0005.国宝の魔法剣
「ごめんね。引っ込ませただけなの。また、すぐに次の攻撃が来るよ」
どれだけ頑丈と、がっくり肩を落とした僕を、女の子が申し訳なさそうに見つつ口を開く。
「ダーク、国宝の魔法剣を貸してもらえる?」
「あぁ、念の為にと思って持ってきている」
そう言いつつ、上着の内ポケットから布に包まれた短剣を取り出す。布が開かれると、柄に大きなルビーが嵌め込まれ、鞘は黒地で細かな金の蔦模様がびっしりと這っている見事な短剣が現れた。
「ほら、持ってみるか?」
「へっ⁉」
僕のガン見に気付いたダーク様が、ニヤリとしながら僕の眼前に短剣を差し出す。
「ム、ムリです。そんな高そうなもの、怖くて持てません」
僕はブンブンと首を振る。本当は、とっても触ってみたいけど、うっかり壊しでもしたらと思うと、手が出なかった。そんな僕を尻目に、武器好きなヴァンちゃんはダーク様に話しかけている。
「持ってみてもいいですか?」
「あぁ」
「ありがとうございます。――ん、意外と軽い」
「抜いてみてもいいぞ」
「では、失礼して」
カチッという音をたてて引き出された刀身は、金色の柔らかい光を放っているように見えた。周りの空気が華やかに感じる。でも、闇の国の国宝らしくないような気がした。同じ事をヴァンちゃんも思ったのか首を傾げている。
「イメージと違うか?」
「はい」
「見た目だけじゃなく、込められた力が半端じゃないから、正反対の力を持つ闇の国で管理しているんだ。そして、魔物に大ダメージを与える事が出来る数少ない武器の内の一つだ」
僕達が喋っている間、結界に手を翳しながら歩いたり、手の平をお椀状にして何かを光らせながら、じっと佇んでいた女の子が戻って来た。そして、ダーク様の言葉に頷き僕達を見回す。
「あのね、聞きたいことがあるの。この中で剣の扱いに長けていて、戦闘力が高い子を教えて欲しいの」
皆が一斉にヴァンちゃんを見る。
「ありがとう。次に戦闘力が高くて俊敏な子は?」
今度は一斉に皆の目が僕を向く。
「えっと、ヴァンちゃんとニコちゃんだよね?」
ヴァンちゃんがコクッと頷く横で、僕は疑問符いっぱいの頭を傾げた。
「さっき呼ばれているのを聞いていて……違った?」
「――あぁ、なるほど。ニコで間違いないです」
またもや不思議な力が⁉ という訳ではなかったらしい。
「良かった……間違えてなくて。二人にお願いしたい事があるの。かなり危険だけど、やって貰えるかな?」
僕とヴァンちゃんは顔を見合わせ、同時にダーク様を仰ぎ見る。
「二人の好きにしていいぞ。断っても構わん。ただし、断るなら白族全員、退避しろ。守る余裕がない」
これだけ戦闘力の高い二人がいて、ギリギリの所だとすると、果たして僕達が役に立つのだろうか? だけど既にこの仕事を受けた時から、最善を尽くして絶対に生きて帰ると僕は決めていた。なら、答えは一つだ。
「「やります」」
僕とヴァンちゃんの声が重なる。思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
「どうやら、考えている事は同じだったな」
「そうだね、ヴァンちゃん」
そんな僕達の頭を、ダーク様がよく言ったとばかりに、わしゃわしゃと撫でてくれた。
ニコちゃんは、お高いものはひたすら回避です。
ドジなので、触ったら壊す可能性が高いのを本人がよく分かっています。
ヴァンちゃんはまたもや、サクッと行動してますね~。
次話は、滅多に怒らないヴァンちゃんが激怒します。
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