鞄を背中に駆けて行く。途中で村のおばちゃんが「頑張っといで」と手を振ってくれた。
既に外でミルンさんと一緒にダーク様が待っている。
「「お待たせ致しました」」
「いや、急かして悪い。もう少し余裕があるかと思っていたんだが、予想よりも早かった」
首を傾げる僕の頭を撫でてくれたダーク様が、ヴァンちゃんに目をやり苦笑する。
「鼻に皺が寄っているぞ。詳しくはここでは話せない。許せ」
「――承知致しました」
渋々と了承したヴァンちゃんの気持ちは良く分かる。僕はポケットに詰めてきた飴をヴァンちゃんにあげる。
「ヴァンちゃん、これでも食べて。ヴァンちゃんの好きなイチゴ味だよ」
「ありがと」
少し雰囲気が柔らかくなったヴァンちゃんにほっとしつつ、ミルンさんから書類を貰う。
「頑張って来て下さいね。健康には十分気を付けるのですよ」
「はい。しっかりお仕事してきます」
「行ってきます」
「準備はいいようだな。それじゃあ行くぞ。ミルン、助かった。また後で連絡する」
「ダーク様のお役に立てたようで何よりです。ご依頼主様によろしくお伝え下さい」
「あぁ、了解。それじゃあな」
手を振るミルンさんに見送られて、僕達は村を後にした。
ダークは急に現れますね。
ミルンさんは非常に頭がいいです。白族の子達の性格や考えををよく理解していますね。
そして、背が高い。白族の中で一番大きいです。
次話は、超絶美形な依頼主と残念王様が登場です。
お読み頂きありがとうございました。




