0048.知らない天井
起きると知らない天井だった。
「目が覚めた? どこか痛い所はあるかな?」
「いえ、大丈夫です。ここは何処でしょうか?」
「ここは病院だよ。僕は君の担当医で名前はフォレスト。よろしくね、ニコちゃん」
「よろしくお願いします。――っ、あの、ヴァンちゃんは無事ですか? 何処にいますか? 会わせて下さい! 痛っ――」
「はーい、落ち着いてね。ヴァンちゃんも無事で今、眠っているからね。君にもまだ休息は必要だよ。もうひと眠りしようね」
慌てて起き上がった僕をそっとベッドに横たえると、お布団を掛けてくれる。頭を優しくナデナデされる心地よさに目がトロンとしてきて、僕はそのまま眠気に身を任せた。
二度目の目覚めだ。今、何時かな? お腹空いた……。キューキュー鳴くお腹を撫でて慰めていると、くぐもった声が聞こえてきた。
「ニコちゃんはまだ寝てるの?」
「さっき見た時はスヤスヤと良く眠っていたよ。そろそろ起きているかも」
扉がそっと開かれると、大きなカハルちゃんが顔を覗かせる。
「あっ、起きてる! ニコちゃん、おはよう。体は大丈夫?」
「はい、大丈夫です。カハルちゃんは痛い所ないですか?」
「うん。魔物からエネルギーを吸収したから凄い元気。安心してね」
フォレスト様が会話中に脈や体温を手早く調べていく。
「うん、大丈夫そうだね。さて、病状を説明するね。君の足の骨折と肋骨に数本ヒビが入っていたのは、カハルがほぼ治してあるからね。全部治してあげたいのだけれど、君自身の治癒力が弱くなってしまうからね。それと瘴気の影響がないか暫く観察が必要だね。今から触診するから痛い所を教えてね」
今、地味に痛みに耐えております。涙目の僕の手をギュッと握り、カハルちゃんの方が泣きそうになっている。ここは、なんとか耐えねば。
「ここはどうかな?」
「いったーーー!」
あっけなく陥落しました。うぅ、痛いよぉ。ぐしっと涙を拭っていると控えめに扉がノックされる。
「フォレスト様、ダーク様がいらっしゃいました。如何致しましょうか?」
「この部屋に連れて来てくれるかな」
「はい、畏まりました」
ダーク様が少し疲れた顔で部屋に入ってくる。
「ニコ、体はどうだ? その様子だと痛むな。すまんな、守ってやれなくて」
僕の涙に気付いたダーク様が謝る。慌てて僕は口を挟む。
「そんな事ないです! いっぱい守って頂きました。僕のせいで、あんな大怪我をさせてしまって……。ほとんど攻撃の役にも立てなかったですし、足を引っ張ってしまって、ごめんなさい」
「違うよ、ニコちゃん! 魔物に一番多く傷を負わせたのはニコちゃんなんだよ。そのおかげで毒が魔物の身体に回ったんだから。結界から出られたのも、ニコちゃんが助けくれたからだよ。私、物凄く感謝しているんだからね!」
カハルちゃんが泣きながら僕を抱きしめる。驚いて目をパチパチさせる僕の頭をダーク様がぐりぐりと撫でる。
「魔物の攻撃を返せなかったのは俺の力不足で、お前の所為じゃない。ニコは本当によくやった。偉いぞ。お前自身も自分を褒めろよ? それだけの事をしたんだからな」
カハルちゃんとダーク様の言葉を噛み締める。じわじわと浸透してきた言葉は僕を温かく包み込んでくれた。嬉しさに、僕はカハルちゃんをギュッと抱きしめ返す。だが、忘れていた。
「いっったぁーー!」
「わぁっ、ニコちゃん、しっかりしてっ」
カハルちゃんが慌てて、ナデナデしてくれる傍らで、フォレスト様とダーク様が優しく笑っていた。
カハルは魔力と体力を吸収したので、元気はつらつです。
ニコちゃんは足だけではなく、そこらじゅう傷だらけでしたね。
フォレストは途中から触るのがちょっと楽しくなっているような?
きっと、気のせい……。そうさ、その筈……。
次話は、ミルンさんがお見舞いに来ます。
お読み頂きありがとうございました。




