0047.鏡の魔物との再戦3
「起動」
カハルちゃんの声に反応して、四角い半透明の膜の様な物が空中に浮かび上がる。
「主様、ご指示を」
小さな男の子が膜に映る。カハルちゃんの仲間だろうか?
「エネルギー充填開始」
「了解。――現在、二十パーセント――四十五パーセント」
その声に合わせるように、塔全体が白く輝き始める。カハルちゃんが塔に施した魔法陣が次々に明滅し、放出され始めた光が空中の一点に集中すると、バチバチと音を立てて大きくなっていく。
「九十二パーセント――百パーセント。エネルギー充填完了」
「了解。攻撃対象は闇の糸を纏う魔物」
「検索――対象物、確認致しました。次のご指示を」
「一撃で対象を滅せない場合は、回収したエネルギーを次撃に使用。対象物が消滅した場合は、遺跡に返還。次の指示を待て」
「畏まりました。次の指示まで待機――」
その会話を最後に膜が消える。
「ぐっ、何故だ? 何故、再生しない⁉」
「やっと毒が回って来たか。残念だが二度と再生はしない。俺達全員の武器にお前に有効な毒が塗ってある。俺達も千年の間、無駄に戦ってきた訳じゃないんでな。お前に効く毒を研究し続けたフォレストの粘り勝ちだ。とくと味わえ。それと、お前の魔力と体力は俺達が根こそぎ頂く。最後くらい俺達の役に立ってくれてもいいだろう?」
「おのれ、小賢しい真似をっ! だが、我が負ける事などあり得ぬわ。お前達は惨たらしく散るのだ! ふはははっ」
魔物が狂気に満ちた笑い声を上げ、ブチブチと茨を引き千切り起き上がろうとする。だが、それを遮るようにダーク様が魔法陣に血塗れの手の平を付けると、赤い光が立ち昇る。より多くの茨が魔物に巻き付き、魔法陣中が茨で覆われていく。そして、次々と大輪の薔薇の花を咲かせ始めた。
「カハル、受け取れ!」
ダーク様の声と共に、大量の魔力が魔物から吸い出され、散った花びらの真紅の雨がカハルちゃんに降り注ぐ。苦しんでのたうち回る魔物の体がひと回り縮んだ。
「いっけぇーーー!」
圧倒的な力を宿した眩いばかりの創造主が、剣を上段に構え渾身の力で振り抜いた。打ち出された竜の形をした巨大な炎は、直径二メートルはある空中のバチバチと光る球を難なく口中に納め、一直線に魔物に向かって行く。
「お前達、弱き者に鉄槌を下すのは我だ! 滅びよぉぉぉっ!」
魔物が最後の力を振り絞り、茨を引き千切り立ち上がると、光る球と同じ位の大きさの闇が凝縮された球を打ち出す。
両者の力がぶつかり合い、強い風が巻き起こる。床は抉れ、倒れ込んだ体に大きな振動が伝わってくる。ビシッと壁や天井に亀裂が入り、細かな欠片が落下すると、高速で結界にビシビシとぶつかってくる。
ギリギリと歯を喰いしばる魔物が少しずつ押されていく。
「おのれぇぇぇっーーー! させぬっ、させぬ! させぬわぁぁぁっ!」
グッと魔物が力を込め押し返そうとする中、カハルちゃんが止めとばかりに癒しの光を剣から放つ。後押しされた竜から震え上がるような咆哮が放たれ、更に猛々しさと輝きを増すと、闇の球を喰らい突っ込んでいく。
「……我が、負ける、だと? そのような事が起こ――――ッ――ウガァッ、グアァァァーーーーーー!」
竜に呑み込まれていく魔物が叫びを上げながら、チリジリになり消滅していく。巨大な竜は速度を上げながら、魔物の背後にある魔法陣に勢いよく吸い込まれていった。
静寂が訪れた空間に魔物の姿はない。静かにカハルちゃんが剣を下ろすと、一拍置いて仲間達から喝采が上がった。
「やった! 倒した! 倒したぞーーーっ」
その声を嬉しく聞きながら、限界を迎えた僕は意識を手放した。
これで、鏡の魔物との戦いは終わりです。
(次は外伝集をUPする予定です)
魔法溢れる世界という感じが少しは出せたかな?
ダークの闇の糸は、検索の為でした。
次話は、ニコちゃんが目覚めます。
お読み頂きありがとうございました。




