0056.伝言
僕はこっそりとヴァンちゃんの部屋を目指す。カチャリとドアを開け、そっとヴァンちゃんのベッドに近付いて行く。よじ登り、ヴァンちゃんの顔を覗き込むと、既に起きていた。
「ニコ、どうした? そんな酷い顔して。何があった?」
「ヴァンちゃん……。カハルちゃんから伝言だよ。『ヴァンちゃんが怒ってくれた時は本当に嬉しかったよ。一緒に居てくれてありがとう』って。それと、大好き、また、会おうねって……」
「そうか……。ペルソナを倒しに行ったんだな?」
「うん。ヴァンちゃんが目覚めたら行く予定だったんだって。本当は、もう少し一緒にいるはずだったけど、魔物が活発化して他の人だけじゃ抑えられないから……」
それ以上は喋れなかった。昨日の涙でバリバリになった頬の上を新たな涙が流れていく。ヴァンちゃんがそっと手を握ってくれた。俯いていた顔を上げると、ヴァンちゃんは天井を見上げて静かに涙を流していた。
僕達はそのまま一緒にくっついて、いつの間にか眠っていた。
優しく撫でられている感触がする。――カハルちゃん⁉
「ここに居たんだね。探したよ、ニコちゃん」
違った……。フォレスト様だった。
「ごめんなさい……」
「あぁ、声がガラガラだ。喉にいい飲み物を作ってあげるね。そうだ、ニコちゃんとヴァンちゃんのお部屋を一緒にしてあげるよ。その方が安心して過ごせるでしょう?」
コクッと頷く僕達を撫でると、廊下に出て声を上げる。
「皆、ニコちゃん居たよ。手の空いている子は、ニコちゃんとヴァンちゃんを同室にする事にしたから、準備をお願いね」
色々な人に迷惑を掛けてしまった。自分の気持ちでいっぱいになり過ぎて配慮に欠けていた。謝って来ないと……。
「ニコちゃん、おはよう。無事で良かった。あぁ、こんなに泣いて……。ヴァンちゃんも、おはよう。二人共、お顔を洗いましょうか」
「精霊さん、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「いいのよ。でもね、今度は一人で抱え込まないで教えて欲しいの。私達はあなた達の心も守ってあげたい。寄り添う事しか出来ないかもしれないけれど、一人よりも心強いでしょう?」
茶目っ気たっぷりな笑顔でウインクされてしまった。
「「ありがとうございます」」
「ふふっ。さぁ、顔を洗って、ご飯を食べましょう!」
「「はいっ」」
心配だけれど、泣くのも悩むのも止めだ。カハルちゃんは僕達の幸せを願って戦ってくれているのだから。
僕を想ってくれる人がいるように、離れていても僕はカハルちゃんの心に寄り添う事は出来る。そうして元気に過ごしながら、僕は信じて待っていればいい。そうでしょう、カハルちゃん?
笑顔でカハルちゃんに「お帰りなさい」を言う為に、僕も強くならなきゃ。
これで第一章は終了です。
精霊さん達は、ニコちゃんが居なくなっていて真っ青です。
散々泣いて、人の優しさに触れた事で心が決まったようですね。
強くならなきゃと思っていますが、既に十分強くて凄い子だと作者は思います。
親バカみたいな感じでしょうか?(笑)
次話は、新章突入です。カハルが居なくなって三ヶ月経った所からお話は始まります。
お読み頂きありがとうございます。
まだまだ続きますので、今後も「NICO&VAN」をよろしくお願いします。




