0052.木苺
「ニコちゃん、おはよう。今日はご飯を食べたら少しお散歩に行こうか」
「やったー、お外! 絶対に行きます」
「ふふっ、了解。じゃあ、いっぱい食べないとね」
「はいっ」
フォレスト様の嬉しい提案を聞いてウキウキしてきた。お外はどんな感じかな?
フォレスト様に抱っこして貰って、移動の魔法でお外に来ました。
魔法凄かった……。フォレスト様が壁に手を翳すと穴が開き、緑の蔦がその穴に向かってうねり、葉を茂らせながら何百本と伸びていく。奥に光が見える緑のトンネルが出来上がると、「じゃあ、行こうか」と実に軽い感じで言われて、思わず頬が引き攣った。そんな僕を見て「怖くないよ?」と撫でてくれたけれど、服をギュッと握ってしまったのは不可抗力だと思う。ヘタレじゃない、はず……。
はぁ、外の空気が美味しい。緑の濃い匂いがする中を少し進むと小さな泉があった。透明度が高いなぁ。
「お魚さんいるかな?」
「残念ながら居ないんだよ」
「お供え物がいっぱいしてありますね」
「無料で診てあげた人とか、なんとか助けて欲しいって頼ってきてくれた人とかがね、置いていってくれるんだよ」
そういえば、カハルちゃんが泉の下にフォレスト様のお家があるって言っていた。もしかして、この下に? というか僕も居たって事だよね……。
「この下に僕の家と病院があるんだよ。水は降って来ないから安心してね」
なぜ、僕の内心がばれているんだろう? そんなに分かり易いのかな……。
「正直者なのは良いことだよ? 僕は嘘つきが大嫌いだから、君みたいな子は大変好ましいよ。僕は職業柄いろいろな人間に会うけど、なんで助けなきゃいけないのかなと思う時が正直あるよ」
静かな横顔を見つめながら、僕は咄嗟に言葉が思い付かなかった。僕も警護に付く相手が誰かを虐げて生きていたのなら、本気で守る事は出来ないかもしれない。
何とか笑顔になって貰いたくて頬擦りしてみる。ふわふわ効くかな?
フォレスト様が目を丸くして僕を見つめる。その後、ふっと力が抜けたように笑ってくれた。良かった~。
「本当に君は可愛いね。――そうだ、お礼に木苺がいっぱい生っている所に案内してあげるよ」
「わーい! 食べます食べますっ」
「ふふっ。じゃあ、出発」
「しゅっぱーつ!」
森の事を説明して貰いながら奥に進んでいく。緑の蔦が絡まり壁のようになった所に到着すると、フォレスト様が表面をさっと撫でる。ガサガサガサと音をたてて蔦が解けると、そこには木苺がいっぱいに生っていた。
「ふぉぉー、こんなにいっぱい生っているのは初めて見ました!」
蔦の壁を閉じたフォレスト様が、幾つか取って僕の口に入れてくれる。
「おいしー! 味が凄く濃いですね」
「僕が改良したんだよ。気に入って貰えて良かった。まだ食べるでしょ?」
「はい。ヴァンちゃんにも持って行ってあげてもいいですか?」
「もちろん。あっ、待って、触っちゃ駄目」
「えっ?」
「その真っ白い手が赤く染まっちゃうよ」
「おぉう、危ない」
慌てて手を引っ込めた僕の頭を撫でてくれたフォレスト様が手際よく摘んでいく。
「入れ物持って来れば良かったな……。ちょっとここで待っててくれるかな。すぐ戻るからね」
そう言って移動の魔法で行ってしまった。クンクンと木苺の匂いを嗅いでいると、本当に直ぐに戻って来た。
「はい、お待たせ。助っ人も連れて来たよ」
「おはよう、ニコちゃん」
「あっ、カハルちゃん! おはようございます。今日も一緒に過ごせるんですか?」
「うん、よろしくね。じゃあ、早速、摘んじゃおう」
二人居るので器がすぐにいっぱいになった。
「いっぱい採れたね。うちの子達にジャムにして貰おうかな」
パンに塗ったら絶対に美味しい! おっと、涎が出ないように気を付けなきゃ。口を両手で抑えながら、カハルちゃんを見上げると何故かプルプルしている。寒いのかな?
「あーっ、もうっ、ニコちゃんはどうしてそんなに可愛いの!」
カハルちゃんが笑いながら僕を抱き上げ頬擦りしてくる。おおぅ、僕も是非お返しをしなければ。
スリスリし合っている僕達の様子を笑いながら見ていたフォレスト様が、カハルちゃんの背に手を当て、そっと促す。
「さぁ、そろそろ帰るよ。ニコちゃんの為にジャムを作らないとね」
「「はーい」」
フォレストは植物を改良したり操ったりするのが得意です。
ニコちゃんにも澄まし顔は出来るんですよ。本当ですよ!
でも、ほとんどの依頼主はそのままのニコちゃんを望みます。面白いので(笑)。
次話は、ダークがお見舞いに来てくれます。
お読み頂きありがとうございました。




