0039.もっと僕に優しさを!
「遅くなってしまい大変申し訳ありません。白族のトウマと申します。よろしくお願い致します」
「よろしく。急に呼び出して悪かったな。直ぐに話を始めても問題ないか?」
「はい、大丈夫です。何なりとお申し付け下さい」
トウマが来た事で村がどれだけ本気か分かる。白族の稼ぎ頭トップ3が全員揃った。一位と二位は、僕とヴァンちゃんが常に争っている状態だ。
きっと、そこら中の依頼を断ったり、仲間達が必死に穴埋めしている事だろう。
「魔物を倒すために仕掛けを造る。それを動かす手伝いをしてくれ。トウマは百発百中と聞いたんだが、腕前を見せて貰ってもいいか?」
仲間達が練習用に最高難易度だと言って吊るしていた小さな的をダーク様が指さす。
トウマは頷きパチンコを受け取ると、あっさりと撃ち落とす。それを確認したダーク様が魔法の炎を距離を変えながら次々と作り出す。
「今度はあの炎を撃ってくれるか。当たったら色が変わるようにしてある」
「はい、畏まりました」
トウマは弾を受け取ると、ミスする事無く全ての色を変えた。
「ふむ。次は炎を動かすぞ」
スピードがそれぞれ違う炎が不規則に動く。トウマは初めて少し緊張を見せながら狙いを定め、見事に全てを当てた。
「いい腕だ。これなら安心して任せられるな」
「恐れ入ります」
ダーク様は頷くと、パンと手を叩き皆の注目を集める。
「よし、もういい時間だ。見張りをする班と、風呂と食事を取る班に分かれろ。夜の寝ずの番は俺がする。お前達はゆっくり眠れ。何か質問あるか? ――無いようだな。ミルン達は俺と来い。村に送ってやる。ん? ――少し待て」
宰相様に呼ばれたダーク様が部屋を出て行く。今の内にミルンさんとお話しよう。
「ミルンさん、トウマまで来ちゃって、お仕事大丈夫なんですか?」
「ニコ、大丈夫ですよ。先生達にも依頼を受けて貰って、何とか調整しています」
「えっ、先生達が? それは頼もしいですね」
「ええ。皆さん快く引き受けて下さいました。じっさま達も出るというのを引き止める方が骨が折れました」
「じっさま達の事だから、『わしゃあ、まだまだ現役じゃい。じゃんじゃん仕事をこなして見せるぞい』とか言ってそうですね」
「そうなんです。しかも次から次へと押し掛けてくるんですよ……。熱意はありがたいのですが、勘弁して欲しいと思ってしまいました」
「そんなに何かしたいなら、先生達の代わりに小さい子達の教育をして貰えばいいじゃないですか」
「あっ、トウマ! 久し振り。まさか、トウマが来るとは思わなかったよ」
引っ付こうとする僕をグイグイ押しやりながら、トウマがミルンさんと話す。
「……そうですね。教育をお任せしてしまいましょう。ただ、熱くなり過ぎない様に釘を刺さなければなりませんが」
「それがいいと思います。――おい、ニコ離れろ」
とうとう引っ付く事に成功した僕にトウマが冷たく言う。
「いいじゃんかぁ。少しぐらい」
「ヴァンにくっつけ、ヴァンに。俺は男に引っ付かれる趣味は無い」
「ミルンさん聞きました? トウマが凄く冷たいです」
「なんだ、トウマは冷たいのか?」
戻って来たダーク様が僕の味方になってくれそうだ。
「トウマは照れ屋さんなだけですよ」
ミルンさんが微笑ましそうに言う。それに嫌そうな顔をしてトウマが僕を引き剥がす。あぁ、残念。
「くくっ、ニコ、帰って来たら俺に引っ付かせてやる。カハルも城に泊まり込むから、楽しみにしておけ。ミルン、行くぞ」
帰る子達に手を振りながら、顔がにやける。そっかー、カハルちゃんも一緒かぁ。何をお話しようかな? 楽しみ~。
「おい、ニコ。頭に花を咲かせてないで、ここでの仕事について詳しく教えてくれ。その後、好きなだけにやけろ」
酷い酷いと抗議した後に、トウマに『祈りの歌』を教えたりしていると、あっという間にお風呂と食事の時間だ。
「トウマ、お仕事の話で冷静になっちゃったから、にやけられないよ」
「良かったじゃないか。残念な顔を晒さなくて」
「ブーブー、トウマの意地悪」
「なんだ、またトウマに冷たくされたのか?」
「あっ、ダーク様、お帰りなさい。そうなんです。ものすごーく冷たいんです。もっと僕に優しさを!」
そう言った途端、トウマにデコピンされる。
「ふぎゃっ」
「こら、トウマ。ニコをいじめるな」
休憩から戻って来たヴァンちゃんが僕を守るように手を広げ、前に立ちはだかる。ヴァンちゃんが神々しい! 嬉しさの余り、僕がヴァンちゃんの背中に抱き付くと、おんぶしてくれる。
「おい、ヴァン、ニコを甘やかし過ぎだぞ。もっとビシバシ躾けろ」
「さっき、拳骨した。今日はこれ以上ビシバシしない。ニコがいじける」
トウマが驚いたように目を瞬く。
「トウマ、ヴァンは甘やかすだけはしないぞ。ニコも限度は弁えている。そろそろ休憩に行かないとご飯を食べ損ねるぞ。ほら、ニコも行け。仲良くしろよ?」
ダーク様に急かされて僕とトウマは並んで走り出す。
「ニコ、言い過ぎた……ごめん。――食堂はどっちだ?」
「こっちだよ。トウマのはっきり言ってくれる所、僕は好きだよ」
トウマが照れてそっぽを向く。昔から照れ屋さんなんだよね。ちゃんと優しい気持ちを持っているのを僕は知っている。多少言葉がきつくなっても、態度がそわそわしているから本心じゃないと直ぐに分かる。
不謹慎かもしれないけれど、僕の大好きな人達と過ごせる時間が訪れた事が、とても嬉しかった。
トウマは照れ隠しにキツイ事を言ってしまって、内心ギクッとしている事がよくあります。
(最後にはちゃんと謝ります)
ニコちゃんみたいに正確に分かってくれている子が居て良かったですね。
もっとデレていいんだよ、トウマ~。
次話は、ニコちゃんが、人さらい⁉ なお話です。
お読み頂きありがとうございました。




