0046.鏡の魔物との再戦2
「ニコ! ――っ」
ダーク様の声が間近で聞こえたが急速に離れて行く。聞こえて来た呻き声に何とか視線を向け、背筋が凍った。
ダーク様が壁に叩き付けられ、めり込んだまま血塗れで気を失っている。そして、もう一人。
「うぁっ……ぐっ……」
ヴァンちゃんがギリギリと首を絞められていた。近付こうと必死に這いずる僕に気付いた魔物が醜悪な顔で嗤う。
「一緒に逝きたいのかぇ? ふはははっ、させぬわっ。もっと、苦しみ泣き叫べ! 我に嘆きを寄越せぇぇぇっ!」
更にヴァンちゃんの首が絞められていく。僕はそれなのに助ける事も出来ない。溢れそうになる涙を堪え、それでも這って行く。魔物がそんな僕を愉悦に歪んだ顔で見下ろす。
その時、ドンッ、ドンッと大きな音が聞こえてきた。必死な形相のカハルちゃんがヴァンちゃんを見つめながら、内側から物凄い力を加えているのが分かる。だが、結界に歪みが生じてもすぐに戻ってしまう。それでも諦めずに、カハルちゃんが斬撃を放つが、何度やっても破れない。
「カハルよ、碌な魔力も持たない其方が破れる結界ではないわ。そこで絶望しながら見ておれ。今から一人ずつ引き裂いてやるでのぉ。手始めに、この目障りな小童からだ!」
「――さ……せるか。この、阿呆がっ」
気を失っていたダーク様が袖で口元の血をグイッと拭い、ゆっくりと壁から体を起こすと魔物に向かって行く。
「まだ歯向かうか。ほんに、あきらめの悪い男よ。だが、そこが面白いのだ。叩き付けても、叩き付けても起き上がる最高の玩具よ」
ダーク様が眉を顰めて血を吐く。
「黙れ、下郎」
ダーク様の怒りの籠った言葉の直後に、鉤爪で魔物の腕を刺し、必死に抵抗していたヴァンちゃんの手からフッと力が抜けた。その瞬間、手甲鉤の宝石の一つが眩い光を放つ。
「⁉ ウガァァッ、ガッ――」
魔物がヴァンちゃんを放り出し、光によって白煙の上がった顔を掻きむしる。血塗れのダーク様が機を逃さず、第三の目を覆う魔物の右手ごと剣で突き刺す。
魔物の絶叫が響く中、白い球体に包まれたヴァンちゃんがコロコロと僕の目の前に転がって来た。何とか抱きしめて後退っていく。
「トウマ! 最後の仕掛けを壊せっ」
ダーク様の強い声に、ボロボロになったトウマが歯を喰いしばり弾丸を放つと、見事に仕掛けは砕け魔法陣が起動する。
ダーク様が放った回し蹴りを背中に受け、魔物が魔法陣の中心に吹き飛ばされる。バウンドしながら止まった体が床に投げ出された途端、赤い茨が魔物の身体を床に縫い付け、本数を増やし脈打ちながら魔力を吸い出し始めた。
カハルちゃんが点々と配置してくれていた、癒しの力が込められた結界内にヴァンちゃんをそっと降ろし、自分のポケットから札を取り出す。癒しの力によって何とか立ち上がれるようになった僕は、折れた足を引き摺りながら、倒れた仲間達のポケットからも札を回収していく。それを見たトウマがハッとしたように周りの仲間から札を回収して合流する。
内から破れないのなら外側から破ればいい。本当は魔物に使う予定だった強力な魔法が込められた札を次々に結界に貼り付ける。
「カハルちゃん、今壊しますからね」
魔力の練習をしたけど、未だに大量供給しか出来ない僕では、これに魔力を込めたら立ち上がれなくなるだろう。でも、カハルちゃんさえ無事ならきっと勝てる。僕は、それを信じ一気に魔力を流した。
パリーンと高い音を立てて結界が壊れる。解放されたカハルちゃんが、倒れた僕の頭をそっと撫でてくれる。
「絶対に勝つから。ありがとう、ニコちゃん。――トウマ君、後よろしくね」
大きく頷いたトウマが僕を結界内に運び込んでくれた所で、フェイさんが飛び込んで来た。
「主様、遺跡の準備が完了致しました」
「ありがとう、フェイ」
フェイさんが一礼して応えると、凛とした声でカハルちゃんが乞う。
「古の契約に従い、我と共に魔を討ち滅ぼせ! フェイ!」
「御意!」
次の瞬間、フェイさんが赤い光の球になり、カハルちゃんの剣に吸収される。カハルちゃんが剣を一振りすると、シンプルな幅広の剣が赤の輝きを増し、優美に緩く反った刀身に姿を変える。鍔は竜が翼を広げたような形に変化し、柄頭には大きな赤い宝石が燦然と輝く。
ダークもボロボロになってしまいました。
カハルの強い力が一気に放出された事により、魔物にもダメージを与えています。
魔物にとってカハルの力は、ドラキュラに日光のような感じですね。
ニコちゃんをはじめ、白族のみんな良く頑張った!
次話は、反撃に転じます。
お読み頂きありがとうございました。




